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グローバル化への準備---コンピューターの知識(3):ソフトウェアの理論

2012-08-10 | ことばとコンピューター
「コンピューターの知識(2)」から続く。

(3)コンピューターの論理
ここでは、コンピューターの考え方と基本的な論理(ロジック:logic)を紹介する。

1)数式の意味
まず、数学の“=”とコンピューターの“=”の違いを説明する。図10の左側のC=A+Bは数学の数式であると同時に、FORTRANやBASICなど、コンピュータープログラムに出てくる数式でもある。

数学のC=A+Bは、左から右に読み、Cの内訳はA+Bと解釈する。しかし、コンピューターでは、AとBの値を加えた結果をCに記録するという意味になる。言い換えれば、C←A+Bの意味である。

             図10 代入式
           
             出典:E.I.Organick著「A FORTRAN IV Primer」1967 (フォートランIV入門)

次に、前回の磁気コアで説明したが、データの「読み込み(Read-in)」は「上書き」、「読み取り(Read-out)」には「読み取られても、もとのデータは変化しない」という特性がある。

この特性を、図11では“Destructive Read-in(破壊的な読み込み)”と“Nondestructive Read-out(非破壊的な読み出し)”という言葉で説明している。

      図11 データの読み込み(Read-in)と読み出し(Read-out)
     
      出典:E.I.Organick著「A FORTRAN IV Primer」1967 (フォートランIV入門)

図11の左側は、AとBのデータを入れ替える方法を示している。また、図の右側は、入れ替えがうまくいかない方法である。ここで、AとBのデータは数値や文字データなど何でもよい。

左の図では、Step1でAのデータをT(任意の仮置き場所)に退避させる。次のStep2でBのデータをAに書き込む。最後のStep3でTに退避していたデータをBに書き込む。これでAとBのデータを正しく入れ替えることができる。

他方、右の図のStep1は、BのデータをAに書き込む。この時点でAのデータは、Bのデータで上書きされる。次に、AのデータをBに書き込む。しかし、AのデータはすでにBのデータに置き換えられているので、AとB共にBのデータとなり、データの入れ替えはうまくいかない。

コンピューターのデータ更新は、「追加」「変更」「削除」のいずれかである。このうち「変更」の処理では、変更する前にそのデータを仮置き場に退避させ、不用意にデータを消去しないように配慮する。

2)論理回路
コンピューターの基本的な論理は、ANDとORという回路で成り立っている。AND回路は電気部品の直列接続、OR回路は並列接続であり、これらは懐中電灯の電池の接続に見られる。他にNOT、NAND(Not And)、NOR(Not Or)回路などがあるがANDとOR回路から派生した回路である。

図12は、S1とS2というスイッチで作ったAND回路とOR回路である。もちろん、S1とS2はBistate Element、スイッチの代わりに磁気コアやトランジスターなどでもよい。言うまでもないが、今日ではこれらの回路はLSIになっており、コンピューター言語や情報の条件検索に使われている。

   図12 AND回路とOR回路の真偽表(Truth Table for AND & OR)
   

図12には、AND回路とOR回路のTruth Table for .AND.(アンド真偽表)とTruth Table for .OR.(オア真偽表)を示している。それぞれの真偽表は、T=True(真=オン)、F=False(偽=オフ)の組み合わせである。
【注:Truth Tableの和訳は真偽表、真理表、真理値表など、ここでは真偽表とする】

AND回路では、S1とS2ともにT(オン)のときだけ回路の豆球が点灯する。豆球が点灯すればAND回路の条件が満たされたことを意味する。もし、S1またはS2または両方がF(オフ)の場合は、豆球は点灯しない。このようなS1とS2の状態(T=オンかF=オフ)と豆球の状態(T=点灯かF=点灯せず)との関係をアンド真偽表という。

また、OR回路では、S1とS2が共にTまたはどちらかがTの場合はOR回路がT、S1とS2ともにFの場合はOR回路がFになる。

参考だが、19世紀の英国の数学者 G. Boole(1815-1864)が提唱したブール代数にちなみ、ANDやORの論理をブール論理(Boolean Logic)ともいう。

