4日目 午後3時半 ~楽園~
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帰りの船まで残り1時間を切ったので、自転車を返却し波照間港フェリーターミナルへと戻ってきた。
駐車場に「部落内徐行」の文字があり一瞬ギョッとしたが、よく考えてみるとこの単語自体は差別用語ではない。
ターミナルに貼ってあった町内会だよりにも「部落対抗ゲートボール大会」の表記があったので、ここの人には「集落」呼びよりも一般的なのかもしれない。
船を待つ間、ターミナルの売店で波照間島限定の黒糖ちんすこう(黒蜜付き)と黒糖チョコレートを購入した。可愛らしいパッケージはお土産にぴったり。
待合所では地元の女性たちが「今日は夏みたいな天気だったね」などと談笑していた。
今日は島民もびっくりの日差しの強さだったらしい。
冬で油断していたが、確かに1日中露出していた腕は日焼けで真っ赤になってしまった。
大満足の最南端日和であった。
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午後4時7分、帰りの高速船が定刻通りに入船し一安心。
乗船待ちをしながら積み込まれる物品を見ていると「黒糖」と書かれた段ボール箱が多い。
さすが製糖所もある波照間島、名産品は他の八重山の島々へ渡っているようだ。
船内へ乗り込むと、乗組員が座席を回りながら「今日はかなり揺れますので酔いそうな人は後ろへ……」としきりに注意喚起しており思わず身構える。
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船は定刻通りの午後4時20分に出港し、波照間港から出ると予告通りの揺れがすぐさま始まった。
主に上下にバウンドするような大きな動きが続き、乗り心地は行きの船の数倍悪い。しかも次第に酷くなっている。時おり船底に波がぶつかる低い音が響き、なかなか迫力がある。
船酔いを心配していたが、見た事のない波のうねりと窓いっぱいの豪快な水しぶきに夢中になってしまい全く問題なかった。
潮まみれの窓から外を眺めていると、相変わらずトビウオが何度も水面に現れ、魚を狙っているのかカツオドリがずっと並走して飛んでいた。
航路の中盤を過ぎると次第に揺れはおさまってきて、比較的快適な船旅を楽しめた。
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午後6時、船は石垣港フェリーターミナルへと到着。無事に石垣島に帰ってくることが出来てよかった。
せっかく南の島にいるのだからと海鮮が食べたくなり、そのまま繁華街へ繰り出しひとり居酒屋へと入る。
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日本4端制覇の記念とばかりに寿司9貫セット(1200円)とオリオンビールのジョッキ(390円)で乾杯。
沖縄ならではのイラブチャー(アオブダイ)の握りがあった。本来は鮮やかなエメラルドグリーンの魚で、寿司ネタでもその色合いがわずかに分かる。
くせのない白身魚だが、イカのようなコリコリとした食感があり初めての体験である。
イラブチャーの隣は大将によるとクロハマダイ(※うろ覚え)で、こちらも沖縄ならでは。
ジョッキ1杯のビールで終わらせたが、空腹に流し込んだためか多少酔ってしまった。
夜風を浴びながら宿に戻り、素晴らしい1日を振り返りながら就寝した。
2024年1月18日(最終日)
旅も5日目、とうとう最終日である。あとは北海道へ帰るだけだ。
午後0時15分発の飛行機で石垣島を発つが、まずはユーグレナモールで最後のお土産選びをしたいので午前8時に起床した。
おととい夜ご飯に連れて行ってくれた長期滞在のおじさんに最後のあいさつをし、ロビーへ行くと、オーナーのおじぃが併設の厨房にいらっしゃった。
勉強合宿で高校生のグループが滞在しているそうで、お得意の八重山そばを振舞っていたようだ。
「波照間は楽しめた?夏の石垣島も楽しいから、またおいでよ」。寝泊まりスタッフのおじさんと共に、相変わらず人のよさそうな笑顔で送り出してくれた。
地元での評判や口コミを拝見するに、この宿泊施設はおじぃの人柄で広く愛され支えられているようだった。
愉快な旅の思い出をくれたことに感謝しよう。
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宿を出るときに北海道の寒さの話になり、スタッフと談笑していた地元民のおじぃに「恐ろしい場所へ帰るなぁ」と言われた。
こっちの人々は、島を出ない限りマイナスの気温はまず体験しないだろうな。
大変羨ましいが、暑がりの私には沖縄の湿度が辛いだろうな……などと考えながら繁華街まで歩いた。
この日は朝からどんより曇り空。観光する日じゃなくてよかった。
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開店直後のユーグレナモールで酒類を買い込んだ後、石垣港のバスターミナルから空港行きバスに乗り午前10時15分に石垣空港着。
空港内のファミマで沖縄限定のポークおにぎりとさんぴん茶を買い、最後の沖縄めしを楽しんだ。
待ち時間に荷物の重量を確認すると、ピーチにて無料で持ち込める7キロをわずかにオーバーしていたが、かばんに仕舞っていた上着を着込むと700グラム差でギリギリOK。
