■■■■■■■ファーブル昆虫記を読む■■■■■■■
北條俊彦
経営コンサルタント・前 住友電工タイ社長
■■「ファーブル昆虫記を読む」■■
🔵自然豊かな西播磨の地で暮らし始めて、最近色んな事
に気づかされる。見るもの全てが新鮮で,実に興味深く,ま
た、日々新しい発見に驚かされている。
今朝,庭で『ダイコクコガネ』が鹿の糞を一生懸命巣穴に
運び込むところを偶然見つけたのが, 体長2㌢〜3㌢程の
糞虫である。糞虫(ふんちゅう)とは動物の糞を餌とする
コガネムシ科の昆虫の総称である。
(写真)ダイコクコガネと鹿の糞:我が家の庭で撮影
(写真)ダイコクコガネと鹿の糞:我が家の庭で撮影
ダイフクコガネは、糞を転がし糞球をつくるフンコロガシ
ではないらしく, 動物の糞をそのまま巣穴に運びこみ、糞
に含まれている腸内壁のカスや腸内細菌を餌としているそ
うだ。そして、彼らによって分解された糞の繊維質は土に
帰って行く。
日本に多くの糞虫が存在するが、奈良公園では,唯一のフン
コロガシ『マメダルマコガネ』が活躍中である。
体長2〜3㍉程度でしかないが、体長よりも大きな鹿の糞
玉を作り、転がし,中に産卵するのである。彼らそのような
行動により、蠅の発生が抑えられ、糞の土への自然循環が
早まるのである。
子供の頃, ファーブルの『昆虫記』を何度も読み返した。
最初に登場するフンコロガシの行動についての観察記は、
とても興味深いもので, 今もはっきりと覚えている。私の
記憶では、仏蘭西プロバンス地方のフンコロガシは放牧さ
れている牛などの糞を大きな球体にし、逆立ちの状態で後
ろ足を使って球体化させた糞を転がすという独特の行動を
とる。
糞を見つけると、先ず彼らは頭部先端部の突起を使って糞
を切り出す。そして後足で糞を球体に整え, 更に 切り取っ
た糞を前足で球体に付け足していく作業を繰り返すことで
大きな球体にして行くのである。
フンコロガシは, スカラベ(スカラベは昆虫類コガネムシ
科タマオシコガネ属の語源で古代エジプト語)とも呼ばれ、
その種類は約3万種にのぼる。
体長は種によって0.2㌢〜17㌢とまちまちであるが、総
じて自分の身体の何倍もの大きさの糞球を独力で作りあげ
るのだ。尚、古代エジプト人は糞球を太陽に見立てスカラ
ベを太陽神ケプリと見なしていた。
🔵『昆虫記』の著者フランスの博物学者ジャン・アンリ・
ファーブルは, 昆虫の行動研究の先駆者であり彼の研究成
果(虫の習性)をまとめたものが『(ファーブル)昆虫記』
である。
(写真)フアーブル:出典ameba欲のない学者フアーブル昆虫記
彼は,1823年南フランスのサン・レオンに生まれる。
深い愛情と長期に亘る努力と忍耐で昆虫を観察、そして推
論と実験を重ね昆虫の本能と習性をつきとめようとした。
また、どのような小さな命にも其々の役割と意義があると
の信念に基づき、昆虫という多様な生き物の命の営みを探
究し続けた。昆虫の観察から知り得た客観的事実と研究成
果の一つ「アラメジカバチの観察と実験の違い」から『昆
虫の本能は進化するものでも、後に獲得されるものでもな
く元々備わったものである。』としてダーウインの「進化
論」に真っ向から異を唱えた。
敬虔なカトリック教徒でもあったファーブルはあらゆる命
の基盤となる「神が与え給うた自然と生物の多様性」を維
持することが如何に大切であるか読者に訴えてたのである。
(写真)ダーウイン:出典英音研
生物の多様性にとって 不可欠な構成要素である昆虫は, 植
物の花粉を媒介し 受精を促す。また 他の昆虫や 動物の食
物連鎖を支える貴重な食資源ともなる。そして生物的防除
(バイオコントロール)による植物の病虫害や雑草の防除
の役割をも担う。
それだけでなく有機物を分解することで水域浄化や土壌肥
沃の維持を行ってくれるなど、生態系におけるインフラ基
盤を支えてくれているのだ。
更には、昆虫の知的行動、即ちAIでも難しいとされる状況
認識や判断を瞬時に行う昆虫脳など、驚くべき昆虫の知能
を先端技術に応用するための研究も進む。
蛇足だが、食糧自給率を含め「食の安全保障」などお構
いなしの愚かな我が国の政治家達は、欧米では使わない危
険な農薬を使わされ、更には“高タンパクで有益”だと「昆
虫食」というものを国民に薦めようとする。ワクチン、薬
剤、農薬そして食糧と日本人は米国のモルモットではない。
そんなものは河野蟋蟀デジタル担当大臣にでも食わせてお
けば良いではないか。
🔵話を戻すが、最近,糞を食べ糞の中に産卵するフンコロ
ガシなどの糞虫は温室効果ガスによる地球温暖化に対抗で
きる一つの有効な手段として大いに期待されているらしい。
農畜産業が排出する温室効果ガスの半分が メタンであり、
大型反芻動物のゲップやオナラ、そして糞を通じて排出さ
れ、世界のメタン排出量の約3分の1を占める。またメタ
ンはCO2以上に温室効果が高いといわれている。
既に、牧草地における糞虫の活動によるメタン発生量削減
効果を検証する実験も行われている。その答えはYesで, 発
生量は明らかに減っているらしい。
そのメカニズムは、糞虫やその幼虫が糞球の中に穴を掘る
