季語「春愁」を学ぶ
句郎 我が家の梅も淡くほころび始めたね。
華女 春らしくなってきたわ。ただ今頃の風が寒いのよね。
句郎 若かった頃は、春愁と言う言葉に感じるものがあったけれども今は何も感じなくなってしまった。
華女 そうね。もともと春愁という言葉が意味するものとはどんなことなのかしら。
句郎 先日、精神科医のk先生に聞いた。「先生、春愁、春の憂いとは何なのか。精神科医として説明してくれませんか」とね。精神科医の先生の答は「私は今まで一度も春の憂いというか、春愁なんなどというものを感じたことないから、わからないよ」とそっけないものだった。「先生、『春愁や恥ずかしながら腹がへり』という俳句を読んだことがあります。先生もそうですか」と問うと「私はそうだな」と答えてくれた。
華女 私もk先生と同じ心情ね。春愁とはなんなのかしらね。最近聞かなくなった病に五月病という若者の精神的病があったわね。その五月病は春愁の一つなんじゃないのかしらね。
句郎 そうなのかもしれないな。K先生は冬季鬱と春の憂いというのは関係があるかもしれないというようなことを述べていた。
華女 冬季鬱とは、どのような病なのかしら。
句郎 冬だけうつ病になる病気だそうだ。秋ロに悪化し、春に消える症状が2年以上続くと、この病気だと考えられるそうだ。
なかでも過眠と過食、とくに甘いものを無性に食べたくなるという症状が見られるのが特徴で、常識を超えてチョコレートなどの甘いものを食べつづけ、1日に10時間寝てもまだ起きられず、肥満してしまう。「冬になると眠くて仕方がない」「甘いものを食べたくなる」という人に多いようだ。しかし起きたくても起きられない。仕事ができない。本人にとっては深刻でつらい。特に北欧に多いと言っていた。
華女 私は関係ないと思うわ。春愁というのは春の愁いよ。冬じゃないわ。
句郎 太陽の陽ざしと人の心とは密接に関係があると私は考えているんだ。
華女 私、若かったころ、夜が好きだったわ。たった一人だけの夜が好きだったのよ。すごく落ち着く。心が休まるの。夜勉強すると頭に入るのよ。私一人の世界が広がっていくのが楽しかったわ。
句郎 夜は想像力が働くということなのかな。また夜は心も体も疲れてしまうからね。北欧の夏は昼間が長いでしょ。白夜があるくらいだから。
華女 公園では男も女も裸になって日光浴を楽しむ風習があると言うじゃない。
句郎 太陽の光は人間に体を動かせと働きかけてくる。そのような働きが日光にはあるのだと思う。春から夏にかけて昼が長くなり、冬になると夜が長くなる北欧では夏、心身を働かせ過ぎると冬、くたびれ切って何時間も眠ってしまうということがあるのではないか。それが冬季鬱の症状なんではないかな。
華女 春愁とは、関係があるのかしら。
句郎 春愁と日永。関係があるように思う。一日一日、日が長くなっていく。太陽の光は人間に心身を動かせ、働かせろと言う。しかし何をどのように体を動かし、心を働かせたらいいのか分からない。毎日が戸惑いの日々が続く。それが春の愁いなのではないかと考えているんだ。大学に合格した春、何をこれからしたらいいのか、心の空白に気づいたときに感ずる憂いが春愁と言うことなのではないかと思う。だから青春の日々の春の愁いに春愁があるのではないかと思っているんだけどね。
華女 大学という未知の世界に入ったときとか、会社に入社した時にここは自分かくるべきところではないと何となく感じた時などに感じる憂いのようなものが春愁と言うものなのじゃないかということね。
句郎 そうだなんだと思う。