『動物農場〔新訳版〕』 ジョージ・オーウェル (ハヤカワ文庫 epi)
『虐殺器官』の映画公開記念であるディストピア小説フェアから。
『動物農場』は共産主義批判とか、権力はいずれ腐敗するといったテーマの小説だと聞いていた。しかし、読んでみたら、あまりに直接的なソ連批判で大笑い。
寓話とかのレベルじゃないよ。あきらかな中傷レベル。悪口。罵倒。メイナー農場の失敗は、メージャー爺さん(レーニン)の「動物主義(共産主義)」思想とは無関係。ユートピアの行き着く先がディストピアだったわけではなく、一人のずるがしこい豚がユートピアの芽をつぶしたというお話。
これ、ナポレオン(スターリン)さえいなかったら、うまくいったんじゃないの。共産主義だから失敗したわけでも、動物だから失敗したわけでもない。いや、動物だから頭が悪くて、ナポレオンに騙されやすかったということか。っていうか、ソ連の市民を従順な羊やら愚鈍なロバ呼ばわりで、どう考えたって中傷以外のなにものでもない。
もし、この寓話から教訓を得るとすれば、目を開け、耳をかっぽじろ、ちゃんと勉強しろ、自分の頭で考えろということだろうか。
しかし、それよりなにより、あとがきの位置にある「『動物農場』序文案」が必読。
もっと正確に引用すると、タイトルは「報道の自由:『動物農場』序文案」である。そして、“自由を恐れているのはリベラル派なのであり、知性に泥を投げているのは知識人だ。私がこの序文を書いたのも、この事実に注目してもらうためなのだ。”で締められる。いや、すごいね!
当時のリベラル知識人においては、思想的に正しい(はずの)共産主義の体現者をブタ呼ばわりするのは許されない、という風潮があったようだ。あのBBCですらそうなのだから、現代においてトランプがBBCをフェイクニュース呼ばわりするもの当たり前のことだろう。何しろ、奴らの頭はせいぜい60年代で止まっているからな。
この話はもっと注目されるべきだし、特にリベラル派を自認する(より現代的に言えば、反トランプな)人々はもっと注意深く読むべきだ。そして、この「序文案」を噛みしめろ。レッテル貼りはやめろと言いながらレッテルを貼る。ヘイトスピーチをやめろと言いながらヘイトスピーチをする。結論ありきで考えるから、そういう言動しかできないし、それが滑稽なことに自分では気づけない。
絶対に正しい思想なんて無いし、絶対にうまくいく主義なんて無い。どんなにすばらしい思想であっても阿呆の手にかかればこのざまだ。唯一必要なことは、受け売りではなく、自分の頭で考えること。思考停止せず、周りに流されず、自分の目で見て、自分の耳で聞いて、自分の頭で考えること。そして、もっと重要なことは、自分の頭で考えられるだけの知識と教養と頭の回転の速さを身につけることだ。
……それができれば苦労はしないのだけれどね。
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