『死者の短剣 地平線』 ロイス・マクマスター・ビジョルド (創元推理文庫)
湖の民ダグと、地の民フォーンのラブラブカップル(笑)が活躍するファンタジー・シリーズの完結編。
ダグの基礎継ぎの匠への弟子入りと、北部への帰還の旅。そして、その旅での悪鬼との戦いが描かれる。
上巻の話の流れでは悪鬼は出てこないのかと思いきや、下巻でとんでもない悪鬼が出現。しかし、それに対抗するフォーンたち地の民の戦い方もとんでもなかった。いや、よく見ると表紙の通りなんですが。いや、最終的に弓を持っている人が違うか。
フォーンの兄の結婚や、レモとバーのコンビのダブルナンパに、あっちでこっちで、くっついたり離れたりもあって、ついには悪鬼を倒したにも関わらず、フォーンに命の危機が!ってあたりが一番面白かった。女の嫉妬は怖いですね。
いや、これは女の嫉妬ではなく、人種差別、カースト差別のエピソードとして見るべきなのだが。特に、ダグは湖の民、地の民、さらには、川の民の融合と団結(とまでいかなくても協調)を目指しているのだし。
解説を読むまですっかり忘れていたのだが、湖の民はもともと騎士階層で、平民である地の民との間の階層差別は歴史的なものなのだよね。そして、戦争が終わって(悪鬼戦争は終わってないけど、悪鬼の出現はまばら)、仕事を無くしつつもプライドを捨てられない武家の立場というわけ。その背景が忘れ去られがちなので、湖の民がただの偏屈ものの集団に見えることもある。
シリーズ全体のテーマを考えれば、最後の最後で出現したニータという人物は民族融合を願うダグにとって、非常に大きなカギを握っているのだと思う。物語の中での位置づけとしては、これからダグの進む道の困難さの象徴といってもいい。
日本の幕末や中世の終わりごろには似たような話が合ったんだろうか。でも、工業化によって封建制度が終わり、近代戦争の始まりとなった現実の歴史に比べ、平和になったから武家階層の存在意義が薄れていったというのは、なんと牧歌的なことか。どこかの居留地が周囲を武力制圧し始めてもおかしくないと思うのだけれど。
で、結局、悪鬼や泥人、それに対抗する湖の民の出自は伝説で語られるだけで、その“SF的”な設定は詳しく語られずに終わってしまったのだけれど、個人的にはそのあたりをもう少し突っ込んで欲しい気がする。できれば外伝か何かで、太古の封建時代の崩壊と最初の悪鬼の誕生あたりを……。
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