いやー、びっくりした。まごうことなきSF巨編だった。
上巻を読み終わった時点では、マジックリアリズムの良作かもしれないけれど、これのどこがSFなのか。また汎SF拡大主義者に騙されたかと思った。
しかしながら、下巻を読み終わった時点で評価は逆転。なんというSFか。世界がひっくり返るこの感覚こそ、センス・オブ・ワンダーなのだよ!
上巻は暗黒時代のカンボジアを舞台に、シハヌーク、ロン・ノル、そして、ポル・ポトへと支配者がかわっても、不条理と暴力に苦しみ続けた人々が描かれる。その中で聡明な少年ムイタックと、聡明な少女ソリヤは、運命的な出会いから、それぞれが生き抜くためにもがいた末、悲劇的な事件へと至る。
彼らの共通の夢は、社会が、人生が、公正なゲームであること。そのためのルールとは何か。ルールのルールとは何か。そもそも、ゲームとは何か。そういった主題が繰り返し語られる。
下巻では民主化の進む近未来(2023年)のカンボジアで、政治の頂点に上りつめようとするソリヤと、過去の悲劇的な事件ゆえ、それを阻止しようとするムイタックが描かれる。ムイタックの武器は、あくまでゲームだけ。
楽しめないゲームはルールが悪い。ならば、楽しむことをルールに織り込んでしまえばいい。そんな発想を、ほんの子供の頃からしていたムイタックが作り上げたゲームとは。
それを詳しく語るとどうにもネタバレになりそうなので、やめておく。とにかく読むべき。
そして、上巻をもう一度“思い返す”のだ。ヒントはいくつもある。
かつてのムイタックとソリヤのゲームの勝敗はどうだったのか。不思議な力を持つ村人は本当に存在するのか。ソリヤの夫であるマットレスの経歴はポル・ポトのインタビュー(これはGoogleで検索してね)と関係があるのか。
ついでに、P120関連では事象関連電位を検索してもおもしろい。ポケモン事件とかも出てくるよ。(ムイタック教授はググれカス好き)
そういうことをいろいろ考えると、物語世界はくるっとひっくり返るのだよ。まさに、物語、革命、想像力を主題とした規格外のSF巨編だった。
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