神なる冬

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[SF] プロテウス・オペレーション

2010-08-10 20:32:17 | SF
『プロテウス・オペレーション』 ジェイムズ・P・ホーガン (ハヤカワ文庫SF)




東浩紀の『クォンタム・ファミリーズ』や、村上春樹の『1Q84』など、量子SF、時間SFが流行りなので、ということで上下巻から1冊にまとまって新装復刊されたこの本。期せずして急逝した著者、J・P・ホーガンの追悼本になってしまった。

しかも、訳者はやはり今年亡くなった小隅黎(柴野拓美)さん。実はSF大会中に読んでいた本でして、オープニングでも、クロージングでも泣けましたなぁ。

さて、感想なんですが、第二次世界大戦のヨーロッパ戦線は断片的な知識しかないので、どこまでが我々の歴史と重なっているのかが良くわかりません。このあたりがちゃんとわかっているのだと、もっとスリリングに読めたのだろうに。

それでも、実在の科学者や小説家の名前が出てくるたびにクスクス笑いを引き起こすようなくすぐりが満載で、著者も楽しみながら書いたんだろうなというように思える。

時間移動の仕組みはまったく意味不明だが、これが過去と未来に螺旋を描きつつ、無数の世界に発散していくイメージは、ある意味、美しくも哀しい。まさしく、美しくて格好良くて哀しいのがSFなのだ。

そして、それが明らかになったときの主人公たちの反応も格好よすぎる。

『星を継ぐもの』でサイコーにすばらしいのは、月面で発見された謎の死体から始まるミステリではなく、ダンチェッカー教授の演説であると思っている。あれほど、科学が持つ未来への希望を表した演説は他にない。

『プロテウス・オペレーション』においても、やはり登場人物のひとりであるウィンスレイドの言葉がすばらしい。

「すべての世界を変えられないなら一つの世界をいい方向へ変えようとするのは無意味だというのかね?」

まぁ、「エゴだよ、それは!」という反論は当然あるんだろうけれど、この言葉から始まる宣言は、世界を少しでもいい方向へ変えようとしている人々への大きなエールとなるだろう。そして、この複雑でスリリングでご都合主義な物語は、すべてこの言葉を語るためにあったのだと言い切っても良いだろう。

ホーガンは晩年にトンデモ系へ走ってしまったといわれているが、科学が拓く未来へのポジティブな信頼感という面では変わらない。核の軍事利用やバイオハザードの恐怖に怯えるのではなく、より良い未来を作るための科学であるのだというこの意志を、我々SFファンも持ち続けていかなければいけないんじゃないかと思うのです。



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