『禅〈ゼンガン〉銃』 バリントン・J・ベイリー (ハヤカワ文庫 SF)

積読消化。星雲賞受賞作の新装版。
世界がほころび、異次元からの侵入が始まった。この危機を解決できるのは究極兵器、禅銃のみ。
禅銃を手に入れた〈小姓〉の池松八紘、ヒトとサルのキメラのパウトは世界を救うために別位相の世界へ旅立った!
という話がまったく描かれない小説。
滅びつつある帝国の若き提督アーチャーの冒険と、池松たちがアーチャーの艦に拾われるまでがメインラインになっていて、世界の危機は「拙者は禅ガンを用いて亀裂を繕いあわせたのじゃ」の一言で解決してしまうという前代未聞ぶり。この破天荒ぶりが、まさにベイリーの魅力なのだろう。
しかし、そんなストーリーのぶっ飛び振りだけではなく、SFアイディアのぶっ飛びぶりも素晴らしい。
宇宙を形成する4つの力(重力、電磁力、強い力、弱い力)のうち、重力だけが特異な性質を持つことを、後退線という現象で解明した大統一理論の完成だ。重力は引き合っているのではなく、反発し合っているのだ!
重力は遠ければ遠いほど後退線による離反力を発生させ、押し付けあうことによってバランスを保っている。しかし、近傍の物体が後退線をさえぎることにより、そちらの方向からの反力が小さくなることにより、近傍の物体の方向に押し付けられる。これが重力として観測されるのだという。これだと、球と同じ見かけの大きさの円盤でも、同じ重力を発生させられることになるのだが、たしかに、重力の解明に繋がった天体は、すべて球形であるし、形状の違いによって重力が異ならないことを実際に観測した実験は存在しない(かもしれない)。
ベイリーが、イーガンよりも前に、こんな万物理論を完成させていたとは!
そして、人間と動物の違いを深く考えさせられるのが、個性豊かな知性化動物たちと、豚の反乱。
象の副官も、猫娘もみんなかわいいが、それだけでは終わらない。知性化動物は、頭が良くて働き者だが、創造的な能力を持たない。
そのため、人口激減中の帝国は、属国から芸術家や科学者を強制的に帝国民にするために、徴税するというすさまじさ。
ヒトとサルのキメラであるパウトは、エロくて臆病という人間の本能的な本質を明らかにする。
人間は動物とどこが違うのか、本当に人間にそこまでの価値はあるのか。アーチャーは豚に反論することが出来ない。
ベイリーが、ブリンよりも前に、こんな知性化理論を完成させていたとは!(嘘です)
そのほかにもSF小ネタは満載。誤解だらけの日本趣味もあいまって、混沌としたパンク的スペースオペラ世界が描き出される。
しかし、世界の危機を救った別位相の冒険がすっ飛ばされているのは惜しい。
誰か、ベイリーの代わりに書き継いでくれないだろうか。『サムライ・レンズマン』の古橋秀之とか、どうよ。

積読消化。星雲賞受賞作の新装版。
世界がほころび、異次元からの侵入が始まった。この危機を解決できるのは究極兵器、禅銃のみ。
禅銃を手に入れた〈小姓〉の池松八紘、ヒトとサルのキメラのパウトは世界を救うために別位相の世界へ旅立った!
という話がまったく描かれない小説。
滅びつつある帝国の若き提督アーチャーの冒険と、池松たちがアーチャーの艦に拾われるまでがメインラインになっていて、世界の危機は「拙者は禅ガンを用いて亀裂を繕いあわせたのじゃ」の一言で解決してしまうという前代未聞ぶり。この破天荒ぶりが、まさにベイリーの魅力なのだろう。
しかし、そんなストーリーのぶっ飛び振りだけではなく、SFアイディアのぶっ飛びぶりも素晴らしい。
宇宙を形成する4つの力(重力、電磁力、強い力、弱い力)のうち、重力だけが特異な性質を持つことを、後退線という現象で解明した大統一理論の完成だ。重力は引き合っているのではなく、反発し合っているのだ!
重力は遠ければ遠いほど後退線による離反力を発生させ、押し付けあうことによってバランスを保っている。しかし、近傍の物体が後退線をさえぎることにより、そちらの方向からの反力が小さくなることにより、近傍の物体の方向に押し付けられる。これが重力として観測されるのだという。これだと、球と同じ見かけの大きさの円盤でも、同じ重力を発生させられることになるのだが、たしかに、重力の解明に繋がった天体は、すべて球形であるし、形状の違いによって重力が異ならないことを実際に観測した実験は存在しない(かもしれない)。
ベイリーが、イーガンよりも前に、こんな万物理論を完成させていたとは!
そして、人間と動物の違いを深く考えさせられるのが、個性豊かな知性化動物たちと、豚の反乱。
象の副官も、猫娘もみんなかわいいが、それだけでは終わらない。知性化動物は、頭が良くて働き者だが、創造的な能力を持たない。
そのため、人口激減中の帝国は、属国から芸術家や科学者を強制的に帝国民にするために、徴税するというすさまじさ。
ヒトとサルのキメラであるパウトは、エロくて臆病という人間の本能的な本質を明らかにする。
人間は動物とどこが違うのか、本当に人間にそこまでの価値はあるのか。アーチャーは豚に反論することが出来ない。
ベイリーが、ブリンよりも前に、こんな知性化理論を完成させていたとは!(嘘です)
そのほかにもSF小ネタは満載。誤解だらけの日本趣味もあいまって、混沌としたパンク的スペースオペラ世界が描き出される。
しかし、世界の危機を救った別位相の冒険がすっ飛ばされているのは惜しい。
誰か、ベイリーの代わりに書き継いでくれないだろうか。『サムライ・レンズマン』の古橋秀之とか、どうよ。