そんな彼女に見詰められて、自分を隠すのはむずかしい。
「まあ、いいわ。私これから学校の方へ出かけるから、何か用事があったならそちらへ電話ちょ
うだい」
優美は表情を変えずに、さっと瞳を返して、そのまま7階には上がらずに、奥のレジの陰からシ
ョルダーバックと、大ぶりの手提げ紙袋を取り出して出掛けて行った。
あやはその後姿を見送って初めて、優美があの大きな紙袋を提げて7階から下りて来ていたこと
を知らずにいたことに気が付いた。
あやはこの時になってふと、社長との会話を聞かれていたのではないかと不安にかられた。
自分が二人の間の、つまらぬ争いの原因になるのだけは御免である。
女の職場でもめごとと言えば、大半が男がらみだ。
あやはここに来るまでの4年間で、転々とした店での苦々しい記憶が甦ってくるのを覚えた。
くっ付いたの離れたの、裏切ったの裏切られたのとの騒ぎは、所詮は痴話喧嘩だ。
当人同士以外には面白い見物なだけだ。
そのことを心を動かした男の不実で、身を持って知らされた。
三角関係なんて、ありふれた巷の与太話みたいなものだ。
その話の悲しみは当人にしか分からない。
3年前、あやはその舞台に上がっていた。
いつもは観客席にいた自分の場所が入れ替わって、初めてその苦痛と怒りとみじめさを識った。
男に対する不信の念は、生涯消えることがないに違いない。
だからもう、例え他人事でも関わりたくないのだ。そのために仕事を失うなどというのは、金輪際
ごめんだ。