侍らじ。
七百八十九番
左 小侍従
なるこひく鳥羽田のおもの夕まぐれいろ/\にこそかぜもみえけれ
右 三宮
影やどすきしのしら菊さきしよりそこに秋あるたに川の水
とばたのおものゆふべのいろ/\は稲花遠望にこ
そはとは見え侍れどなるこひくによりてかぜの
いろ/\に見えむやうにや聞え侍らむ。
かげやどすきしのしら菊はそこに秋あることはりかな
ひて侍べし。
七百九十番
左 隆信朝臣
をみなへしたゞ一えだの名殘さへいまはあらしのかぜわたるなり
右 内大臣
秋きては夢のまくらややそに見む月夜はよしとてうちもふさずは
をみなへしたゞ一枝の名残なにごとにか侍らむその
ゆへあらばゆふにも侍べし。
しきたへのまくらのちりつもりてまたずしもあら
ぬ月にふさぬこゝろはいとおかしくこそ侍めれ。
侍らじ。
七百八十九番
左 小侍従
鳴子引く鳥羽田の面の夕まぐれ色々にこそ風も見えけれ
右 三宮
影宿す岸の白菊咲きしよりそこに秋ある谷川の水
鳥羽田の面の夕べの色々は、稲花遠望にこそはとは
見え侍れど、鳴子引くによりて風の色々に見えむや
うにや聞こえ侍らむ。
影宿す岸の白菊は、そこに秋ある理りかなひて侍る
べし。
七百九十番
左 隆信朝臣
女郎花ただ一枝の名殘さへ今は嵐の風渡るなり
右 内大臣
秋來ては夢の枕やよそに見む月夜よしとて打ちも臥さずは
女郎花ただ一枝の名残、何事にか侍らむ。その故あ
らば優にも侍るべし。
敷栲の枕の塵積もりて、待たずしもあらぬ月に臥さ
ぬ心は、いとおかしくこそ侍るめれ。
建仁二年(1202)9月2日後鳥羽院より30名の歌人に百首歌を奉じさせ、75首を一巻として、一人二巻、十人の判者に判じさせ、翌年3月完成したペーパー上の歌合。判者は、春1,2を忠良、春3,4を俊成、夏1,2を通親、夏3,秋1を良経、秋2,3を後鳥羽、秋4,冬1を定家、冬2,3を季経、祝,恋1を師光、恋2,3を顕昭、雑1,2を慈円とした。通親は途中10月21日没したため、関係部分は未完。
令和4年12月6日 壱點伍