(4)コンピューターと情報処理(Information Processing)
1940~50年代のコンピューターは、主に弾道計算や自動制御などに使われる計算機だった。

その後、記憶容量が増大するにつれて、コンピューターは会計や給与計算に利用され、いわゆる汎用コンピューターに発展した。この頃、コンピューターは単なる高速計算機から情報処理の領域に踏み出した。

80年代から盛んになったデータベースやオンラインシステムの構築は、情報処理の典型的な例である。この頃から、コンピューターは社会のあらゆる分野に浸透し、グローバルな情報化社会の形成に大きく貢献した。

ここで、データと情報の違い、情報には2つの意味があること、さらに情報処理の本質を一般論として説明する。

1)データ(Data)
ある会社の社員の基本給を考える。Aさんは29万円、Bさんは23万円など、個々の金額を基本給データという。この段階では、Aさんの29万円は他の社員に比べて高い、あるは安いとは言えない。この29万円という数字は、一つの客観的な数値、つまり単なるデータにすぎないからである。

2)情報(Information:インフォメーション)
すべての社員の基本給を把握し、整理したとき基本給の平均、最高、最低、最も社員数が多い金額など、基本給の情報が明らかになる。ここではじめて、Aさんの29万円が他の社員に比べて安いとか高いとかを判断できる。

社員の基本給から得た情報をその会社の内部情報(Internal Information)という。この内部情報に対して、同業他社や他業界、国内や海外の基本給データや情報を外部情報(External Information)という。この外部情報を得る手段は様々である。業界団体や公的なデータとして入手する方法、情報収集の専門会社から有料で入手する方法などがある。

3)インテリジェンス(Intelligence:インテリジェンス)
内部情報と外部情報を合わせて分析し、自社の給与水準は他社より高いなどと新しい情報を得る。もしデータや情報に疑問があれば、再調査や追加情報を収集する。ときには、うわさ(Rumor)も分析の対象になる。この段階では、データや情報収集力と分析能力がキーポイントになる。

ここから得られる情報をインテリジェンスという。ここでの情報という言葉は、情報将校(Intelligence Officer)の情報、アメリカ中央情報局(CIA:Central Intelligence Agency)の情報である。企業の場合は、この情報(インテリジェンス)にもとづいて戦術や戦略を検討する。
【注:インテリジェンスの和訳は、知能、知性、聡明、機密情報、諜報など】

ここまで3回にわたって、コンピューターの基礎知識を紹介した。それは、すべてのデータは“0”と“1”の組み合わせ、また基本的な論理はAND回路とOR回路だった。

最後に、情報処理のもうひとつの常識「garbage in, garbage out:ガービッジイン、ガービッジアウト(コンピューターが高性能でも、ゴミを入力すればゴミしか出てこない)」を挙げるが、これがコンピューターと情報処理の本質かも知れない。

次回の「英語と他の言語(1)」に続く。


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グローバル化への準備---コンピューターの知識(2):ハードウェアの仕組み

2012-07-25 | ことばとコンピューター
コンピューターの知識(1)から続く。

(2)コンピューターのハードウェア
ここでは、1965年のアメリカのS. S. Kuo著「Numerical Methods and Computers(数値解析とコンピューター)」の図でコンピューターを説明する。教科書は古いが、コンピューターの本質を分かり易く説明しているのでこの教科書を使う。図に出典:Kuoとあるのは引用した図、【転載禁止】とあるのは筆者の資料である。

1)2進数
人類の記数法として、2進数、8進数、10進数、12進数、16進数、60進数などがある。このうち2進数では、0と1、2つの数字を使用する。2進数の0、1、10、11、100、101は10進数の0、1、2、3、4、5にそれぞれ対応する。もちろん、2進数も四則演算が可能である。

英語では2進数をBinaryといい、その1桁の数字、0また1をビット(Bit:Binary Digitの造語)という。本来の英語の“bit”には“小片”や“少し”の意味がある。

2)磁気コア
2進数を用いるコンピューターは、0と1を明確に識別しなければならない。たとえば、電気のスイッチはオンかオフのいずれかで中間はあり得ない。このスイッチのような物体をBistate Element(二つの状態を持つもの=適当な和訳はない)という。

