神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] SFマガジン2014年1月号

2013-11-30 11:23:09 | SF

『S-Fマガジン 2014年1月号』 (早川書房)

 

「第1回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作発表! 」がメイン記事。大賞の『みずは無間』の第一部と、最終選考作の中から「オニキス」。さらに、「最終選考委員選評」を掲載。

ハヤカワSFコンテストは満を持しての開催ということで、優秀な作品が揃った模様で、豊作なのはうれしい限り。なんと、ここから4作品が商業出版化とのこと。日本SF新人賞の休止から貯め込まれた4年分のエネルギーが爆発的に放出されたということだろう。実際、大賞受賞作も、本来SF新人賞用だったとのことだ。

選評についても、審査員それぞれのSFに対する認識、想いが読み取れてなかなかおもしろい。ハヤカワのSFコンテストで大賞を受賞すべき小説とは、いったいどんなものであるべきなのか。そういう議論が巻き起こるところからも、やっぱり、この場所こそが日本SFの中心地であると思う。


もうひとつの特集は「《グイン・サーガ》正篇刊行再開記念小特集」。こちらはエッセイ、クロスレビュー程度で、新作は無し。

グイン・サーガ・ワールドの方を読んでいるので、あえて今さら何も言うことは無いのだけれど、五代ゆうがあとがきで何か書いている雰囲気があるので、ちょっと読んでみようかと思う。

次の刊行予定がヤガ篇なっているのだけれど、執筆者は誰なんだろうか。また新しい著者が参加するのか、それとも、五代ゆうか、宵野夢が書くのか。久美沙織はちょっと雰囲気が違ったし、牧野修ってことはないだろうしなぁ。


そして、神林長平の新連載、「絞首台の黙示録」がスタート。いきなりの死刑執行直前シーンから父親の失踪話への場面展開が唐突で、まだ何もわからないが、死刑執行パートでの死にまつわる自問自答は、さすがに神林。隔月掲載とのことで、「膚の下」のときのように、次回掲載が待ち遠しく、読みづらい連載になりそうだ。


○「みずは無間(第1部)」 六冬和生
やたらと面白かったので、さっそく書籍版をぽちった。意識を持った宇宙探査機という意味では、創元SF短編賞の宮西建礼「銀河風帆走」、小川一水「青い星まで飛んでいけ」あたりと設定は被るが、チャールズ・ストロスを思わせるような加速していく探査機の進化パートと、探査機の意識の素(?)である透の記憶の中の過食症な彼女との出来事のミスマッチが面白い。最終的にこの二つは相互作用し、宇宙を食らいつくすことになるらしいのだが、そんなネタバレを記事に書いていいのか?

○「オニキス」 下永聖高
神林長平には「夢オチとしか思えない」と言われてかわいそうだが、これは夢オチと見せかけて、夢じゃないSFなわけだ。いわゆる虚偽記憶の物語として読むのもおもしろい。つい最近も、「11年にわたり使っているハンドルネームを付けた由来が全部偽記憶だった」というエントリが話題になっていた。こういうことは、細かいことを含めれば珍しいことではないが、もしかしたら、記憶違いではなく、本当に過去が改変されているのかもしれない。

○「岐路 星界の断章」 森岡浩之
軍士(ボスナル)と交易者(サル―ギア)の悲恋と、アーヴ的な考え方の帰結。星界シリーズの世界は独特なので、短編で読むとその世界に浸りきる前に終わってしまうので読みづらさだけが残る。完全なファンならば、助走期間が短くて済むのだろうけど。 

 


[本] 黒祠の島

2013-11-30 11:09:03 | SF

『黒祠の島』 小野不由美 (新潮文庫)

 

この前読んだ『パッチワーク・ガール』がSF+ミステリならば、こちらはホラー+ミステリ。なおかつ、罪と罰がテーマということで、なんとなく個人的シンクロニシティ。

閉鎖的な島で起こる失踪事件。非協力的な村人。季節外れの風車と風鈴。島を支配する神領家。恐ろしげな伝説。血塗られた廃屋。存在しない娘。はたして、真相はどこに。

こちらもミステリ的なトリックは珍しくないし、最初からそこを探せよというのが結末。しかしながら、小野不由美のストーリーテリングに乗せられて、読者はミスリードに嵌り込む。主人公や登場人物に感情移入すればするほど、読者は真相に気付かないようになっている。

罪と罰、もしくは、“裁き”をテーマとする思弁小説と考えると、これはこれでなかなか深い。馬頭夜叉信仰(実はカイチ)が、閉鎖された島で果たしてきた役割は、現在の裁判所につながる。そして、裁判所の持つ機能としての、犯罪者への量刑と、被害者、および、被害者家族の精神的救済のバランスの問題がそこにはある。

