カワセミ
都道府県に設置・運営されている職業技術専門校(都道府県によっては専門学院等名称が異なる)では中学や高校卒業者を対象とした1年間以上の養成訓練が実施されている。そこでは生活指導の教科の中でヒューマンスキルが含まれているが、それを目指したものでなく、社会常識や一般ルールの指導が主体となっている。
では、何故、企業のヒューマンスキル力のニーズが高まったのであろうか。結果として逆説的に、ヒューマンスキル力の欠如があるからで、その内容は協調性、社会性、集団的行動等であり、欧米型個人の主体性とは将に対極にあるニーズといえよう。指摘しておきたいことは、多くの企業では自社内での人材育成プログラムが弱体化し、OJTによる指導担当者の自信喪失の顕在化が考えられる。企業が短絡的なヒューマンスキル力を持った人材の採用にシフトしてきていることの表れではないか。リストラ等で企業構造や働き方は変わっても、伝統を重視する我が国の企業文化や精神性までもがそう容易く変わらないということであろう。
日本人社会の精神構造を研究されている中根千枝氏が喝破していたように、島国である日本人社会は欧米とは異なる独自の精神構造を発展させてきており、特に組織では、個人ではなく集団としての行動が求められ、欧米の「えらび」に対し「あわせ」であるとしている。戦後教育の基本は、欧米型の「えらび」を根源とする個人のアイデンティティを重要視する方向で進んできた。先のアンケート結果を企業が求めるヒューマンスキル力を提言としてとらえてみると、組織として欠くことが出来ないとするニーズの高まりを、極論すれば、人間力育成を目的としている戦後教育訓練の方向性に疑念を投じていると思われる。教育訓練の思想の変化をどうとらえるかは今後の研究者や行政に期待するしかないが、冒頭で述べた人材育成は師弟との対面後に、「あわせ」の実践において、自己との異質性を発見し、その差異を人間の幅の広がりとして涵養する(多様性体験)。実践を通じて出来ないことへの原因を探求し、成功へと導く努力や挑戦をする(成功体験)との統合した形を有している。繰り返すが、就職して他者から学ぶ差異経験と、その後の個人の探求心や成功体験との蓄積が、自ずとヒューマンスキル力を高める解となるようである。(このシリーズ今回で最終回です)