下の図1は、1960年代のコンピューターが使用したBistate Elementを示している。図1左端の上から、磁気コア(Magnetic Core)、パンチドカード、電気パルス、スイッチまたはリレー、真空管、トランジスターを示すとともに、それぞれの0-State(ゼロの状態)と1-State(1の状態)を図解している。たとえば、磁気コアの場合は、反時計回り方向の磁界を0-State、時計回り方向の磁界を1-Stateとしている。また、2番目のパンチドカードは、穴があいていない状態を0-State、穴があいている状態を1-Stateとしている。

       図1 Bistate Element(2つの状態を表現できるもの)
       
       出典:Kuo

図1の磁気コアは、1970年代中頃まで主記憶装置として使われたドーナツ型の記憶媒体(直径約5mmの磁性体)だった。

            図2 磁気コア(Magnetic Core)
            
            出典:Kuo

図2は、磁気コアと電線を示している。左端の(a)では、電線に左から右方向に電気を流すと、磁気コアに反時計回りの磁界が生じる。この状態を0-Stateという。

次に中央の(b)では、電流を停止する。しかし、磁界の方向は反時計回りのままで変化しない。すなわち、(b)は磁気コアが“0”を記憶した状態を示している。

さらに右端の(c)のように、電気を右から左方向に流すと、磁界も時計回り方向に反転(flip)し、磁気コアは1-Stateになる。このように、電気の方向を変えることにより、磁気コアに“0”か“1”を書き込むことができる。

図3は、磁気コアにデータを書き込み、また読み取る仕組みを示している。

            図3 磁気コアのデータ読み書き
            
            出典:Kuo

上の図に示すとおり、磁気コアには2本の電線は通っている。一本はデータの書き込み用、他方はデータの読み取り用の電線である。

データの書き込みと読み取りのプロセスは次のようになる。
1.書き込み電線に右から左方向に電気を流す⇒時計回り方向の磁界が発生⇒データ“1”を記録
2.時計回り方向の磁界は、読み取り用の電線に右から左方向の電流を発生させる(誘導電流)。
3.読み取り用電線の誘導電流を増幅器で増幅し、“1”と認識(読み取り)
注)書き込み前の磁気コアの状態が“0”であっても“1”であっても問題はない。

昨年11月のこのブログで、文字の“0”や“1”や“A”は、それぞれ“00110000”や“00110001”や“01000001”とASCIIコードが定義していると説明した。もしここに、8個の磁気コアがあれば、1つの文字を書き込み、記憶することができる。【参照:グローバル工場---機能の階層(1)(2011-12-25)、(2)データベースと文字コード、1)コンピューターが取り扱うデータ】

なお、コンピューター用語では、8ビット(Bit)=1バイト(Byte)と定義している。この定義により0、1、Aなどを1バイト文字という。また、漢字1文字は16ビットで定義するので、2バイト文字という。ちなみに、日本では半角文字(1バイト文字)や全角文字(2バイト文字)との云い方もある。

1980年代に漢字が使えるようになり、氏名や住所を漢字でプリントできるようになった。(それまでは、氏名や住所は半角の片仮名だった)

図4に示すコアアレー(磁気コアの配列)は、磁気コアの主記憶装置である。

            図4 コアアレー(Core Array:磁気コアの配列)
            
            出典:Kuo

当時、128KB(キロバイト)の主記憶装置と云えば、128,000バイトX8ビット/バイト=1,024,000ビット、約100万個の磁気コアを装備したコンピューターだった。下の図5は、コンピューターとコアアレーの関係を示している。

            図5 コンピューターとコアアレーの関係
            
            出典:Kuo

3)磁気ドラムやテープ
実際のコンピューターは、CPUと主記憶装置(メインメモリー)だけではなく、磁気ドラムや磁気テープ、パンチドカードリーダーやプリンターでデータを出し入れ(インプット/アウトプット)している。図6は磁気ドラムへのデータ書き込みと読み取りの様子を示している。

