『シップブレイカー』 パオロ・バチガルピ (ハヤカワ文庫 SF)
なんと、パオロ・バチガルピのヤングアダルト小説。
舞台は『ねじまき少女』や『第6ポンプ』と同様の、エネルギー枯渇によって人類が滅びに向かっていく近未来。
過去の遺物である石油タンカーを解体しながら生計を立てている村で、シップブレイカーの少年と、難破した大富豪の娘が出会い、大冒険を繰り広げる。
YAだけあって、ボーイ・ミーツ・ガールと、少年の成長が、非常に読みやすく、しかし、スリリングに描かれる。
そして、メッセージ性のあるテーマもわかりやすい。それはつまり、格差の固定と差別の問題。
少年と少女の住むべき世界の違い。半人と呼ばれる人造人間が文字通り奴隷として機能する社会。
主人公のネイラーが身分社会をまさにブレイクしようとするとき、すでに奴隷の軛を逃れている謎の半人トゥールが、社会の不自然さを考えさせる鍵となる。
“わかりやすさ”は“わざとらしさ”につながり、類型的なストーリーになってしまっているかもしれない。明確なハッピーエンドで終わるというのもバチガルピとしては珍しい。このあたりはさすがにYAという感じ。
バチガルピ的で陰鬱な未来と、YAとしての明るい未来がギリギリのラインで均衡を保っている辺りに著者の苦労が見える。
実は、編集者がNGにしたネタや、実現しなかった結末があったりしそうな気がする。そして、そっちの方が絶対に面白そうだ。
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