サッカー狂映画監督 中村和彦のブログ

電動車椅子サッカーのドキュメンタリー映画「蹴る」が6年半の撮影期間を経て完成。現在、全国で公開中。

『聲の形』とデフフットサル女子

2015年07月18日 | 手話・聴覚障害

 少年マガジンに連載されていた『聲の形』(ろう者の女の子が主人公)とFC岐阜のコラボマッチが、7月12日(日)に開催されたそうです。作者が岐阜県大垣市の出身で岐阜に縁があるからのようです。 また『聲の形』の主人公がろう者の女の子である事から、今回デフフットサル女子日本代表もなんからの形でコラボしたようです。
 詳しくは、FC岐阜のHP http://www.fc-gifu.com/information/9634 

 本当は開催前に『聲の形』の感想なども含めてブログを更新しようとしていたのですが、書きかけたままになっていました。

 『聲の形』に関しては以前少年マガジンで読み切りで掲載された時に目を通し、ブログにも書き込みました。2年ほど前のことです。
ブログの記事
http://blog.goo.ne.jp/kazuhiko-nakamura/e/e4a8cb73159732effc738312c8699c00

http://blog.goo.ne.jp/kazuhiko-nakamura/e/5458045089e308a1ceec8ae0088a5c4c

その後、今年に春ですが単行本全7巻をやっと読み、ブログに書きかけて放置していました。途中までは春に書きかけていた文章です。
 
 「この漫画がすごい」男が選ぶ第1位にも選ばれたわけだが、多くの読者が関心を引いた理由は以下のようなことになるだろうか。
いじめを扱ったこと、そこに障害がからんでいること、主人公の将也がいじめる側からいじめらる側になるという両面を描いていること、そしていじめた側といじめられた側の関係の修復が描かれた(描かれつつある)こと。しかも“少年誌”の連載という形であったことなど。
私自身も上記の点は画期的だとは思う。
ちなみに手塚治虫文化賞新生賞にも選ばれたそうで、受賞理由は「障害者と『いじめ』という重い題材から力強い希望と再生の物語を紡ぎ出したことに対して」だそうです。

 感想などを読むと描写そのものもかなり評価されているようだが、その点はそれほどか?とは思うものの、きっと相対的にはいい作品なのだろう。
 全体の印象としては、大枠の構成が当初からありそこにエピソードが詰め込まれた印象で心情的な部分は弱いような気もした。自殺へといたる女の子(西宮硝子)の心情が少々理解しにくいように思った。
 作者のインタビュー記事によると全体構成として主人公の将也目線で描き、(基本的には)将也が見聞きした事以外は描かないという意図もあったようだ。読者は知っているのに登場人物は知らないという構成がいやだったのかもしれないが、硝子のことは情報として小出しにした方が得策という目論見もあったのかもしれない。

 作者の母は手話通訳士だそうだが、漫画内の手話に関しては静止している絵ということで書く方も苦労があったと思う。手話のどの部分かはおおよそわかったが、1箇所だけわからないところがあった。ちなみに作者は岐阜県出身のようで東京とは違う手話表現だと思った箇所もあった。

 硝子の聞こえない聞こえにくい部分に関してはかなりわかりにくいことになっている。というよりあまり現実にはいなさそうな設定になっている。読み進めている間、いったい硝子はいつ手話を覚えたんだろう、何故日本語力がかなりあるのだろうと凄く疑問だった、というか不思議だった。「まあ漫画だから手話ができる設定にしておいた方がストーリー的には好都合で、そうしているのかな」と考えるしかなかった。 
 
 実際の聴覚障害者は大きく二つに分けることができる。ろう学校に通い、ろう社会と何らかの接点をもち手話を身に付けている人々、そのなかには親も聴覚障害者でデフファミリーと言われる人々もいる。そして聴者(聞こえる人)の学校に通い、ろう社会との接点もなく手話を身に付けることのなかった人々である。今年聴覚障害者の議員が2名誕生したが、明石市市議の家根谷さんは前者、北区区議の斎藤さんは後者である。
(かなり以前は小学校に通うこともできなかったという時代もあった。また後者であっても大学入学や成人後に手話を身につけた人も多い)。

 『聲の形』の主人公・西宮硝子はどちらにもあてはまらない。
 小学校6年生までは普通校に通っているが手話は出来る。口話は苦手だが日本語力はある。こういう人は(私の知る限りでは)現実の世界では少ない。 親がともに手話を覚え、普通校に通っていても手話ができる。口話もできる。日本語力もあるという人は少数ながらいるだろう。今後は増えてくる可能性もある。

