俯き自分の足元を見つめている。お歴々も黙った。
ややあって赤間はパンと膝を打った。その眼が愉快そうに笑っていた。
「分かった。じゃあ今夜はここに泊まれ。そこの襖の向こうは畳の間で、漁協の組合員が仮の宿
泊ができるようになっている。蒲団もある。事務所にはわしが話しを付けてきてやる。ここなら行
き斃れの心配もない。それで明朝汽車で函館に発てばいい。そうしろ」
「それだよ」「それがいい」
母さん達が声を揃える。
赤間は彼の返事も待たずに腰を上げ、引戸に手をかけたが急に振り返って言った。
「歳は幾つだ」
「26歳です」
「若くていいわね」
高志の返事に幾つかの溜息まじりの声が上がった。
結局彼は赤間の図らいで、漁協の休憩所に泊まることになった。
翌朝、漁船の荷下ろしとセリが一段落した頃に、赤間が今度は徒歩でやって来た。
昨日来の雪は夜中には止んでいたが、膝までの深さになっていた。
彼が現れた時、セリ場は母さん達が水を流し、後片付けをやっていて、その中に混じって高志も
ホースで水を流しながら、デッキブラシでコンクリートの床をみがいていた。
「おお、まだいたか、夕べは眠れたか」
猛が近付きながら、まだ離れている場所から大声を上げた。
高志はなんとなく、畑で声をかけられているような気がした。
ややあって赤間はパンと膝を打った。その眼が愉快そうに笑っていた。
「分かった。じゃあ今夜はここに泊まれ。そこの襖の向こうは畳の間で、漁協の組合員が仮の宿
泊ができるようになっている。蒲団もある。事務所にはわしが話しを付けてきてやる。ここなら行
き斃れの心配もない。それで明朝汽車で函館に発てばいい。そうしろ」
「それだよ」「それがいい」
母さん達が声を揃える。
赤間は彼の返事も待たずに腰を上げ、引戸に手をかけたが急に振り返って言った。
「歳は幾つだ」
「26歳です」
「若くていいわね」
高志の返事に幾つかの溜息まじりの声が上がった。
結局彼は赤間の図らいで、漁協の休憩所に泊まることになった。
翌朝、漁船の荷下ろしとセリが一段落した頃に、赤間が今度は徒歩でやって来た。
昨日来の雪は夜中には止んでいたが、膝までの深さになっていた。
彼が現れた時、セリ場は母さん達が水を流し、後片付けをやっていて、その中に混じって高志も
ホースで水を流しながら、デッキブラシでコンクリートの床をみがいていた。
「おお、まだいたか、夕べは眠れたか」
猛が近付きながら、まだ離れている場所から大声を上げた。
高志はなんとなく、畑で声をかけられているような気がした。