きれいなきれい〈田添公基・田添明美のブログ〉

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風林    田添明美

2021年05月17日 08時47分52秒 | 「いたずら」田添明美

歩けなくなり 実家の施設に入居する事に
なった母は、健康診断で
結核が判明し 東京病院に入院した

二ヶ月後 施設に入居できたが
入居一年弱で 結核が再発し
結核・敗血症・心不全 三種の合併症で
東京病院に 医師付きで搬送された

医師は、生死は一週間で決まります
治癒しても 寝たきり・酸素マスクの
生活になるかもしれません と述べ
それでも、構いません と姉妹で応えた

治療は順調で、母はある日
どうして、私はなんで生きてたんだろうと思う。
私を殺してちょうだい。
生きていても、しょうがない。
(でも、神様は、生かしてくれているの)
どうして?
(生きろって言ってる)
私は そう応えた

次の施設は 私達姉妹の近所大宮で
何度も会えた

そこには 書道教室があり、お手本の中から
好きな言葉を 選んで書く事ができた

皆「新年」って書いたけれど
私は「初春」にしたの と母はいった

母の亡くなる三日前 書道教室があり
母は「風林」と 達筆な字で書きなぐった
ほとんどものを 食べられない状態だった

はやきこと 風のごとし
しずかなること 林のごとし

母は
最後に
この言葉を 選んだ

あなたがいなくなり
わたしの心は しずかになりました
そちらはどうですか

ここに、いるじゃないの
ふいに
近くで
母の声がした


           R3.5.4

 

 

1963年