            図6 磁気ドラムへのデータ書き込み/読み込み
            
            出典:Kuo

磁気ドラムや磁気テープへのデータの書き込みと読み取りは、磁気コアと同じである。磁気ドラムやテープの場合は、表面に塗布した磁性体の磁界の方向で“0”か“1”を判別する。

下の図7は、1976年秋に筆者が社員教育のために自作した磁気テープの教材である。図の下に磁気テープ、その上にテープの内容を示している。

            図7 磁気テープの中身
            

【図7の説明】
使用した磁気テープの仕様:テープ幅=1/2インチ、テープ長=2,400フィート、記録密度=1,600BPI(Bits per Inch)、IRG(Inter-record Gap)=約1.5cm

【図7の制作方法】
1.微細な鉄粉の揮発性溶液を、データを記録した磁気テープに塗布する。
2.塗布した液体は揮発し、鉄粉だけがテープ上に残る。この鉄粉はテープ上のデータの磁界で縞模様になっている。
3.その縞模様の鉄粉をセロテープで写し取り、そのセロテープを磁気テープの上の余白に張り付けた。
参考:ガラス板の上に鉄粉を撒き、ガラス板の下に磁石を当てると鉄粉が磁力線で縞模様になる。同様に、磁気テープに微細な鉄粉を塗布すると縞模様が現れる。

図8は図7の縞模様を拡大した図である。垂直方向のビット間の空白が水平方向に走っているのが分かる。しかし、一つ一つのビットは識別できない。

            図8 磁気テープの拡大図
            

【図8の説明】
テープの垂直方向:
垂直方向1列9ビット(8ビット=1バイト=1文字+1パリティーチェックビット=9トラック)

テープの水平方向:
1列9ビット(1文字)が水平方向に4,000列(=文字)のブロックで並んでいる。その記録密度は1,600BPI、計算すると長さは6.35cmである。(4,000÷1,600×2.54cm=6.35cm)
図の薄茶色の部分は、セロテープの接着剤が36年の歳月で劣化・変色したシミである。

【補足説明】
1.幅約1cm、長さ約6.35cmに9ビット/列X4,000列=36,000ビット、これは、36,000個の磁気コアに相当する。
2.当時、記録密度=6,250BPIの磁気テープも使っていたが、6,250BPIは高密度すぎて縞模様を肉眼で識別できなかった。目に見えるサンプルを作るために、低密度の1,600BPIテープを使用した。
3.記録密度=6,250BIPの磁気テープで計算すると、同じ面積(幅約1cm、長さ約6.35cm)の記憶容量は約14万個の小豆粒程の磁気コアに相当する。

この高密度化の技術は、はさらに半導体の世界に進んでいった。

4)LSI(高密度集積回路)
下の図9は、1997年に記念品として筆者が仕事先のアメリカの半導体会社でもらったLSIウェハである。もちろん、製品でなく試作品である。このウェハは、直径約10cm、750個のチップを載せている。このウェハは750チップの在来製品だが、当時の最新型ではチップの搭載数と機能ともにさらに進歩していた。

            図9 LSIウェハ上のチップとパッケージ(図の左上)のイメージ
            (注:例示のパッケージの中身は、このウェハのチップではない)
            

【図9の説明】
説明が長くなるので、ここでは外観だけを説明する。チップ(赤い丸印)には数千~数万の電子素子が組み込まれている。このチップを切り出し、配線したものがLSIパッケージである(図の左上のイメージ)。パッケージの中身は、マイクロプロセッサーや半導体メモリーなどである。

このようなLSIで、コンピューターはさらに小型化し記憶容量も大きくなった。

ここまでの説明で、データの構成要素がビット(“0”か“1”)であることを理解して頂ければ十分である。このことは、数値、文字、画像、動画、色、音など、コンピューターが処理する情報すべてに共通である。また、記憶容量が非常に大きくなると同時に、小型化したのでノート型PCやiPhoneが実現した。

