デンマーク、ユトランド半島の荒野開拓を描いた歴史映画『愛を耕すひと』
2025.03.02(liverty web)
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全国公開中
《本記事のポイント》
- 荒野開拓を通じて描かれる"心の開拓"
- 見捨てられた者へ向けられる慈悲の眼差し
- デンマーク荒野開拓者の勇気と信仰
18世紀デンマーク。貧窮にあえぐ退役軍人ルドヴィ・ケーレン大尉は、貴族の称号をかけて、ユトランド半島荒野の開拓に名乗りをあげる。それを知った地元領主デ・シンケルは自らの権力が揺らぐことを恐れ、あらゆる手段でケーレンを追い払おうとする。
ケーレンは自然の脅威とデ・シンケルの非道な仕打ちに抗いながら、デ・シンケルのもとから逃げ出した使用人の女性アン・バーバラや、家族に見捨てられた少女アンマイ・ムスと出会い、家族のように心を通わせていく。
デンマークを代表する俳優マッツ・ミケルセンが主人公ケーレン大尉を熱演。ドラマ「レイズド・バイ・ウルブス 神なき惑星」のアマンダ・コリンがアン・バーバラを演じる。2023年第80回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品。
荒野開拓を通じて描かれる"心の開拓"
この映画の魅力は、主人公ケーレン大尉を演じるマッツ・ミケルセンが、その頑なに閉ざした心に芽生えてゆく繊細な感情の移ろいを、豊かな表情一つひとつで見事に演じている点である。
ケーレン大尉が求めた報酬は貴族の称号だった。社会の底辺で生まれ育ったケーレンは、ひたすら出世を目指し、他人に無関心に生きてきたのだ。そして、見渡す限り地平線が広がる荒野をたった一人で土を掘り、土壌を調べ、また別の場所で土を掘る姿には、感情を押し殺した彼の野心が満ち溢れている。
しかし、土地の所有権を主張する地元領主デ・シンケルの邪魔に遭い、使用人が雇えなくなり、ついにはジプシーの集団を使わざるをえなくなる。さらに、そのジプシーらも追放され、彼のもとに残ったのは、デ・シンケルに夫を殺された元使用人のアン、そしてジプシーから見放された少女アンマイだった。やがて、ケーレンは、世の中から見捨てられた2人と心を通わせて、ジャガイモの栽培に悪戦苦闘しつつ、心を通わせていく。
特に少女アンマイが熱病にかかり、生死の境を彷徨う中、ケーレンが逡巡した末、大事なヤギをほふり、その血と肉を食べさせるシーンには胸が熱くなる。荒野の開拓を目指しながら、実は自らの"不毛な心"を開拓しているのだというアナロジーが、ミケルセンの抑制の効いた演技によって見事に描かれている。
こうした苦難の中で、実は、自分自身の魂が磨かれていることに気づく大切さについて、大川隆法・幸福の科学総裁は講演「悟りに到る道」の中で次のように語っている。
「いろいろな出来事があって魂が磨かれるというのは、これは、本当はうれしいことなんだ。神様が自分を進化させようとしてやっておられることなんだ。
だから、これを、世を苛み、世間の人々を恨むように考えるのは間違っているのであって、このなかに必ず自分の進歩を約束するものがあるんだ。進化を約束するものがあるんだ。このなかに希望を見なければいけないんだ」
見捨てられた者へ向けられる慈悲の眼差し
この映画のもう一つの魅力は、世に見捨てられた者同士が集まって疑似的な家族をつくりながら、未来の希望に向かって生きる意味を再び見出していくことである。
特にジプシーからも見捨てられた少女アンマイは、盗みを繰り返していたものの、ケーレンによって読み書きを覚え、測量の手伝いをすることで有益な人間へと成長していく。
そして、年頃の魅力的な女性に成長したところで、旅の若者と出会い、新しい家族をつくるべくケーレンの元を離れていく。黙ってアンムスの後ろ姿を見送る年老いたケーレンの感慨深さをミケルセンが見事に演じている。
そこにあるのは、荒野開拓という共同作業を通じて、社会に有益な人間を生み出していく、人と人との信頼の絆の大切さだ。
自分の名誉や肩書にしか興味のなかったケーレンは、温かみや思いやり、そして人間の成長の大切さに目覚め、全てをなげうってでも愛する人を救い出そうとする勇気と行動力ある人へと生まれ変わっていく。
映画には、ケーレンにアンとアンマイを紹介する青年牧師が登場し、陰日向となってケーレンを支える姿も描かれている。正義感溢れるこの牧師に象徴される、人の心の全てを見通す"神の目"がこの映画の背骨と言って良いだろう。
神の心を心として、人に接することの大切さを、大川総裁は講演「許す愛」の中で次のように語っている。
「すべての意味において共通することは、『人を助けたい』というその気持ちに忠実でなければならないということです。
そして、その心が神の心であるのです。
『人を救いたい』という心が、
『助けたい』という心が、
『優しくありたい』という心が、
『他人の苦しみや悲しみに黙っていることができない』という心が、
それが愛の心であり、
その愛の心が自らの内に宿っているということが、
あなたがたが神の子であるということの唯一の証拠であるのです」
デンマーク荒野開拓者の勇気と信仰
映画で描かれているデンマークのユトランド半島開拓については、内村鑑三の著書「デンマルク国の話」がよく知られている。
同書の中で内村鑑三は、デンマークの荒野を開拓した人々の支えとなったのが信仰心であったことを次のように指摘している。
「世に勝つの力、地を征服するの力はやはり信仰であります。
デンマーク人全体に信仰がありませんでしたならば、彼の事業も無効に終ったのであります。この人あり、この民あり、フランスより輸入されたる自由信仰あり、デンマーク自生の自由の信仰ありて、この偉業が成ったのであります」
映画の冒頭でも、ケーレンを屋敷に招いたデ・シンケルが、「世界は、しょせん混とんであり、成り行き任せにしかならないのだから、楽しむだけ楽しむことが大事なのだ」とケーレンの取り組みを蔑むのに対して、ケーレンが、神が混とんを望まれるはずがない。デンマークにこの荒野が与えられたのには必ず意味があるという趣旨のことを言い返していたのが印象的だ。
神が与えられた土地であるからこそ、そのまま荒野として放置するわけにはいかない。たとえ周囲が蔑もうとも、神の名において肥沃な土地へと変えることこそが、人間に課せられた使命なのだということだろう。
荒野の開拓を通じて、"心の開拓"を成し遂げた一人のデンマーク人開拓者を描いたこの映画は、どんな苦難も言い訳にすることなく、目の前に与えられた問題の解決に邁進する生き方の大切さを教えてくれる。
『愛を耕すひと』
- 【公開日】
- 全国公開中
- 【スタッフ】
- 監督:ニコライ・アーセル
- 【キャスト】
- 出演:マッツ・ミケルセンほか
- 【配給等】
- 配給:スターキャット、ハピネットファントム・スタジオ
- 【その他】
- 2023年製作 | 127分 | デンマーク・ドイツ・スウェーデン合作
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