公益社団法人日本工芸会が開催する第63回日本伝統工芸展(平成28年)はすでに東京三越デパートを会場に開催された。現在は日本各地での展示会が逐次実施される。今回日本工芸会の賞は総裁賞、奨励賞と新人賞の3点であり、このほかに入選がある。この新人賞に輝いたのは、初めての応募で、年齢80歳を超える本間昇氏の神代桂菱紋重糸目筋箱である。部門は木竹工部門である。技法は箱根細工の伝統を生かした手法である。本日のNHKの放映で知った。
応募分野は陶芸、染色、漆芸、金工、木竹工、人形、諸工芸に分かれている。どの作品も優れており、我が国の伝統工芸をベースに、斬新なデザインや、技法の工夫等が見られ、世界へ発信したい最高級の作品ばかりである。
伝統工芸展は、10月ごろに東京で開催されるが、機会があればできるだけ見学に行くこととしていたが、最近はインターネット上で見ることが可能となったため、混雑する会場へは出向かなくなった。最初に見学に行ったのは大学3年の頃であったと思う。大学の授業で漆工芸の単位があり、授業の一環で、学生と芸大出身の助教授とで漆工芸に絞って、解説付きで見学した記憶がある。その時も、あまりにも技能レベルの違いに驚き、華やかな世界が広がったという強い印象を受けた。
伝統工芸に関する私見については何度かこのブログで紹介したことがあり、どちらかというと、芸術ではなく、実用性についての方向性の模索を論じたが、伝統産業の多くの分野は、その永続性を危惧されている。その理由は大量生産に向かず、趣味の世界かもしくは特定の愛好者や富豪などの贅沢品となってしまっているからに他ならない。実際に、材料費の高騰や、すでに生産されなくなった材料や道具については新たに特注しても、手に入らない状況にある。一部の分野においては継承がうまくいかず、すでに廃れてしまった世界もある。
伝統工芸をいかにして継承するかについては、映像で残すことや、資料館等で保存し、公開するような努力とともに、若者等へ、体験や育成に力を入れている方も多いが、思うような伝承ができていないのも確かなことであろう。いくら熱心に訴えたところで、その技が生業として生計を立てることができなければ、後継者がいなくなるのは当然のことで、博物館行となってしまう。悩ましい限りであるが、隆盛を誇った時代への逆行も難しい。 願わくは、伝統技法をベースに現代にあう工夫が新たな世界を切り開くことにつながることと思料される。