危なかった。お土産の酒をあと1本買っていたらアウトだったかも。
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午後0時15分発のピーチMM532便で成田空港へ。
午後3時に成田着、空港内で時間をつぶし、すっかり暗くなった午後5時35分発のピーチMM577便で北海道・新千歳へ。
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午後7時半、ようやく帰ってきた新千歳空港は出発時と変わらず雪が舞っており、発着がやや乱れていた。前日は寒波の影響で大混乱だったようだから、1日違いで回避できたのは運が良かった。
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雪だ……。
久々に見る気がする冬景色に、年甲斐も無く感動してしまった。
波照間島のヒマワリ畑やニシ浜の風景を思い出しながら、南北でここまで風景が違うのかと改めて驚く。
バスで苫小牧市内へ帰ると、よりによってこの街では珍しいくらいの積雪量で現実へと引き戻される。
沖縄は間違いなく別世界で、楽園のようだった。
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という事で、三十路記念の旅と称した与那国島、波照間島への旅は無事に終了した。
歴代最長の移動距離に「最果ての離島」というロマンあふれる目的地。刺激的な旅になるのは予め約束されていたが、それに加え今回は道中での出会いに恵まれたと思う。
予想外の展開や思わぬ交流でのわくわく感は学生に戻ったかのような瑞々しさで、30歳のおじさんでもまだこんな感情になれるのだなぁと嬉しくなった。
やはり旅は良い。これからも時間を見つけて行きたいところへ行こう。
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2014年8月 最北端・稚内 宗谷岬(自転車)
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2022年5月 最東端・根室 納沙布岬(自家用車)
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2024年1月 最西端・与那国島 西崎(飛行機と自転車)
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2024年1月 最南端・波照間島 高那崎(飛行機と船と自転車)
2024年冬、
三十路記念の旅 西と南の果てへ
完。
※旅費合計:103,826円(お土産代を除く)
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帰りの船まで残り1時間を切ったので、自転車を返却し波照間港フェリーターミナルへと戻ってきた。
駐車場に「部落内徐行」の文字があり一瞬ギョッとしたが、よく考えてみるとこの単語自体は差別用語ではない。
ターミナルに貼ってあった町内会だよりにも「部落対抗ゲートボール大会」の表記があったので、ここの人には「集落」呼びよりも一般的なのかもしれない。
船を待つ間、ターミナルの売店で波照間島限定の黒糖ちんすこう(黒蜜付き)と黒糖チョコレートを購入した。可愛らしいパッケージはお土産にぴったり。
待合所では地元の女性たちが「今日は夏みたいな天気だったね」などと談笑していた。
今日は島民もびっくりの日差しの強さだったらしい。
冬で油断していたが、確かに1日中露出していた腕は日焼けで真っ赤になってしまった。
大満足の最南端日和であった。
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午後4時7分、帰りの高速船が定刻通りに入船し一安心。
乗船待ちをしながら積み込まれる物品を見ていると「黒糖」と書かれた段ボール箱が多い。
さすが製糖所もある波照間島、名産品は他の八重山の島々へ渡っているようだ。
船内へ乗り込むと、乗組員が座席を回りながら「今日はかなり揺れますので酔いそうな人は後ろへ……」としきりに注意喚起しており思わず身構える。
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船は定刻通りの午後4時20分に出港し、波照間港から出ると予告通りの揺れがすぐさま始まった。
主に上下にバウンドするような大きな動きが続き、乗り心地は行きの船の数倍悪い。しかも次第に酷くなっている。時おり船底に波がぶつかる低い音が響き、なかなか迫力がある。
船酔いを心配していたが、見た事のない波のうねりと窓いっぱいの豪快な水しぶきに夢中になってしまい全く問題なかった。
潮まみれの窓から外を眺めていると、相変わらずトビウオが何度も水面に現れ、魚を狙っているのかカツオドリがずっと並走して飛んでいた。
航路の中盤を過ぎると次第に揺れはおさまってきて、比較的快適な船旅を楽しめた。
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午後6時、船は石垣港フェリーターミナルへと到着。無事に石垣島に帰ってくることが出来てよかった。
せっかく南の島にいるのだからと海鮮が食べたくなり、そのまま繁華街へ繰り出しひとり居酒屋へと入る。
