『ノヴァ』 サミュエル・R・ディレイニー (ハヤカワ文庫 SF)
『ダールグレン』が話題になっていた頃からの積読をやっと消化。これがディレイニーの最高傑作と呼ばれているのは非常によくわかった。何より、『ダールグレン』や『アインシュタイン交点』のように読みずらく無い。
表面的には、男たちが危険な賭けに挑む痛快なスペースオペラである。プリンスとルビーという華麗なる支配者兄妹を追い落とすため、主人公のロークは仲間たちとともに超新星の中に潜るという離れ業をやってのける。
しかし、この小説が表面上の冒険活劇の奥に、何層にも渡る多重のレイヤーを持たせているということは、あまり注意深くない読者にもすぐにわかるだろう。それは火を盗んだプロメテウスの神話であり、物語にも登場する聖杯伝説であり……。
しかし、残念ながら、そこまでだ。
ディレイニーがこの小説に技巧的に含ませた多数のアナロジーや、物語構造の仕掛けをいくつ読み取ることができるだろうか。読みながら気づいたものもあれば、解説や他の読者の感想ブログを読んでなるほどと思ったものもある。しかし、結局のところ、それは技巧的なものに過ぎず、多層に折り重なった物語を読み解くというところまでは辿りつけなかった。
この小説『ノヴァ』は、まだSFが文学としての市民権を得ていない中で、技巧を凝らして多重にして重厚な物語を構築することによって、これまでSFを読んでいなかった人々にまでリーチしようと思って書いたものなのかとも考えたが、さすがにそれは無いか。発表年代も、ディレイニーがエースのダブルで書いていた時期よりも後で、『アインシュタイン交点』の後にハードカバーで出版されたものだというし。
大学時代に『バベル-17』を読んだときには、あっさりわかった気になっていたのだが、今となってはそれも怪しい。こういうのは、やっぱり若くて脳味噌が柔軟な頃に読むべきものだったかな。いや、一読してわかった気になって終わりだったかもしれないけど。
しかし、仰々しい解説や、こんな感想ばっかりで『ノヴァ』も不遇な小説だと思う。これはまず第一に、痛快で楽しいスペースオペラなのだから、もっと多くの人に読まれて欲しい。寓意と構造が多層をなす複雑な小説という評判が先に立っては、ただでさえ少ない読者が減る一方だ。
たとえば、《スターウォーズ》のダースベイダーのキャラクターは、『ノヴァ』におけるプリンスの影響を受けているかもしれないとか、そんなことを書いておいた方がずっと読者が増えてくれるのじゃないだろうか。
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