
「家内に鯛を釣らせてやりたい」
金丸さんの奥さんを思う優しい気持ちだ。
金丸さんの事を、私は“旭先生”と呼んでいる。
「この仕掛けの扱いは、どうすればいいの」
ご主人を頼りに、優しいまなざしの和代奥様。
お二人とも、私のバレーボール審判人生の中で色々とお世話になっている方々だ。
でも、今日は私は奥さんの全面サポート。
夫婦で鯛ラバ勝負の一日なのだが、前日までの激しい雨で海には多くの漂流物が漂い、潮は濁っている。
「潮が濁っていて、厳しい感じですね」
「旭先生、奥さんと鯛ラバの色を変えて行きましょう」
奥さんがオレンジ、旭先生が赤でトライすることになった。
風は北西の風が程良く吹き、波は静かで凪ぎの海だ。
最初に入ったポイントで、思うようなアタリが出ずに、次のポイントへ移動する。
流し初めて、暫くすると奥さんにアタリが来た。

竿先がいきなり海面に突き刺さるような、ダイレクトなアタリだ。
「ゆっくりで良いですよ」
「どうや、引きは強いね」
横で旭先生も心配顔。
そんな中、無事タモに収まったのは、1キロ超の綺麗な真鯛。

「嬉しい、真鯛が釣れた」
全身から溢れる笑顔が、爽やかだ。
「旭先生、負けてられませんよ」
旭先生も、奥さんの真鯛を見て笑顔だ。
次に移動したポイントでも、最初のアタリは奥さんに来た。


上がってきたのは、アラカブ。
「俺も釣りたい」
旭先生に少々焦りの色。
「旭先生、ポイントを変えましょう。沈み瀬の駆け上がりに成っている処に行きましょう」
移動の前に、仕掛けを変える。
鯛ラバの色を奥さんと同じ、オレンジに変える。
移動して直ぐに、魚探にベイトが幅広く映し出されてきた。
「ベイトが増えてきましたよ」
すると、奥さんに又してもアタリが来た。


少し緩めに調整していたドラッグから、ラインが引き出される。
ペースを変えずに、奥さんがラインを巻き取っていく。
上がってきたのは、2キロ弱の真鯛。

「サイズアップした」
と、満面の笑み。
旭先生も、「良かったね」と祝福の笑顔。
その、旭先生にアタリが来た。

「来た、やっと来た」
ゆっくりと、ラインを巻き取っていく。
獲物が見えてきた。
型の良いオオモンハタだ。

「良かったね。ハタが釣れたね」
今度は、奥さんが祝福の笑顔。
羨ましいくらいに仲の良い、ご夫婦だ。
今日の潮は濁って今ひとつ良くないが、大物のアタリも幾度かあった。
旭先生が、仕掛けのホール中にラインが走り出した。
「来た!なんか来た!」
いきなり走り出して、止まらぬ相手に一方的にやられたり、ガッンと強烈なアタリが来て、針が切られたりした。
「あの強烈なアタリが取れれば言うこと無しなのだが、残念」
奥さんも、「来ました!」の声と同時に竿が強烈に曲がり、太刀打ちできないまま針が外れた。
「今のは何だろうか?」
強烈な引き込みに、ちょっとビックリと言った感じだ。
釣り開始から、「釣れた!」「残念、逃げられた」と、楽しい会話で釣りを楽しまれるお二人。
「また、次の機会も楽しい釣りをしましょう」
と、次回に期待して帰港することにした。
今回の夫婦鯛ラバ対決は、奥様の勝ち。
目出度し、愛でたし。