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日本4端制覇の記念とばかりに寿司9貫セット(1200円)とオリオンビールのジョッキ(390円)で乾杯。
沖縄ならではのイラブチャー(アオブダイ)の握りがあった。本来は鮮やかなエメラルドグリーンの魚で、寿司ネタでもその色合いがわずかに分かる。
くせのない白身魚だが、イカのようなコリコリとした食感があり初めての体験である。
イラブチャーの隣は大将によるとクロハマダイ(※うろ覚え)で、こちらも沖縄ならでは。
ジョッキ1杯のビールで終わらせたが、空腹に流し込んだためか多少酔ってしまった。
夜風を浴びながら宿に戻り、素晴らしい1日を振り返りながら就寝した。
2024年1月18日(最終日)
旅も5日目、とうとう最終日である。あとは北海道へ帰るだけだ。
午後0時15分発の飛行機で石垣島を発つが、まずはユーグレナモールで最後のお土産選びをしたいので午前8時に起床した。
おととい夜ご飯に連れて行ってくれた長期滞在のおじさんに最後のあいさつをし、ロビーへ行くと、オーナーのおじぃが併設の厨房にいらっしゃった。
勉強合宿で高校生のグループが滞在しているそうで、お得意の八重山そばを振舞っていたようだ。
「波照間は楽しめた?夏の石垣島も楽しいから、またおいでよ」。寝泊まりスタッフのおじさんと共に、相変わらず人のよさそうな笑顔で送り出してくれた。
地元での評判や口コミを拝見するに、この宿泊施設はおじぃの人柄で広く愛され支えられているようだった。
愉快な旅の思い出をくれたことに感謝しよう。
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宿を出るときに北海道の寒さの話になり、スタッフと談笑していた地元民のおじぃに「恐ろしい場所へ帰るなぁ」と言われた。
こっちの人々は、島を出ない限りマイナスの気温はまず体験しないだろうな。
大変羨ましいが、暑がりの私には沖縄の湿度が辛いだろうな……などと考えながら繁華街まで歩いた。
この日は朝からどんより曇り空。観光する日じゃなくてよかった。
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開店直後のユーグレナモールで酒類を買い込んだ後、石垣港のバスターミナルから空港行きバスに乗り午前10時15分に石垣空港着。
空港内のファミマで沖縄限定のポークおにぎりとさんぴん茶を買い、最後の沖縄めしを楽しんだ。
待ち時間に荷物の重量を確認すると、ピーチにて無料で持ち込める7キロをわずかにオーバーしていたが、かばんに仕舞っていた上着を着込むと700グラム差でギリギリOK。
危なかった。お土産の酒をあと1本買っていたらアウトだったかも。
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午後0時15分発のピーチMM532便で成田空港へ。
午後3時に成田着、空港内で時間をつぶし、すっかり暗くなった午後5時35分発のピーチMM577便で北海道・新千歳へ。
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午後7時半、ようやく帰ってきた新千歳空港は出発時と変わらず雪が舞っており、発着がやや乱れていた。前日は寒波の影響で大混乱だったようだから、1日違いで回避できたのは運が良かった。
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久々に見る気がする冬景色に、年甲斐も無く感動してしまった。
波照間島のヒマワリ畑やニシ浜の風景を思い出しながら、南北でここまで風景が違うのかと改めて驚く。
バスで苫小牧市内へ帰ると、よりによってこの街では珍しいくらいの積雪量で現実へと引き戻される。
沖縄は間違いなく別世界で、楽園のようだった。
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歴代最長の移動距離に「最果ての離島」というロマンあふれる目的地。刺激的な旅になるのは予め約束されていたが、それに加え今回は道中での出会いに恵まれたと思う。
予想外の展開や思わぬ交流でのわくわく感は学生に戻ったかのような瑞々しさで、30歳のおじさんでもまだこんな感情になれるのだなぁと嬉しくなった。
やはり旅は良い。これからも時間を見つけて行きたいところへ行こう。
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2014年8月 最北端・稚内 宗谷岬(自転車)
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2022年5月 最東端・根室 納沙布岬(自家用車)
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2024年1月 最西端・与那国島 西崎(飛行機と自転車)
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2024年1月 最南端・波照間島 高那崎(飛行機と船と自転車)
2024年冬、
三十路記念の旅 西と南の果てへ
完。
※旅費合計:103,826円(お土産代を除く)