醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより  1018号  白井一道

2019-03-07 12:26:08 | 随筆・小説


 世界史において社会主義思想は歴史的使命を終えたのか。



侘助 1991年、ソ連が崩壊した。このことが世界中に決定的に大きな影響を与えたことは間違いのないことだよね。
呑助 一番辛い思いをさせられた人々はソ連邦に加盟していた国々の国民だったのじゃないですかね。
侘助 東欧の国々の国民も辛い思いをさせられただろうな。
呑助 西側諸国の共産党も大きな打撃を受けたんじゃないですかね。
侘助 フランス共産党などは解体してしまったようだからね。
呑助 一時期、ユーロコミュニズムなどともてはやされたことがありましたね。
侘助 イタリア共産党のベルリンゲルは世界的にも有名を馳せたイタリア政治の指導者だった。
呑助 ベルリンゲルはサルジニア島の貴族出身だったんでしょ。
侘助 フランスやイタリアの共産党は反ファッショ、反ナチの戦いを幅広い人々と一緒に戦った経験がフランス社会やイタリア社会に大きな影響力を持っていた。
呑助 スペイン共産党もユーロコミュニズムの一翼だったのじゃないですかね。
侘助 そうだよね。スペイン内戦が戦われたところだからね。
呑助 ヘミングウェイの『誰がために鐘はなる』の舞台ですか。
侘助 スペイン内戦というともちろんヘミングウェイの小説も有名だが、映画にもなってラストシーンは今も瞼に残っているな。
呑助 橋を爆破し、機関銃を持ったアメリカの青年ジョーダンが敵に向かって撃ちまくるシーンでしたね。
侘助 小説『1984』を書いたジョージ・オーウェルもスペイン内戦の人民戦線派の義勇兵として参加しているしね。
呑助 日本人の青年も一人、スペイン内戦に人民戦線派の義勇兵として参加しているらしいですね。
侘助 石垣綾子が著した『スペインで戦った日本人』を読んだ記憶がある。ジャック・白井は函館の孤児院で育ち、アメリカに渡った。アメリカで知り合った石垣綾子がジャック・白井はスペイン内戦に国際旅団の義勇兵としてアメリカ人と一緒に参加したと書いていた。
呑助 ファシズムとの戦いは全世界的な人民との闘いだったということですね。
侘助 スペイン内戦での人民戦線派の敗北は、ソ連共産党の解体、ソ連の崩壊を予告するものだったような気がするな。
呑助 フランス、イタリア、スペインの共産党は今では見る影もなく政治の世界では影響力を失ってしまったということのようですね。
侘助 西ヨーロッパ諸国の有力な共産党組織は圧倒的にソ連共産党の影響下にあったからソ連の崩壊によって壊滅的な影響を受けたということだと思う。
呑助 中国共産党はソ連と仲違いをしていたからそれほど影響を受けなかったということですか。
侘助 中国共産党はソ連共産党の影響を排除し、毛沢東路線を確立し、日中戦争に勝利し、国民党との戦いにも勝利し、中華人民共和国を築いたからね。
呑助 ソ連共産党の覇権主義がソ連を崩壊させたということでしようかね。
侘助 そうなのかもしれない。
呑助 中国共産党には覇権主義はないのでしようかね。
侘助 文化大革命以後中国共産党は大きく変わってきているからね。今や中国はアメリカを凌ぐ国力を持つ国になっている。中国は社会主義社会を実現するべく、邁進している。
呑助 中国経済は減速している。経済成長はゼロパーセントだと東大の先生が言っていましたよ。
侘助 中国における社会主義の建設にはいろいろ曲折はあるだろうが、しっかりした目標を持っているかぎり着実に進歩していくと考えている。
呑助 社会主義思想は生きているということですか。
侘助 ソ連の崩壊によって社会主義思想はその歴史的使命は終わったと言う考えは皮相な見方じゃかいと思う。マルクスが資本論の中で解明した資本の本質は普遍的な真実だと思う。資本主義経済が賃労働者を搾取するという資本の本質が変わらない以上、賃労働者の資本からの解放運動が無くなることはない。商品経済、市場経済が資本主義経済ではない。資本主義経済は商品経済であり、市場経済であるが、商品、市場経済は資本主義経済ではないという考えを私は持っている。だから商品、市場経済の社会主義経済社会を実現すべく中国は模索を続けていると私は考えている。それは資本家のいない商品、市場経済かな。