鴨頭の掲示板

日本史学関係の個人的な備忘録として使用します。

【業績】 鴨頭俊宏《招待論文》「高知県域の自治体史誌と近世史用語『異国船』」『史学研究』第305号(創立90周年記念号、2020年3月)

2020年03月30日 18時38分47秒 | いち研究者としての日記

広島史学研究会より依頼を受け寄稿していた標記の論文(査読なし)を掲載する『史学研究』第305号が完成しました。

まず、この号は、研究会が創立90周年を迎えるにあたり日本史・東洋史・西洋史・文化財各分野の若手・中堅・ベテラン研究者に執筆を依頼して成した記念論文集です。

次に、私が寄稿した論文は、日本史学界をめぐって本格化しはじめた「自治体史(誌)論」に対し試みている新たな提起を、実践段階へと移す仕事の一環なのです。全国的には1980年代半ばに刊行のピークを迎えた自治体史誌について、編さん事業自体の価値を問う議論が、近年盛んとなりはじめ全国レベルの学術誌でも特集を組まれるに至りました。ただ、ここで展開されている議論は、地域史研究あるいは研究者の視点からその事業の意義を説明しようとするあまり、肝心な一般的な読者の視点が欠けていく傾向にありました。そこで私の場合は、読者に対し読むことにした史誌の位置づけと向き合い方とを説明するのも研究者の重要な仕事の1つだとし、この方法論を勘案しています。具体的には、通史においてある1つのキーワードを設定し、時の流れに応じて冊ごとにそのキーワードがいかに取りあげられたのかを一覧表に示す方法を採りました。この実践として本稿では、高知県域を対象フィールドに、近世史用語「異国船」をキーワードに、設定しております。これまでは、史誌編さん事業と同時並行的に歴史を歩む「モータリゼーション(車社会化)」をキーワードに設定し、中四国地方9県の分析を蓄積してきました。しかし、本稿からは、編さん事業史前にその歴史を終えている前近代の有名な用語で検討しはじめたのです。

本稿自体は、ある1つの県内における傾向を示すものに過ぎませんが、全国的な自治体史論が適当な方向へ発展していく土台の1つとなることを、切に願っております。

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