《本記事のポイント》
- 日本で生体子宮移植の実施が検討中
- 脳死臓器移植や性転換手術とのリンクも議論
- 宗教的、霊的な観点からも検討を
子宮が生まれつきなかったり、病気で失ったりした女性が出産できるようにするための「子宮移植」を、日本国内で実施するかどうかの議論が進められている。
現在、国内では慶應義塾大学のグループが子宮移植の計画を立てている。「卵子を作る卵巣はあるが、子宮や膣がない『ロキタンスキー症候群』の女性5人に実施する予定という。子宮の提供は、母親や姉妹など肉親が想定されている(10月28日付朝日新聞電子版)。移植の是非については、日本医学会が28日に検討委員会を開き、近く報告書をまとめる予定だ。
女性に子宮がない場合、子供を持ちたいと思う願いを叶える方法として、日本では「養子縁組」という手段がある。ただ、子供との血縁がないため「生みの親」にはなりえない。日本では代理出産も認められていないため、新たに出てきたのがこの「子宮移植」という手段だ。
スウェーデンでは2014年、生体子宮移植後の出産が成功。子宮移植はアメリカやチェコ、中国でも実施されており、これまでの出産事例は40以上に上る。ただ、倫理的・医学的なリスクが大きいのは事実だ。
生命を救うための移植ではない
一つは、子宮移植が生命の危険を回避するための医療行為ではないことが挙げられる。現在は、肉親からの移植を想定しているが、健康な人から子宮を摘出することは技術的に難しいとされ、場合によっては命に関わる。
また、子宮を移植されても、妊娠・出産できる保証はない。拒絶反応を抑える薬を投与し続ける必要があり、それによって健康を害する恐れもある。免疫抑制剤を投与する中での妊娠が、胎児にどのような影響を与えるかも不明な点が多い。
臓器は、付け替え可能な「パーツ」なのか
もう一つには、人間の臓器の霊的な意味がある。今回は、生きている親族の臓器を取り出す前提ではあるが、ブラジルでは2018年に、脳死臓器移植で子宮を移植された女性が出産している。
今回の検討委員会が8月に行った会見でも、飯野正光委員長は「脳死者からの移植が本筋で、そちらを目指すべきだ。しかし、法律で認められておらず、いま移植を希望している患者が救えない」としている(12日付毎日新聞電子版)。今後、脳死臓器移植で子宮の提供を認めるかどうかの検討が始まることも想定される。
本欄では、脳死臓器移植を行うことで、臓器提供者があの世に旅立つ際の妨げになるリスクを論じてきた。人間の死後、しばらくの間、魂と肉体とが「霊子線」でつながっている。脳死の状態は霊子線が切れる前であり、その段階で臓器を取り出すと、その痛みが魂にも伝わり、ショックで霊界への旅立ちの妨げになることがあり得る。
人間の臓器にも、それぞれの意識があり、拒絶反応が起こる背景には、「臓器の意識」が反発する面があるという。付け替え可能な「パーツ」のように臓器を扱うことが、結果的に幸福につながらないこともあり得ることを検討する必要がある。
賛成すべきかどうか「分からない」が半数近く
子宮移植についての賛否を、昨年11月に東京大学病院のチームが男女1600人を対象に調査している(2019年11月5日付日経新聞電子版)。「認めてよい」とする人が36.5%となり、「認めるべきではない」と答えた人の17%を上回ったという。ただし、「分からない」と答えた人は46.5%に上り、判断材料が不足していることが伺える。
こうした議論の中で、「女性から男性への性転換手術をした人の子宮」を、移植に使用することも可能性として挙がっている。加えて、「男性への子宮移植」も、医学的には可能性があるという。ただ、世界的に性転換手術が広がる中、手術を行ったことを後悔しているという証言も多い。手術によって、悩みが解消されない例が散見されるのだ。
さらに言えば、宗教的には、人間は生まれる前に人生計画を決めてくる。実子でなくとも、縁あって出会った里親と子供の関係にも、深いつながりがあると言える。医学的な検証はもちろん、宗教的、霊的な観点から、臓器移植の意味、そして家族の意味についても考える必要がありそうだ。
(河本晴恵)