
鴨長明方丈記之抄 日野の庵6 落穂を拾ひて
落穂をひろひてほぐみをつくる。若 日うらゝかなれば嶺によぢ上りて遙 に故郷の空を望み木幡山伏見の 里鳥羽羽束師を見る。勝地は主 なければ、心をなぐさむるに障なし。あ...

鴨長明方丈記之抄 日野の庵5 芸はこれ拙ければ
つる。藝はこれつたなければ、人の耳 を悦ばしめんとにもあらず。ひとりしら べひとり詠じてみづから心をやしなふ 斗也。又麓に一の柴の庵あり則此 山守が居るところ也。かしこ...

鴨長明方丈記之抄 日野の庵4 友も無し
友もなし。殊更に無言をせざれども、ひ とりをれは口業をおさめつべし。かならす 禁戒を守るとしもなけれ共、境界 なければ何に付てかやぶらん。若跡の 白波に身をよ...

鴨長明方丈記之抄 日野の庵3 葛跡を埋めり
かづら跡をうづめり。谷しげけれど西は 晴たり。観念のたよりなきにしも あらず。春は藤波を見る。紫雲の ごとくして西の方に匂ふ。夏は時鳥 をきく。かたらふごとにしでの...

鴨長明方丈記之抄 日野の庵2 東にそへて蕨のほどろを
東にそへてわらびのほどろをしき、つか なみを敷て夜の床とす。東の垣に 窓をあけて爰にふつくゑをつくり出 せり。枕のかたに、すびつあり。これを柴折 くぶるよすがとす。庵の...

鴨長明方丈記之抄 日野の庵1 南に仮の日隠しを
をかくして、南に假の日がくしをさし出し て、竹のすのこをしき其物に閼伽棚を 作り中には西の垣に添て阿弥陀 の畫像を安置し奉りて落日を請 て眉間の光とす彼帳のとびら...

鴨長明方丈記之抄 大原出家2 又百分が一に及ばず
ふれば、又百分が一だにも及ばすと。かく いふ程に齢はとし/"\にかたぶき、すみかは折〃 にせばし。其家の有様よのつねならず。ひ ろさはわづかに方丈、たかさは七尺がうち也。...

鴨長明方丈記之抄 大原出家1 その間折々の違ひ目に
なり。其間折々のたがひめに、をのづから みじかき運をさとりぬ。すなはち五十 の春をむかへて家を出世をそむけり もとより妻子なけれは捨てがたきよすがも なし。身に官禄...

鴨長明方丈記之抄 世の有にくき事3 遂に跡止むる事
りしかば、つゐに跡とむることを得ずして 三十餘にして更に我心と一の庵を結ぶ 是を有し住居になずらふるに十分が 一なりたゞ居屋ばかりをかまへて、はか/"\ しくは、屋...

鴨長明方丈記之抄 世の有にくき事2 勢ひ有者は
がたし。いきおひ有者は貪欲ふかく、ひ とり身なるものは人にかるしめらる。寶 あればおそれおほく、貧しければ歎切 也。人をたのめば身他のやつことなり、人 をはごくめば、心...