次回の(3)「コンピューターの論理」に続く。

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ブログ再開のお知らせ

2012-06-01 | ことばとコンピューター
「ブログ再開のお知らせ」

4月10日以来中断していましたが、今月から再開します。

ブログを中断している間に、次の内容を要約・加筆した記事を日刊工業新聞社の月刊誌「工場管理7月号」と「8月号」に掲載して頂くことになりました。

1.グローバル工場---ビジネスモデル 2011-12-11
2.グローバル工場---機能階層(1) 2011-12-25
3.グローバル工場---機能階層(2) 2012-01-09
4.グローバル工場---機能階層(3) 2012-01-24
5.グローバル工場---機能階層(4) 2012-02-10
6.グローバル工場---機能階層(5) 2012-02-25
7.グローバル工場---機能階層(6) 2012-03-11

記事のタイトルは、特別記事「実際のトラブル事例から学ぶグローバル化の流れに乗ったITシステム構築の鉄則(上)(下)」(発売日:2012年6月20日と7月20日)となります。

内容は、日本の製造業がグローバル化の流れにうまく乗れるようにと願う記事です。それは、工場経営者へのお願いでもあります。ぜひ日刊工業新聞社の「工場管理7&8月号」をご購読ください。

---◇---◇---◇---◇---◇---

2010年8月26日に「ほのるる丸」の姿とともにスタートしたこのブログ、早くも2年近くが過ぎました。

「船乗りの航跡」は「紺碧の海に描く一筆の白い航跡」、それは様々な国や地域を訪れる筆者の航跡、同時にあの懐かしい「ほのるる丸」の航跡に重なります。

現在、長い航海で得た知識・経験・考察をこのブログにまとめています。もしその一部が日本の何かに役立てば望外の喜びです。

燃料が尽きるまで走り続ける私の分身「ほのるる丸」に対して国際信号旗、U旗とW旗を送ります。(国際旗旒(キリュウ)信号:U旗+W旗=安航を祈る、“安全な航海を祈る”の意味)

読者の皆様、どうか今後もこのブログを見守ってください。

【参考】「船乗りの航跡」の航海日誌(Logbook):
2010/07/01 「生産管理の理論と実践」 COMM BANGKOK社
 目的=日系工場の若い日本人に生産管理の基本を紹介⇒基本を踏まえた自己流は大きく伸びる。
2011/06/01 「Theory and Practice of Production Management」 COMM BANGKOK社
         (生産管理の理論と実践の英語版=図表と内容は日本語版と同じ)
 目的=現地社員に日本人と同じ内容の知識を紹介⇒知識の共有は相互理解と新しい協調を育む。
2012/06/20 & 07/20 「特別記事」工場管理7月号&8月号、日刊工業新聞社
 目的=海外工場の実態を経営者に紹介⇒現地人との共同作業で新しい日本の道が開けると提唱

 
次回以降、日本語力、コンピューターの知識、英語力と外国語の知識、日本への提言へと進みます。

以上

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ブログ中断のお知らせ

2012-04-10 | ことばとコンピューター
「ブログ中断のお知らせ」

現在、次のブログの内容を「工場のグローバル化とコンピューターシステム」として編集しています。

1.グローバル工場---ビジネスモデル 2011-12-11
2.グローバル工場---機能階層(1) 2011-12-25
3.グローバル工場---機能階層(2) 2012-01-09
4.グローバル工場---機能階層(3) 2012-01-24
5.グローバル工場---機能階層(4) 2012-02-10
6.グローバル工場---機能階層(5) 2012-02-25
7.グローバル工場---機能階層(6) 2012-03-11

編集作業を終えて、5月10日頃から当初の計画とおり「グローバル化への準備---英語化の分野」に進んで行きます。

以上

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グローバル工場---機能の階層(6):“安い”と“経済的”の違い

2012-03-11 | ことばとコンピューター
前回のグローバル工場---機能の階層(5)の続き。

                         工場機能の階層図
     出典:筆者著“生産管理の理論と実践” COMM Bangkok、2010

(4)レベル3:原価・利益管理
このレベルは、個々の工場とグループ全体の製品原価と財務状況をコンピューターシステムで把握して、工場の利益をコントロールする。工場を管理する情報システムの単純化・統合がこのレベルのキーワードである。

ちなみに、レベル2と3のキーワードを比べると次のようになる。

  レベル2:工程管理のキーワード=整理・整頓=目視管理(目が見る視界)⇒生産性向上
  レベル3:工場経営のキーワード=単純化・統合=情報管理(頭が見る視界)⇒収益性向上

