伊達だより 再会した2人が第二の故郷伊達に移住して 第二の人生を歩む

田舎暮らしの日々とガーデニング 時々ニャンコと

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ジャコシカ99

2019-03-17 00:02:14 | ジャコシカ・・・小説

熱燗の最初の一口が喉を通った瞬間に、高志は落ち着かぬ気持ちの出処に気が付いた。

 高里久美その名は過去の時の中に、置いてきたつもりだったのに、再び胸の奥で囁き始めていた。


 「私、高志と会うのはこれきりにするわ」

 ある日、久美は映画の後の喫茶店を出る時に言った。

 こともな気に「じゃあね」と、いつもの別れの時の口調だ。

 思わず「じゃあ」と向けかけていた背を戻した。その眼につい今し方までコーヒーを飲みながら

向かい合っていた、平静な顔があった。


 聞き間違いかと思って、その眼を覗きこんだ。

 「残念だけれどそれしかないの」

 表情と同じく静かな声、動かない黒い瞳。

 ただっ広い劇場のような教室で、初めて見た時の驚きが高志の心に甦った。

 その静かな美しさに囚われてから半年が過ぎていた。

 初めて恋というものを知った。

 それからの久美は高志にとって、生活の全ての中心だった。

 決して口には出さなかったが、特にそぶりには見せなかったが、彼女と会っている時は煌く光の

中にいた。

 二人の関係は不変の光りに包まれていると思った。その光りがしゃぼん玉のように、ポンと弾け

て消えてしまった。

 見廻せば辺りは冬枯れの荒野だ。
 
コメント
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