季語 猫の恋
句郎 芭蕉は「猫の恋」の句 を四句残している。華女さんが一番好きな句はどの句かな。
「猫の妻竃の崩れより通ひけり」
「麦めしにやつるゝ恋か猫の妻」
「猫の恋やむとき閨の朧月」
「まとふどな犬ふみつけて猫の恋 」
華女 私は「猫の恋やむとき閨の朧月」がいいかな。このチョットした艶めかしさが良いなぁと思うわ。芭蕉何歳の時の句なのかしら。
句郎 元禄5年、49歳の時の句のようだ。
華女 芭蕉は51歳で亡くなっているのよね。49歳というともう晩年ね。芭蕉には妻がいなかったのよね。
句郎 妻恋をもよおしているということなのかな。
華女 そうよ。女がほしい。そんな気持ちを詠んでいるのかなと私は思うわ。
句郎 大人の句ということかな。
華女 大人の句よ。恋猫の鳴き声が止んだ時の静かさの情緒があるわ。この句にはね。そう思わない。
句郎 「猫の妻竃(へっつい)の崩れより通ひけり」。この句には若さがあるということかな。
華女 知識をひけらかしているところに若さがあるわ。若いころの芭蕉にもそういうところがあったのよね。
句郎 「麦めしに」の句には恋というものが持つ恐ろしさのようなものが表現されているように感じるな。
華女 そうね。恋は身を亡ぼすようなところがあるわね。実際、恋に身を滅ぼした女が数多くいるように思うわ。
句郎 「まとふどな犬ふみつけて猫の恋 」。この句の「まとふどな」とは、現在では使われなくなった古語だね。
華女 古語辞典にも見つからない言葉よ。
句郎 「愚直な」と言うような意味のようだ。この句はいつ詠まれたのか不明の句のようだ。
華女 若さがあるわ。恋とはこういうものよ。もたもたしていては恋を得ることはできないわ。積極性が必要よ。積極的にいかなければ誰かに取られてしまうわ。恋とはそういうものなんじゃないのかしらね。「猫の恋やむとき閨の朧月」。この句が一番私は好きよ。