万葉集巻第二
皇子尊宮舎人等慟傷作歌廿三首
183
吾御門 千代常登婆尓 将榮等 念而有之 吾志悲毛
我が御門千代とことばに栄えむと思ひてありし我れし悲しも
184
東乃 【多藝能御門】尓 雖伺侍 昨日毛今日毛 召言毛無
東の【たぎの御門】に侍へど昨日も今日も召す言もなし
185
水傳 【礒乃浦廻】乃 石上乍自 木丘開道乎 又将見鴨
水伝ふ【礒の浦廻】の岩つつじ茂く咲く道をまたも見むかも
186
一日者 千遍参入之 東乃 大寸御門乎 入不勝鴨
一日には千たび参りし東の大き御門を入りかてぬかも
187
所由無 【佐太乃岡邊】尓 反居者 【嶋御橋】尓 誰加住○無
つれもなき【佐田の岡辺】に帰り居ば【島の御階】に誰れか住まはむ
188
旦覆 日之入去者 御立之 【嶋】尓下座而 嘆鶴鴨
朝ぐもり日の入り行けばみ立たしの【島】に下り居て嘆きつるかも
右日本紀曰 三年己丑夏四月癸未朔乙未薨