鴨長明方丈記之抄 日野の庵
今、日野山の奥に跡を隠して、南に仮の日隠しをさし出 だして、竹のすのこを敷き、その物に閼伽棚を作り、中 には西の垣に添て、阿弥陀の画像を安置し奉りて、落日 を請て、眉間の...
鴨長明方丈記之抄 大原出家
全て、あらぬ世を念じ過しつつ、心を悩ませることは、 三十余年なり。その間、折々のたがひめに、自ずから、 短き運を悟りぬ。 すなはち、五十の春を迎へて、家を出で、世を背けり...
鴨長明方丈記之抄 世の有りにくき事
すべて、世の有りにくき事、我が身と栖との、はかなく、 あだなる樣、かくの如し。いはんや、所により、身の程 に従ひて、心を悩ます事、あげてかぞふべからず。 もし、...
鴨長明方丈記之抄 元暦の大地震
又、元暦二年のころ、大なゐ震る事侍き。その樣、常な らず。山崩れて、川を埋み、海かたぶきて、陸(くが) をひたせり。土裂けて、水湧き上がり、巌割れて、谷に まろび入る。渚...
鴨長明方丈記之抄 養和の飢饉
又、養和のころかとよ。久しくなりて、確かにも覚えず。 二年が間、飢渇して、浅ましき事侍き。或は、春夏ひで り、或は、秋冬大風大水など、よからぬ事ども打つづき、 五穀悉...
鴨長明方丈記之抄 福原遷都
又、同じ年の水無月のころ、にはかに都遷り侍りき。い と思ひの外なりし事なり。 大方、この京の始めを聞けば、嵯峨天皇の御時、都と定 まりにけるより後、既に数百歳を経たり。事...
鴨長明方丈記之抄 治承の辻風
又、治承四年卯月廿九日のころ、中御門京極の程より、 大なる辻風起りて、六条わたりまで、いかめしく吹きけ る事侍き。 三四町をかけて吹きまくる間に、その中に籠れる家ど...
鴨長明方丈記之抄 安元の大火
凡そ、物の心を知れりしより、四十余りの春秋を送る間 に、世の不思議を見るを、ややたびたびになりぬ。 去(きやつ)安元三年四月廿八日かとよ。風激しく吹て、 静かならざ...
鴨長明方丈記之抄 序
鴨長明方丈記之抄(嵯峨本系) 行川の流れは絶ずして、しかももとの水にあらず。淀み に浮かぶ泡沫は、かつ消え、か...
鴨長明方丈記之抄 余算山の端4 自ら悩ますか
悩ますか。将又妄心のいたりてくるはせ るか其時心更に答ふることなしたゞ、 傍に舌根をやとひて不惜の念佛 兩三反を申てやみぬ。時に建暦の二 とせ弥生の晦比桑門蓮胤外山 ...