(或いは、食する)ことでメタンガスの発生そのものが抑
えられているのである。
しかし、逆に亜酸化窒素の発生量が増加することも分かっ
ており、トータルでどの程度の削減効果があるかの検証が
今後の課題だそうだ。ただ、自然環境の破壊による糞虫の
激減(絶滅危惧種もあり)や大型反芻動物の飼育方法の変
化(人エ建屋内による飼育)等の自然循環システムそのも
のが、大きく損なわれつつあることを認識しておく必要が
ある。
🔵最終的には、やはり人の意識や 生活様式を変えなけれ
ば、効果的な対策にならないであろう。人口の爆発的増加
により、人が自然との共生をやめた時点で、都市化と経済
優先の地域開発により自然環境は大きく損なわれてしまっ
た。
森林開発や地球温暖化も相まって、野生動物(含昆虫)の
生息域も縮小し、人と野生動物の距離も縮まっている。
獣害被害、そしてコロナ等頻発する新興感染症などは野生
動物と共存するウイルスがその調和を乱され、人社会に入
り込んできた結果であろう。
いまだに物質文明にどっぷりと浸かり、個人も国家も唯物
主義と自己欲求の充足のみを追求、また、国際社会では大
国の力によるエゴが罷り通る。その独善的な行動は世界中
に紛争の火種を撒き散らし、環境破壊を続けているのが現
実である。
宗教と民族の対立、そして領土問題や主義主張の違いによ
る戦争もいまだ止むことがない。そして今、環境問題は国
家の利権と金儲けの方便と化している。これで人は本当に
進化してきたのだろうか?
AI技術の急速な進化によりシンギュラリテイが現実視され
つつある今こそ、「人としての心や精神の成長」について
世界各国で真摯に議論すべき時ではないか。
『昆虫記』は「どんな命にもそれぞれの役割と意義がある。
人は生物の多様性と昆虫の力強さ、懸命さそして謙虚さに
学び、命への真摯な眼差し、そして優しさと愛情を心の中
にしっかり養うように。』とのファーブルのメッセージで
ある。
🔵養老孟司は次のように述べている。
『命の大切さといった問題は、現代社会と深い関係がある。
現代社会は都市社会、つまり人間の作ったものしかない意
識による世界である。人間の意識はものを同じにしていく
働きを持つので、都市化が進めば単調化し多様性を認めな
い社会となる。
多様性を認めない都会の人の考え方ではかけがえのない命、
命の大切さという言葉は、空(カラ)の言葉にしか聞こえ
ない。
命の大切さということを子供に直接解くよりは、例えば虫
捕りを子供に勝手にやらせてみる。だんだんいろんな虫が
いることに子供たちは気づいてくる。いろんな虫がいると
言う生物の多様性に気付かせるようにする。
感覚で捉えられるものはみんな違うものであるということ
を、子供たちに教えるというより、どのように身につけさ
せるかを考える必要がある。』
やはり自然環境に負荷をかけないようバランスを考えた社
会の再構築が必要であろう。都市型インフラの過剰な整備
による都市化や人口集密は環境問題に対してより脆弱とな
るため、都市と地方のバランスを考慮し、よりコンパクト
で自然環境と共生できる地方や地域の開発を進めてほしい。
例えば、太陽光発電事業開発は自然の景観を損ねるだけで
はなく、立地造成、或いは熱放射による自然破壊など各地
で二次災害を引き起こしている。老朽化した太陽光パネル
は環境負荷物質として産廃処理は極めて困難である。
(写真)静岡県熱海市土石流 出典:アフロ、AFP
(写真)静岡県熱海市土石流 出典:毎日新聞、AFP
🔵静岡県熱海市で起きた土石流問題は, 立地造成において
自然環境との共生を無視したために起こった人災であろう。
環境対策のために環境破壊を推進する太陽光発電事業、
これを容認してきた静岡県のトップは環境問題についてど
んな知見と判断基準を持っていたのだろうか?
“地球環境に優しい”などとは 人の傲慢な思い上がりで,電
気自動車も、ライフサイクルでの環境エネルギーへの切り
替えや、リチウム電池の安全性とリサイクル性など根本的
な課題は、未解決のままである。
中国が良い例であろう。今、過剰生産された電気自動車は
あちこちで放置廃棄され、各地に死の山を形成、また実用
上も電池火災など世界中で問題を引起こしている。
現在の環境問題は産業革命以降の物質文明の追求によって
もたらされた結果であるが、中国では鄧小平が『金儲けは
悪ではない』と偏った資本主義を奨励し『金儲けのためな
ら何をしても良い』『金さえあれば何事も許される』と中
国国民に誤解させ、今世界中が彼らの悪意・悪事・悪想念
によって汚されているようなものである。
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🔵我々、日本人は、明治以降迎合してきた物質文明の負の
面を精算し、長久に続く我が國體と,その文化や伝統を踏ま
え、新たな日本社会の価値を創造し、日本人の矜持として
世界に発信すると共に, 我らが次代に繋いでゆくべきであろ
う。
幸いなことに、我々は先人達の偉大な精神と知恵と経験を継
承しているではないか。
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