『MORSE(上下)』 ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト (ハヤカワ文庫 NV)
古本積読消化。というか、捨ててもいいかと旅行先(ボリビア)に持って行ったもの。ところが、これが予想外に面白くて、帰りの飛行機の中で読みふけってしまった。
端的に言ってしまえば、吸血鬼もの。北欧が舞台で、ルービックキューブなんて出てくるのでずいぶん昔の話かと思えば、出版は2004年。その後、スウェーデンで映画化され、アメリカでリメイク。
このアメリカ版の映画のタイトルが日本語タイトルに使われているが、スウェーデン版が各賞受賞の名作であるのに対し、アメリカ版は換骨奪胎された駄作らしい。さすが、アメリカ。
この作品では、描かれている吸血鬼像としては珍しくないものの、吸血鬼を取り巻く人々の物語それぞれが物悲しくて心に刺さる。
主人公のオスカルはいじめられっ子だし、最初の加害者であるホーカンはロリコン犯罪者だし、貧乏なアル中とレジ打ち中年カップルに、犯罪者一家の末っ子……。いわば、社会的弱者たちが惹きつけられるようにヴァンパイヤであるエリのもとへ呼び寄せられていく。まるで、すべての不幸の元凶が彼女であるかのように。
実際に、エリはそのような心に弱点を持つ人間を利用しようとしていたのだけれど、オスカルにだけは心を開き、友達になろうとし、正体を見せる。
「私は女の子じゃないよ」という言葉の裏の意味が分かったときに愕然とするが、それがまた、物語全体をひっくり返して悲しくさせる。
少年が旅立つラストシーンは、はたしてハッピーエンドなのか、あるいは、悲劇の再生産の始まりなのか。
少年は少女に出会い、世界の真実を知ってちょっとだけ成長する。そういった王道の物語でありながら、まるで正反対の悲劇を読んだような不思議な読後感があった。