あのモデルナが開発、mRNA「がんワクチン」...死亡リスク65%減少は「さらに改善する」とCEOは自信 (msn.com)
1・25・2024
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PETER STARK/GETTY IMAGES
<死亡リスク65%減の報告も。人体に備わった免疫を利用して癌性腫瘍を破壊する仕組みのmRNA癌ワクチンの開発に期待が高まる>
研究者が癌に関する基礎科学の地平線を広げるなか、バイオテクノロジー企業は人体に備わった免疫を動員し、癌と戦おうとしている。
なかでも期待を集めるのが癌ワクチンの開発だ。まずAI(人工知能)を使い、免疫系に認識可能な癌性腫瘍の変異を特定。その上で免疫系が癌性腫瘍を見つけて破壊できるように、患者ごとにカスタマイズした個別化癌ワクチンを作る。
2017年、モデルナは製薬大手メルクと連携し、固形腫瘍を標的とする個別化癌ワクチンの臨床試験を始めている。ワクチンを設計するには患者の正常細胞と癌細胞のDNAの塩基配列を調べ、2つを比較して癌細胞に見られる数百~数千の変異を特定する。続いて強い免疫反応を引き起こす可能性が最も高い34種の変異を、AIを使って選ぶ。
AI学習用の生検サンプルは、大学の医療機関が提供する。AIには免疫学の原理を学ばせ、免疫細胞が最も認識しやすいタンパク質とアミノ酸の特徴を理解させる。
この情報を基に作られた個別化メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンは、体内に入ると免疫反応を誘発。34種の変異のいずれかが見られる細胞を攻撃するよう設計された免疫細胞を体は大量生産する。
新型コロナウイルスのワクチン開発にも使われたmRNAは、細胞に指令を出して腫瘍の目印となるタンパク質を産生させる。十分な量のタンパク質が作られると、免疫系はこれを検知して異物と認定。異物を見つけて破壊する免疫細胞を作り始めるのだ。
転移した癌細胞まで消滅
開発の土台にあるのは「免疫は癌に勝てるという確信」だと、モデルナのステファン・バンセルCEOは本誌に語る。確信の根拠は、健康な人の免疫系は癌細胞が腫瘍になる前に殺しているという単純な事実だ。
「20年前は分からなかったが癌はDNAの病気であり、DNAの変異が原因だ」と、バンセルは説明する。「癌はそれが発生した部位の病気だと、昔は考えられていた。だが腫瘤ができた臓器を見ただけで、その癌を発生させた仕組みは解明できないし、どんな遺伝子が転移や進行に関係しているかも分からない」
6月、モデルナとメルクはステージ3および4の悪性黒色腫患者を対象とした臨床試験についてmRNAワクチンと抗悪性腫瘍剤キイトルーダを併用した場合、遠隔転移や死亡のリスクが65%減少したと報告した。
「効く人と効かない人がいる理由は不明」だが
この数字は今後改善するとバンセルはみる。「ワクチンが効く人と効かない人がいる理由は不明だ。免疫には解明されていないことが多い。だが毎週のように新しい研究が発表されており、私は楽観視している」
サンフランシスコのバイオ企業ジェネンテックはドイツの製薬会社ビオンテックと組んで、個別化癌ワクチンを設計している。癌免疫学部門の副社長アイラ・メルマンらのチームは5月、ネイチャー誌に論文を発表。5年生存率が12%と致死性が高いタイプの膵臓癌患者16人に対するmRNAワクチンの効果を詳解した。
ワクチンは8人の患者の体内で膵臓癌を認識するT細胞を活性化させ、治療から1年半がたった時点で再発はなかった。うち1人のケースでは、T細胞が肝臓に転移した癌細胞まで消滅させたと考えられた。一方、ワクチンに反応しなかった8人は、平均1年余りで癌が再発した。
10月、ジェネンテックは世界の80近い医療機関で第II相臨床試験の被験者260人の募集を始めた。研究の進展とともに、ワクチンの効果は確実に上がっていくだろう。
<本誌2024年1月30日号掲載>
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)