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1994年のパキスタン。ある多国籍企業ラスタ社(仮名)に、大卒資格がないにもかかわらずセールスマンとして採用されたアヤンは、前職での医師たちのツテと人好きのするキャラが奏功し、粉ミルクの営業で好成績をあげ、新妻ザイナブとの間に子も生まれ、幸せに暮らしていた。
が、旧知の医師から、粉ミルクについての恐ろしい真実を知らされたアヤンは、ラスタ社を辞めてしまう。そして、粉ミルクの実態について告発しようとするのだが、、、。
2014年制作なのに、やっと日本で今、世界初の公開に踏み切れたという問題作、、、らしい。
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日本が世界に先駆けて公開に踏み切った、なんてこともあるのねぇ~、と意外な思いがしたので、とりあえず劇場で見てみようかと行って参りました。監督のダニス・タノヴィッチの映画『ノー・マンズ・ランド』も『鉄くず拾いの物語』も見ていないし、予備知識も新聞の評を読んだだけでほとんどナシでございました。
◆多国籍企業ラスタ社(仮名)はまるでヤクザ。
多国籍企業の実名は、本作内で1度だけ出て来ます。1度でも出すんだったら、仮名にする必要あんの? と不可解だけれど、まあ、あんまし社名を連呼するのも憚られたってことでしょうかね。
正直、その社名を聞いて、さもありなんと思いましたね。世界的に評判が悪いからではありません。大昔、個人的に、この企業にはとてもイヤな思いをさせられたからです。詳細は書けませんけど、日本法人の広報の担当者(もちろん日本人)は、恫喝まがいのことを平気で言ったり、こちらがそれに対して文書でロジカルに説明をした途端ダンマリを決め込んだりと、広報のイロハをも弁えぬサイテーな対応をしてくれました。
それを機に、私は、その企業の製品は一切購入していません。どんな人間であれ、彼らにとっては客の一人であることを考えない浅はかな企業だなぁ、と、言っちゃ悪いけど心底軽蔑しました。企業の顔と言っても良い広報がそんな体たらくなんて、どんなにTVCMでイメージ戦略を打っても、自らそれを台無しにしているようなモンでしょ。図体がデカイからと言って、末端の客一人の切り捨てに頓着しない企業なんて、所詮底が知れていると思いました。
ただねぇ、、、困ったことに、職場でこの企業のお菓子をくれる上司やら同僚やらがいるわけですよ。当然、彼らは何も知らないし、何よりメジャーな菓子なんで。そうすると、「私、そこの菓子は食べないから!」とは言えないわけです。でも、やはり口にする気にはなれないので引き出しの肥やしに、、、。こっそり捨てるときの罪悪感。たとえクソ会社の商品でも、食べ物は食べ物。食べ物を捨てることには、やっぱりものすごい後ろめたさを感じます。なんであの会社に、こんな後ろめたさまで感じさせられなきゃいかんのか! と憤りも感じますけど、それは筋違いな憤りでもあり、悩ましいものです。
とはいえ、粉ミルクを、パキスタンの下水施設の整備されていない貧困地域で売りさばいたのは、なにもその企業だけじゃないんですよ。他の企業の実名は出て来ませんでしたけど、そういう意味では、1社だけ実名を出すってのはいかがなものかという気もします。まあ、だからといって実名を全く出さないってのも、それはそれで事実を隠蔽しているみたいで、制作側としてみれば出したいのも分かります。だから、1度だけのチョイ出し、ってことにしたんでしょうね。
あとは、その企業が、アヤンのモデルとなったサイヤド・ラーミル・ラザ・フセイン氏に実際に行った犯罪まがいのことの数々から検討し、企業名を作中で連呼することにより、ますます作品の公開が非現実的になることを恐れた、というのもあるでしょう。というか、こっちがメインの理由でしょうね。まあ、あの企業なら、それくらいやりかねないかもな、と思う半面、そこまでやるのか、まるでヤクザ、、、と呆れもします。
◆「汚れたミルク」の意味と違和感。
前置きが長くなりましたけれど、本作の構成は、なかなかユニークです。アヤンの経験したことを映画化するプロジェクトが、実際に映画を撮るに至るまでを描く、という設定で一連の問題が描かれていきます。現在はカナダに住むアヤンと、ロンドンのスタッフが、スカイプによる議論を始めるところから、本作は始まります。
ただ、私が本作を見ている間、ずーっと疑問だったのは、粉ミルクを売れば、汚い水で溶かれたミルクを乳児が飲むことを、アヤン自身が想像し得なかったのか、、、ということです。考えればすぐに分かりそうなことじゃないのか……?
それをさも、その企業に騙されたかのごとく怒りを向けるのは、何かこう、、、違和感を抱いちゃったんですよねぇ。
粉ミルクを、金欲しさにひたすら売り歩くセールスマンがいることも、そんなセールスマンに賄賂で丸め込まれて粉ミルクを貧困層の母親たちに薦めた医者が大勢いることも、何も知らずに言われるがまま乳児たちに飲ませてしまった母親たちがいることも、それは理解できるんですけどね。特に、母親たちは、「粉ミルクを飲むと頭の良い子になる」等というデマを吹き込まれた様ですし。
アヤンも、知っていながら金欲しさに売り歩いていたけれど、途中で考えを変えて、その企業を告発するために動く決心をした、、、というストーリーなら分かりますけど、医者に指摘されるまで全く気付かなかったなんて、んん~~、なんだかなぁ、、、という感じ。
でも、アヤンは、事実を知ってからの行動は至って速い。すぐに仕事は辞めるわ、WHOに告発するわ、ドキュメンタリー番組の制作に協力するわ、、、。その行動力には恐れ入る。
しかも、若い妻も、アヤンの実父母も、アヤンを全面的にバックアップするんです。アヤンが、告発行動を辞めようかと悩む場面でも、妻は「信念に背く夫を尊敬できない」等と言って、背中を押すんですからね、、、。家族にまで危険が及びかけているというのに。すごい女性です。私が妻なら「もうやめてくれ! 平穏な生活がしたい!!」って言っちゃうね、間違いなく。理想は、アヤンの妻のように振る舞えることでしょうけれど。
◆実話モノはねぇ……。
そんなわけで、展開の速い本作ですが、終盤、一波乱あります。アヤンが、企業の脅しに屈しかけた事実が、ドキュメンタリーの制作スタッフらに暴露され、放映予定だったドイツのTV会社が手を引いた、、、というわけです。
そしてアヤンが絶望してとぼとぼ歩くシーンでジ・エンド。字幕で、その後……、ってのが説明される。
なので、本作をドキュメンタリーと受け止めてしまう観客が、少なからずいるんじゃないか、と危惧しますねぇ。監督のインタビュー等を読むと、制作過程はまた別物だったことが分かるので、きちんとそういうバックグラウンドも観客としては知る必要はあるかと感じます。あくまで本作は、実話ベースにしたノンフィクションだ、ということをきちんと見る者に伝えるべきでは?
実話モノのイヤなところってのはこういうところで、何だか、映画で描かれていることが、さも実際にあったかみたいに見る者に錯覚させる。受け手のモラルと感性が非常に試されるジャンルの映画だと思います。
まあ、そうはいっても、ある意味、告発映画としての役割は果たしているわけだし、粉ミルクの犠牲になってたくさんの乳児が亡くなっているという事実はあるわけだから、人殺しもしかねない企業を相手に、よく腹を括って制作したな、とは思います。そういう意味で、
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