たとえば、残忍な殺人事件に対し、被害者家族は犯人への極刑を望むだろうが、現在の日本の裁判所は判例としてそれを容易に許さない。このバランスの崩れ方は裁判員裁判導入のひとつの要因になっており、裁判員裁判制度そのものの是非も問題になっている。

さらにその裏には、この小説のメインテーマとなる、残忍な殺人犯は残忍に殺されてもいいのか、という問いにつながる。この物語の白眉は、オカルティックな島の文化でも、ミステリ的な取り違えトリックでもなく、そこにある。

以下、かなりネタバレに付き、改行。

 

 

 

 

この物語を本格推理小説として見た場合、探偵役は主人公の式部ではない。探偵ではないという意味で、式部は探偵事務所ならぬ、調査事務所を運営しているというところも象徴的。真の探偵役となり、すべてを明らかにするのは、式部から調査結果を聞いた“存在しないはずの少女”である。彼女は揺り椅子探偵のごとく、事件の真相を見抜く。

普通のミステリであればそこで「犯人はお前だ」をやって大団円となるのだが、この物語ではそこからが本番。彼女の裁きが始まるわけだ。そして、その裁きは彼女の守護としての性質に直結する。

犯人は元守護であり、守護の性質を持たなかった偽物という扱いだが、彼の行った事件は凄惨であり、快楽殺人の様相も見える。これは、彼が守護としての性質を持っていた証拠なのではないかと思う。そういう意味では、彼も偽物ではなかったのだろう。

こうして事件は現代ミステリの範疇で幕を閉じるのだけれど、オカルト/ファンタジー的には物足りなさが残る。あれだけ引っ張っておどろおどろしい文化を作り上げたのだから、思わせぶりな設定ぐらいは残しておいて欲しかったものだ。

たとえば、神領家の人々にとって、生まれてすぐに浅緋が守護であるとわかったのであれば、カイチの角ぐらいは生やしておくぐらいすべきだったんじゃないか。それでこそ、守護は人前に出ずという設定も生きただろうに。

敢えて浅緋を普通の人間にしたのは、普通の人間である(読者の)あなたにも、残忍な復讐を望む気持ちがあるでしょうということを強調したかったのだろうか。 

 


[SF] パッチワーク・ガール

2013-11-30 11:07:22 | SF

『パッチワーク・ガール』 ラリー・ニーヴン (創元推理文庫)

 

古本消化。

ちょっとまえに、twitter界隈で盛り上がっていたミステリとSFの違いについての議論でも紹介されていた、ラリー・二ーヴン著作のSFミステリー。

月面に面する高級ホテルで、地球の外交官がレーザービームで狙撃される。一命を取り留めたものの、月社会においては殺人未遂は殺人と同等の臓器移植刑送り。

容疑者はその時間に月面に出ていた唯一の存在である、地球出身の美女。彼女の嫌疑を晴らすため、地球の警察官僚である主人公が、超能力を駆使して捜査に挑む。

超能力とは言っても、SFミステリの文脈で紹介されているように、なんでもありの能力ではなく、どちらかというとストーリー上で捜査を簡略化するための透視能力程度。要するに、遺留品探しのため。

ミステリのネタ自体は、古典的な謎解きものでもありがちなものなので割愛。というか、この物語の主眼はそこには無いのではないかと思う。

タイトルの“パッチワークガール”の意味が明らかになる終盤以降がSFとしては本番。

死刑の是非は日本においても議論が絶えないが、この物語の未来設定では死刑の替わりに臓器移植が使われる。最終的には、心臓まで含めて提供して死んでしまうので、死刑にかわりはないが。

そして、過酷な月社会では臓器移植の需要が大きく、臓器移植刑の範囲は次第に大きくなり、殺人や強盗、強姦だけでなく、窃盗レベルでも臓器移植行き。さらに、裁判も簡略化され、どんどん臓器ドナーの供給へと回していく。

冤罪防止のために、6か月間の猶予期間があり、タンクの中で人工冬眠させられ、その間に疑いが晴れればという制度もあるのだが……。

制度というよりは運用に問題があると言い切れればよいのだが、確かに、これは無いよなと思わせるようなディストピア。未来の世界がこうならないように考えていくことは重要なことだ。そして、それを物語として語るのがSFの効用でもある。

「僕にはiPS細胞という武器がある!」と叫んだのはゴン中山だが、中山の現役復帰のためにも、こうしたディストピアの到来を防止するためにも、ES細胞やiPS細胞による臓器培養、臓器移植の実用化が望まれる。