上に示す関係とは逆に、整理・整頓が行き届かず乱雑な工程では生産性が悪くなる。また、機能の追加を重ねた継ぎはぎの情報システムでは工場を適切に管理することが難しく、収益性も悪くなる。

特に、レベル3の情報システムは、目で見たり手で触ったりできないソフトウェアである。そのソフトが継ぎはぎだらけか否かを見極める評価眼が経営者や管理者に求められる。もちろん、レベル2と3の主役は人間、人の上に立つ人は自社、外注先の区別なく現場とそこで働く人々をよく知ることは言うまでもない。

1)レベル3の位置づけ
レベル3では、コンピューターシステムが重要な役割を果たす。管理者や経営者はシステムが提供する財務情報や生産実績や在庫情報を分析し、必要な措置を各部門に指示する。この意味でレベル3は、工場機能のトップに位置する指令塔ともいえる。

このレベルのシステムは、購買、在庫、販売、生産、会計を網羅する基幹システムで、かつ、統合システムでなければならない。また、この統合システムは状況の変化をすばやくキャッチする単純なシステム、できれば経営視界をオンラインリアルタイムで確保できるシステムが望ましい。

1998年頃に、アメリカの多国籍企業で全世界の事業所の状況をリアルタイムで把握する統合システムを経験した。システムの目的は、経営視界の改善(Improvement of Management Visibility)だった。

あのとき、システムの画面から白雪姫の“魔法の鏡”を連想した。童話では魔法の鏡だったが、そのときはコンピューターネットワークにつながるパソコン画面だった。その画面に世界のビジネス状況が映し出され、画面の一部をクリックすると明細が現れた。画面を切り替えれば、アメリカから東京の出荷ラインの待ち行列も見えた。このように、どこからでも世界の業務が丸見えになる。技術的には新規性があったわけではないが、単純なシステムで情報の屈折もなく経営視界は世界に広がった。

2)原価管理
原価管理は、レベル0の品目テーブルとBOM並びに勘定科目別の会計データから仕掛品や完成品の原価を計算する。

製造業の主な原価は、実際原価と標準原価である。まれに製品開発に使用する目標原価と呼ばれるものもある。

実際に発生した費用で計算した実際原価は月次決算の在庫評価に、標準原価は利益計画にそれぞれ使用する。ただし、実際原価は棚卸在庫評価方法で金額に違いがでるので注意すべきである。具体的には、総平均法、移動平均法、最終仕入原価法など、法令で認められた方法がある。実際の評価方法は、各社の経理規定で定められている。

量産品の実際原価については、参考書に簡単な例題で説明したので省略するが、ここでは原価要素を説明する。

A.原価要素(Cost Element)
実際原価や標準原価の内訳を原価要素という。原価要素を大別すると、直接費(Direct Cost)と間接費(Indirect Cost/Overhead Cost)に分かれる。直接費は、直接材料費、直接労務費などの原価要素に分かれる。工場により異なるが、主な原価要素は次のとおりである。

 ◇直接費の原価要素:直接材料費、直接労務費、スクラップ費、金型費、治工具費、外注費など
 ◇間接費
  ・変動間接費の原価要素:光熱費、水道費、通信費、潤滑油、消耗品など
  ・固定間接費の原価要素:地代家賃、保険、レンタル料、間接人件費、減価償却費など

実際原価の直接材料費や労務費は実際に発生した費用である。同様に、間接費も実際の費用で計算する。直接材料や労務費は品目ごとに明らかになる。しかし、間接費の計算は、品目の生産数量で総額を原価要素ごとに配賦(配分:Allocation)する方法とABC(Activity-based Costing:活動基準原価計算・・・1980年代にハーバード大学が提唱)という方法がある。生産数量による配賦とABC法の詳しい説明は省略するが、間接費の計算には配賦法とABC法の2つの方法があるとの認識に留めておく。

