前近代の社会について
侘助 前近代の社会は支配する人間と支配される人間が可視化されていた。
呑助 髪型や服装が違っていたということですか。
侘助 そうなんだ。江戸幕府は町人や農民の服装を規制していた。
呑助 すると天皇や公家の服装もほぼ決まっていたということですか。
侘助 そうだと思う。女性の服装の最先端はフランス・パリにあるように言われているでしょ。その起源はフランス革命にあると言われている。ブルボン朝の時代、ベルサイユ宮殿には大勢の服飾職人が抱えられていた。それらの人々はフランス貴族の男と女の服を縫っていた。
呑助 王様の服装、高位貴族の服装、身分の低い貴族の服装、それぞれ身分によって服装が違っていたということなんですか。
侘助 上下の人間関係が一目瞭然になっている社会だった。
呑助 男女の違いが服装や髪形の違いによって分かるように上下の人間関係が髪形や服装で分かった社会だったんですか。
侘助 フランス革命によって失職した服飾職人たちが金持ちの平民たちの服を縫うようになった。こうしてフランス貴族の服装の伝統が富を築いたブルジュアたちに継承されていった。
呑助 フランス革命がフランスのファッションを形作っていったということですか。
侘助 17世紀はフランスの世紀だとヨーロッパ世界では言われていた。その最先端の美意識を表現した服装がフランス貴族の服装だった。その服装を継承したのがフランスのブルジュアたちだった。花の都パリの服装が近代社会の服装の最先端の服装になっていった。その服装は近代以降の全世界に広がっていった。
呑助 上下の人間関係が不可視化されたのが近代社会だということですか。
侘助 近代社会にあっても人間関係の上下の関係は存続しているが、その関係が服装や髪形では区別することができない社会になったということかな。
呑助 近代社会になっても支配する人々と支配される人々は存続しているが、服装や髪形では区別して知ることができない社会だということですか。
侘助 人を支配するとは、自分の意思を正義の実現としてその人に強制することができるということかな。
呑助 下の人は命令を自分の意思として行うということですか。
侘助 60歳になると定年だとして退職する。嫌だと言っても許されることはない。決まりによって強制される。この決まりは正義なんだ。正義の実現として退職がある。
呑助 決まりによって支配されるということは、支配する人に支配されると言うこととは違うように思いますけどね。
侘助 近代社会は法が支配する社会だと言われている。だから支配する人と支配される人とが目に見えることがない。しかし実は支配する人々がいる。
呑助 法とは、民主的な話し合いによってつくられているのではないですか。
侘助 この民主的な話し合いに問題がある。なぜなら民主的な話し合いは力の強い者の意見が通るからね。
呑助 法とは、公明正大な対等平等なものではないのですか。
侘助 社会にはいつの時代も力の強い者と弱い者とがいるからね。例えば消費税は誰にも公平に課税されるものだと言われるが、収入の多い者と少ない者にとっては、同じ税額であっても負担感は大きく違っていると思うからね。消費税の導入ということ自身が収入の多い人々に有利な税制だということが言えると思うよ。
呑助 でも近代社会は貧しい家に生まれた人であっても出世する人がいますね。例えば田中角栄のような政治家がいますね。
侘助 前近代社会にあっても豊臣秀吉のような人もいるけれどね。
呑助 支配されていた人が人を支配する側の人になったということですね。
侘助 そういうのを社会的流動性という。近代社会に比べて前近代社会は社会的流動性の少ない社会であった。身分制社会にあって支配階級に属している人々にとって被支配階級の人々は自分と同じ人間だとは見なしていなかった。支配階級に属している人々にとって人間とは、同じ支配階級の人々だった。被支配階級の人々は動物ののような存在だった。生かすも殺すも自由だ。