おはようございます昌栄薬品の宮原 規美雄です
薬学博士渡辺武著『漢方が救う人体危機』
現代医療の誤りを正す
第2章 漢方はどう診断するか
体の中の熱と冷えで処方は異なる
p101京都などの多湿地帯では神経痛・リューマチになりやすい!
病が熱をともなう場合を陽病といい、冷えている場合を陰病ということは前にも述べました。
その復習の意味で、もう少しくわしく陽病・陰病のことを述べますと、五臓六腑――心臓病にも腎臓病にも胃潰瘍にも、陽病と陰病の二つがあるということです。
胃潰瘍にも、冷えた胃潰瘍もあるし、熱のある胃潰瘍もあります。
出血多量という場合は、貧血を起こしていますから、冷えているのです。
まだ出血していないか、出血中であるときは熱がこもっているわけです。
ふつう潰瘍というのは、炎症が起こっているか、冷えで起こっているかです。
潰瘍の九〇パーセントは熱や炎症で起こります。
この場合、苦い薬と出血を止める薬が必要ですが、潰瘍の全部が熱があるとはかぎりません。
たとえば、風邪の場合でも熱が出るものもあれば、熱の出ない風邪、寒くて寒くてしょうがないものもあります。
潰瘍もそれと同じで、部分的に炎症があっても冷えている場合があります。
だから、どんな病気にも熱が勝った場合と冷えが勝った場合の二つの型があるのです。
神経痛やリューマチは、冷えで起こる病気といわれていますが、ひと口に神経痛。リューマチといっても、わが国にも二つの違ったタイプが見られます。
こんな話があります――。
江戸時代の中期のことです。一人のお医者さんが京都へやって来ました。この地方には指や肘(ひじ)が曲がったまま伸びないで、しかも下痢や疼痛(とうつう)をともなうという難病がありました。
当時、漢方医がサジを投げていた厄介な病気です。
その病を、このお医者さんが調合した薬でぴたりと治したのですから、世間があっと驚いたのは当然です。
この漢方医こそ、わが国の漢方を確立した吉益東洞(よしますとうどう)という人です。
神経痛・リューマチの二つの型
タイプ |
万国共通型(陰) |
純日本型(陽) |
なりやすい型 |
神経質な人 |
|
体質 Ⅰ |
冷えのぼせする |
|
体質 Ⅱ |
手や皮膚が乾いている |
あぶら手・汗かき |
症状 Ⅰ |
便秘しがち |
下痢しがち |
症状 Ⅱ |
小便が近い |
小便が遠い |
症状 Ⅲ |
肩・首・背中がよくこる |
|
主な地方分布 |
信州・東北・北海道 |
関西・関東・九州 |
処方 |
薏苡仁湯 |
桂枝加苓朮附湯 |
京都は、盆地特有の多湿地帯のために、あまり体のじょうぶでない人は水分の代謝がうまくいかず、神経痛やリューマチにかかりやすいところです。
吉益東洞の偉さは、中国から伝わった処方に、さらに水剤の「茯苓(ぶくりょう)」を加えた日本人向きの方剤を創製し、こうした純日本的風土から生まれる病にぴったり合った処方を発明したところにあるといえます。
それが今日、神経痛、リューマチの治療に効果をあげている「桂枝加苓朮附湯(けいしかりょうじゅつぶとう)という薬なのです。
純日本型の神経痛、リューマチは、あぶら手の人、汗っかきの人に多く、もう一方のタイプは手や皮膚がからっとした人に見られる万国共通型です。
こちらのほうには古来、「薏苡仁湯(よくいにんとう)」という処方があります。
もともと神経痛とかリューマチは体の水分調節異常から起こるものです。
湿気の多い地方、あるいは底冷えのするシーズンは、冷えのぼせの傾向がある人にはいちばんこたえます。
水分の発散が、もっぱら皮膚表面にばかり偏(かたよ)ってしまって、体温が奪われ、体のふしぶしの痛みとなって現れるのです。
陽病と陰病を見分けるのは、神経痛やリューマチのように冷えが原因の場合などは特別ですが、ふつうは熱と冷えによって、はっきりわかります。
万病のもとである風邪は、ふつうは発熱して肩がこったり、頭痛がして咳が出たり、鼻水が出るものです。
熱が出るというのは体表から発散していることです。
これは太陽病という陽病です。
陰病の風邪はその逆で、熱がないのに頭痛があり、いくら布団をかぶっても寒いという人です。
これを下痢でいえば、ふつう、下痢をしながら、皮膚からも水分を発散しています。
発汗と下痢の両方で水分を出しているのは陽病です。
飲みすぎ、食べすぎのときの嘔吐(おうと)、下痢は、熱が出て、頭が痛くなりますが、このタイプなのです。逆に、熱が出ない、発散が停止して、冷えて下痢する慢性下痢とか、いつも便秘しているというタイプは、陰病ということになります。
熱と冷えで、陽病か陰病かに分けているのは、ただの見立てでは有りません。
陰か陽かによって病態も違ってくるし、調整する薬剤も違ってくるからです。
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