B.原価管理の注意点
原価管理での注意事項を2、3挙げておく。

一つは、梱包資材の問題である。たとえば、完成品の外装箱を製品の直接材料費とするか、あるいは一般の包装材料(間接材)として経費扱いとするかで、製品原価が異なってくる。この種の問題は、製品の採算性に影響するので製品開発者の考え方や税法上の見解を注意深く検討する必要がある。

次に、専用機やロボットや金型など、高価な設備の償却費を直接費とみるか、あるいは間接費とみて全製品に配賦するかという疑問がある。生産高比例法(Unit-of-Production Method)で直接費としてこれらのコストを償却すべきか、あるいはABC(活動基準原価計算)を導入すべきか、多くの検討課題が残っている。

原価要素の設定で、たとえば縫製ミシンの手元照明用豆球の電気代を直接費に反映させるが、ミシンを駆動する電気代は全製品に配賦する。また、工程ごとに電力計を設置して電気代を直接費として原価に織り込む。また、日本の寒冷地発祥の企業がバンカーオイル(燃料油)を直接費とみるが、熱帯のタイではその原価要素が必要かどうか。これらのどちらでもいいような些細な問題が浮かび上がってくる。しかし、手抜きは禁物、システムのグローバル化をチャンスに、進出先の国情も考慮して原価要素の合理性とバランスを見直す必要がある。

直接材料と間接材料の入替えや原価要素の変更は、会計処理の“継続性の原則”に触れる問題である。会計監査に相談しながら時間的な余裕をもって検討すべきである。

3)利益管理
利益管理には、半年程度の短期利益管理、1年程度の中期利益管理、あるいはアメリカの石油会社のように20年にわたる長期利益管理もある。ここでは、計画期間が1年の中期利益管理、一般的な企業の会計年度単位の利益管理を説明する。

利益管理の中身は、翌年度の販売計画、生産計画、投資計画、人員計画、経費予算である。これらの計画から利益を計算する。もちろん、翌年度の為替レートや人件費動向は経理部門が各部に提示する。

経理部門は、会計年度末の2ヶ月ほど前に関係各部門に翌年度の計画書の提出を求める。次に、各部門の計画書から会社全体の利益を計算し、妥当な利益が確保できるまで各部門の計画を調整する。

目標利益を経営陣が承認したとき、そのベースになった販売計画、生産計画、投資計画、人員計画、経費予算が翌年度の目標になる。翌年度のスタートと共に計画と実績の管理がスタートする。営業部門は販売計画と経費予算、生産部門は生産計画と経費予算、その他の間接部門は経費予算をそれぞれ管理する。承認された投資計画は減価償却費、人員計画は人件費として各部門の経費予算に反映してある。

新しい予算に対する実績の差をチェックしながら自部門の活動をコントロールする。ここでまた経験談になるが、“予実差異プラスマイナス5%以内”を厳しく指導された。予算と実績の差が±5%以上は予算編成が甘かったとの理由で始末書を求められた。-(マイナス)5%は予算以下の出費だが、それは手柄でなく見積りが甘かったとみられた。予算に限らず±5%以上の推定誤差は、プロの仕事とはいえない。

±5%以内の誤差でいつも思うが、談合のプロは±5%以内の誤差を目標とする。しかし、肝心のその他の分野では仕事の誤差を±5%以内に収める風潮はない。肝心な点では甘く、枝葉の部分には細かくこだわる、本質より見掛けを重視するのが日本社会の特性かも知れない。

3.2011年(東日本大震災)以来、都合の悪いことはすべて“想定外”の出来事として水に流す風潮ができてしまった。忘れていいこと忘れないこと、目をそらすことと目をそらないこと、諦めることと諦めないこと、そこは人生の岐路である。諦めず本質を見つめる側の道を選ぶと辛いこともある。しかし、その向こう側には新しい道が開ける・・・そこは「進展」した新しい世界である。

本質から目をそらす風潮は、日本社会が衰退し始めたのではないかと気に掛かる。ついでながら、プロに求められるもう一つは、“安い”と“経済的”の違いを識別する能力である。(distinction between cheapness and economy・・・"A Professional Guide," Engineer's Council for Professional Development, N.Y. 1949)・・・耳目を大きく開けて(keep eyes and ears wide open)本質を見つめたい。

