『地球が寂しいその理由』 六冬和生 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)
面白くはあるのだけれど、前作が前作だけに期待が大き過ぎたか。
地球を管理するAIと、月を管理するAIの姉妹喧嘩かと思いきや、人類を未曾有の危機から救うための方式論争エスカレートしていく展開の壮大さにはひれ伏すしかない。
しかし、問題なのは、作中でちらっと言及されながらも未消化なネタが多く、ここが評価の別れ処なのではないかと思う。
具体的にいうと、スティーブは人間じゃないとか、NATの性別は男性とか。
性別が男性の件については、前作の『みずは無間』につなげたかったのか、ないしは、つながっていた名残なのかもしれないけれど、もう少しうまくネタとして使えなかったものか。
また、人間じゃない設定の方も、じゃあそっくりと言われるオパールはどうなんだとか、ルナリアンとか教会方面でうまくネタに組み込めたような気がするので非常に惜しい。
っていうか、他の感想を読んでもそのあたりへの言及が見つからず、俺が読み落としただけ?
思わせぶりな小ネタをかき集めると、実はとんでもない裏設定が隠されているような気がぷんぷんするのだけれど。いや、そうでなければ、ただのネタを持て余してとっ散らかっちゃってる小説にすぎないじゃないか。
で、テーマについては、二人(もしくは二機?)の人類を救う方法論の違いがメインだと思うんだけど、これも派手な姉妹喧嘩や、人工知能の身体性論に引きずられている感想が多くて、どうもよくわからん。
だってさ、一億年先に人類が生き残るためにはどうすればいいかなんて、果てしなくSF的なロマンじゃないか。姉妹喧嘩の根本的な理由がそこに行き着くから、それが地球の寂しい理由だから泣けるんだろ。