 硝子のプロフィールを漫画にそってみていくことにする。彼女は胎内にいる時の何らかの感染症で聞こえない子供として生まれてくる。しかし聞こえないということがわかったのは3歳の時だ。硝子くらいの年齢であればもっと早期にわかる場合が多いが、障害者手帳をぎりぎり取得できるくらいの聴力の場合はわからない場合も多い。
 聴覚障害者ではなく知的障害を疑われる場合も多い。しかし硝子はもっと重度(105~110db)でそれくらいの聴力レベルで3歳までわからないケースは21世紀に入ってからだと極めて珍しいだろう。作者は彼女を口話があまりできない設定にしたかったようで、そのために3歳までわからない設定にしたのだと思われる。もっと早くにわかった場合は聴覚口話法で口話がかなり出来るようになる人も多い。 ちなみに右耳は徐々に悪くなり高校の時点ではほぼ全く聞こえなくなったようだ。

 聴覚障害があると分かった時に、母は義父から「わざと隠してたんだろう。わしらの家にあーゆーのはいらん」とののしられ、産んだ母親のせいにされ、夫と義父母から離婚を迫られる。「今時こんな人たちがいるのか!」とも思うが、いつの時代でもいろんな人がいるわけで。とにかく作者は父母にではなく、『母』に育てられる設定にしたかったようだ。この点は作者のかなりのこだわりがあるのかもしれない。
 
 まあとにかく聴覚障害児はここからが大変である。言語をどうやって獲得するかという大問題に直面するわけだ。それをどう解決するか、多くは母親に委ねられる。補聴器を付け、ろう学校幼稚部へ通い、自宅に帰って聴覚口話法で来る日も来る日も発音練習。つまり自然言語でない日本語を第一言語として覚えるということである。もちろんいろいろと調べたうえで手話を第一言語として覚えるという選択をする親もいる。
 しかしこの漫画では言語獲得の大問題は祖母が担ったようだ。おそらくろう学校の幼稚部には通って口話練習も繰り返したようだが、祖母が鬼になれなかったぶん(?)あまり口話は身に付けられなかった。しかし手話は手話サークルに通って覚えたようである。ほぼ第一言語として覚えたものと思われる。そして少なくとも小6の時点で書記日本語もかなり使いこなせるようになっている。つまり硝子はそれなりのレベルで手話と書記日本語のバイリンガルであるように思える。実際、筆談の日本語も問題がないように描かれていた。
現実の聴覚障害児にとっては、日本語力を 身に付けることが大変だ。しゃべるということではなく書記日本語(書いたり読んだり)の力である。助詞の使い方や音読み訓読みの読み分けなどの苦労する場合が多い。

 母親は言語獲得の大問題は祖母(自分の母親)や妹(娘)に委ねたようだが、とにかく普通校に通わせることにはこだわったようだ。離婚をせまられた元夫や義父母に対する意地ということなのだろうか?
 硝子が普通校でいじめられてもから普通校に転校。その後さらに大きないじめがありあきらめたのか、ろう学校に転校させることにしたようだ。 硝子は手話もできるのだから、硝子としてはろう学校に行ったほうが確実に楽だが硝子の意志はよくわからない。というか描かれていない。漫画ではろう学校という名称は不自然なまでに避けられているし、描写も全くない。何故描写がないか?前述したように将也が知らないことは描写しないことにしたかららしい。

 繰り返しになるが、硝子は小学校6年生までは普通校に通っているが手話は出来る。口話は苦手だが日本語力はある。このことはかなり特殊な設定であり、そのことが聴覚障害者の理解という点ではわかりにくくなっている。
 漫画というフィクションに対してくそリアリズムで語るのは本当に野暮だが、硝子は聴覚障害者のことを知らない人が思い描いたとおりの設定になっているとも言える。そのほうが漫画的に好都合だからだろう。
 
  硝子はかなり特殊な設定だが、作者の母親が手話通訳士であったり、全日本ろうあ連盟も当初は監修していたようなので裏付けはなされている。ただ正直かなり苦しい説明になっている印象だった。

 ぐだぐだと書き連ねて、まとまらない文章になってしまいました。

 ところでFC岐阜のスタッフのかたとは、以前(確か2010年)岐阜県内で開催されたCPサッカー(脳性麻痺7人制サッカー)の合宿地でお会いしたことがあります。合宿中に私の監督作「アイ・コンタクト」の上映会があってFC岐阜のスタッフのかたが観に来られたんです。

 冒頭で触れたデフフットサル女子日本代表は、11月20日~28日、タイで開催される世界大会に参戦。グループリーグは、ロシア、トルコ、スペインと同組。ロシアは前回大会優勝の強豪。参加国は16か国。
 男子は、トルコ、ノルウェー、ベネズエラと同組。トルコは前回大会優勝国。男子も参加国は16。
 男女チームとも世界大会に向けた強化合宿を積み重ねている。

 (参考)
日本ろう者サッカー協会HP  http://jdfa.jp/
日本ろう者サッカー協会 フットサル委員会公式HP http://deaffutsal.grupo.jp/



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