万葉集巻第二
皇子尊宮舎人等慟傷作歌廿三首
177
朝日弖流 【佐太乃岡邊】尓 群居乍 吾等哭涙 息時毛無
朝日照る佐田の岡辺に群れ居つつ我が泣く涙やむ時もなし
178
御立為之 嶋乎見時 庭多泉 流涙 止曽金鶴
み立たしの島を見る時にはたづみ流るる涙止めぞかねつる
179
【橘】之 【嶋宮】尓者 不飽鴨 【佐田乃岡邊】尓 侍宿為尓徃
【橘】の【嶋の宮】には飽かぬかも【佐田の岡辺】に侍宿しに行く
180
御立為之 【嶋】乎母家跡 住鳥毛 荒備勿行 年替左右
み立たしの【島】をも家と棲む鳥も荒びな行きそ年かはるまで
181
御立為之 嶋之荒礒乎 今見者 不生有之草 生尓来鴨
み立たしの島の荒礒を今見れば生ひざりし草生ひにけるかも
182
鳥○立 飼之鴈乃兒 栖立去者 【檀岡】尓 飛反来年
鳥座立て飼ひし雁の子巣立ちなば【真弓の岡】に飛び帰り来ね
右日本紀曰 三年己丑夏四月癸未朔乙未薨