4)コンピューターシステムへの投資
ここで、予実対比による利益管理から日本の製造業全体の利益に目を向ける。

タイの日系工場の日本人を数えると、従業員500人規模以下の工場では多くても7~8人、さらに大きな工場でも、20人以下だった。その割合は、多く見積もっても2%程度、つまり、数パーセントの日本人と九十数パーセントの現地人が工場で働いている。従業員一人当たりの付加価値率は別とするが、日本人数に対する総付加価値は非常に大きい。

しかし、それら工場の生産管理システムは1960年代のシステムが多い。もし、そこに合理的な生産管理システムを導入すれば、生産効率や利益率が向上し、そのメリットは非常に大きいと考えられる。そこには、未開拓の宝の山がある。

世界の流れはグローバル化である。ここで、世界に共通な生産管理ルールを考え、宝の山を開拓する戦略システムの開発、今その時期が来たと感じる。これで日本の陳腐化したシステムも蘇生される(右手が左手を洗うとき、右手もきれいになる イボ諺・・・When the right hand washes the left hand, the right hand becomes clean also.・・・Ibo Proverb)。

新しいシステムの開発には、時間とコストが掛かる。しかし、各国の工場がジョイントプロジェクトを編成し、知恵を絞り、開発費を分担すればそれほど実行可能と考える。また、新システムから生まれる各工場のメリットを合わせれば、魅力ある投資プロジェクトに違いない。

ここに、「戦略システムの開発」と題して筆者の日米の経験を一つの参考として記しておく。

「戦略システムの開発」
コンピューターシステムには、合理化システムと戦略システムの二つのタイプがある。合理化システムは業務の合理化や経費削減を目的に開発するシステム、戦略システムは新たなビジネス展開や会社の将来を開くために開発するシステムである。

たとえば、ある生産管理システムを業務の合理化目的で開発すれば、そのシステムは合理化システムといえる。しかし、同じシステムを、企業戦略として開発すれば、そのシステムは戦略システムといえる。

合理化システムは、開発コストとメリットを定量的に求めて、経済性を評価する。メリットがコストより大きければ、開発はゴー(Go:可)となる。これは意思決定でなく、単なる事務処理に等しい。

他方、戦略システムの開発では、そのメリットの金額計算は困難である。あえて金額的なメリットを計算しても、新システムが実現しない限り、机上の空論に過ぎない。

やるかやらないか(To go or not to go, that is the question: Go or No Go). それは、意思決定者の決断と責任の話になる。

ある時、アメリカで戦略システムを開発中に、業界の不況で会社が赤字になった。そこで社長は世界の事業所を一ヶ所ずつ回ってあらゆるコストの削減を求めた。その頃の社長はエコノミークラスで飛び回っていた。ビジネスクラスをエコノミーに変えた効果は疑問だったが、プロジェクトは継続した。赤字会社の社長がビジネスクラスでは様にならない。なお、戦略システムの開発は、6~8年の長期に及ぶ。この間、いろいろな事が起こる。

戦略システムの開発には次のような共通点がある。
 1)戦略システムはトップダウンのシステムである。下から上に提案する合理化システムではない。
 2)経営トップは、開発費の承認には厳しいが、プロジェクトチームにメリット計算を求めない。
   プロジェクト担当者はメリットを計算するが、経営者はその数字で決断しているとは見えない。
 3)技術的、経済的、運用上の難問に出会っても、経営トップは途中でシステム構想を変更しない。
 4)システム開発費は大きいが、成功したときの金額的なメリットは、開発費よりはるかに大きい。
   しかも、そのメリットは一過性でなく、年月の経過とともにそのシステムの効果が広がっていく。

以上、日米で経験した4件(前回のヤマハ発動機も含む)の戦略システムの開発から得た印象を紹介した。

今回で6回にわたった「グローバル工場---機能の階層」の説明を終了する。

現在、日本はグローバル化と人口の減少という新しい局面に差しかかっている。この時代にわれわれがなすべきことを次回から考察する。

次回は「グローバル化への準備---時代の流れ」「英語化の分野」「-未定-」に進んで行く。

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