高志は千恵と清子に手作りの糸巻仕掛けの扱いと、餌の付け方を手ほどきする。
とは言っても、二人共釣りはまるっきりの初心者という訳ではないので、殆どその必要がないく
らいだ。
あやは慣れた手付きで全てをこなし、姉妹がエサ付けにかかる頃には、もうタナを取ってさぐり
に入っている。
高志が自分の仕掛けに餌付けを終えた時には、早くもあやは第一声を上げた。
水深20メートルの当たりは反応が分かり易い。
最初の1匹には全員の視線が集中する。
たぐり上げるあやの手元が重そうで、時々止まる。
「大きいね」
千恵の声が昂る。
清子が身を乗り出した。
たちまち白い魚影が朧な光に包まれ、ひらひらと舞いながら上がってくる。
次の瞬間あやのかけ声と同時に、船底でイシガレイが踊った。
このカレイは背側に鱗がなく、柔らかなゴムのようで色は真っ黒だ。
逆に腹側は真っ白で、こちらも鱗はない。
鱗がない代わりなのかどうか分からぬが、背側には二列の石のように堅い骨が張り付いている。
イシガレイの名の由来は、ここからきている。煮ても焼いても旨いが、刺身は特に美味だ。
「サシミ、サシミ、今夜はサシミだね」
千恵が大声で言う。
そう言っている彼女にもアタリが来た。