逆に酒の力を借りたせいか、高志はクラゲから荒海のイルカになった。
嵐の海を渡った後は、さんさんと陽の降り注ぐ空虚の海で二人とも筏の上で、横たわっていた。
やがて眠りに落ち、次に眼を開けた時は、隣にはもう美奈子はいなかった。
彼女は現われたい時に現われ、去りたい時には去る。
高志はなんとなく納得し、なんとなく安心する。彼女の去った後の目覚めの時は、ちらりとカー
テン越しの薄明かりに浮かぶ目覚まし時計を見て、再び変わらぬ眠りの中に落ちこんでいった。
二人の関係は周囲には殆んど、気付かれることはなかった。
美奈子の態度は、完璧なまでに、以前と変わらなかった。
彼女が変わらなければ、高志には変わりようもない。
彼女は毎日アパートを訪れるかと思うと、ふいに一週間も二週間も顔を見せなくなる。
しかし、どんな日も彼女が朝まで高志の部屋にいることはなかった。
家族の誰かと暮らしているのかを訊ねたことがある。
「一人暮らしよ」そう答えただけで、後は何も応えない。
店では毎日顔を合わせているのに、そんなことについて互いに何か言葉を交わすことはない。
そんな日々の中で高志は次第に、自分が春までここにいるのかどうか、分からなくなっていた。
そもそも何処かへ行きたくなったら、季節は関係なくなるのは分かっていた。
それでも毎日の雪かきは、彼のそんな考えを押し止める力があった。
アパートの玄関先から、5メートル先の通りまではやらねば文字通り、閉じこめられてしまうし、
店の入口前はいつの間にか自分の受け持ちになっている。
毎日のことなので、ちょっと一服小休止の間に、ドロンを決めこむのも難しいのだ。
二月に入ると寒さも威力を増し、さすがに雪はもう沢山と音を上げ始める。
嵐の海を渡った後は、さんさんと陽の降り注ぐ空虚の海で二人とも筏の上で、横たわっていた。
やがて眠りに落ち、次に眼を開けた時は、隣にはもう美奈子はいなかった。
彼女は現われたい時に現われ、去りたい時には去る。
高志はなんとなく納得し、なんとなく安心する。彼女の去った後の目覚めの時は、ちらりとカー
テン越しの薄明かりに浮かぶ目覚まし時計を見て、再び変わらぬ眠りの中に落ちこんでいった。
二人の関係は周囲には殆んど、気付かれることはなかった。
美奈子の態度は、完璧なまでに、以前と変わらなかった。
彼女が変わらなければ、高志には変わりようもない。
彼女は毎日アパートを訪れるかと思うと、ふいに一週間も二週間も顔を見せなくなる。
しかし、どんな日も彼女が朝まで高志の部屋にいることはなかった。
家族の誰かと暮らしているのかを訊ねたことがある。
「一人暮らしよ」そう答えただけで、後は何も応えない。
店では毎日顔を合わせているのに、そんなことについて互いに何か言葉を交わすことはない。
そんな日々の中で高志は次第に、自分が春までここにいるのかどうか、分からなくなっていた。
そもそも何処かへ行きたくなったら、季節は関係なくなるのは分かっていた。
それでも毎日の雪かきは、彼のそんな考えを押し止める力があった。
アパートの玄関先から、5メートル先の通りまではやらねば文字通り、閉じこめられてしまうし、
店の入口前はいつの間にか自分の受け持ちになっている。
毎日のことなので、ちょっと一服小休止の間に、ドロンを決めこむのも難しいのだ。
二月に入ると寒さも威力を増し、さすがに雪はもう沢山と音を上げ始める。