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脳梗塞とリハビリ(4)

2017-04-25 | 日本の将来
前回の「◇片足立ち」から続く。

◇視認:OT(職業/作業療法)の課題
投げ上げた「お手玉」のキャッチ。これがうまくキャッチできない。

簡単な作業だが「お手玉」が視界から消えるのでうまくいかない。冷静にみると投げ上げたときは見えるが、落下の途中で「お手玉」を見失う。さらによくみると、見えたり見えなかったり、「お手玉」が映画のコマ送りのような状態で見える。これは、目が「お手玉」の動きをリアル・タイムで追尾できないためである。

むかし西部劇で、拳銃の早撃ちは0.1秒のアクションと聞いた。相手の動きに1/10秒の早業で応える。それは、コンピューター用語ではレスポンス・タイム(応答時間)=0.1Sec.という。この応答時間が遅いため、目が「お手玉」を見失う・・・リアル・タイム性が悪いので「地対空」の制御がうまくいかない。(座っている筆者=地、空中のお手玉=空)

対策:
a.頭を静止、目を左右、上下に動かす。
b.頭を静止、目の前に親指を立てて左右に動かし目で追う。また、水平の親指を上下に動かし目で
  追う。
c.親指を静止、頭を左右、上下に動かし、親指を追う。また、頭を左右にかしげて静止した親指を
  追う。
d.お手玉やテニスボールのキャッチ、また、お手玉を3、4m先の壁に投げる。

眼球の分解掃除のように思ったが、目がスムーズに動くにつれ、キャッチのミスも減少した。しかし、タイミングのズレもありミスが皆無ではない。このミスは見えないので気付かない。

◇同時並行作業:OTの課題
一つの作業をしながら、別の作業をする。一般に言う「ながら作業」である。「ながら作業」が難しいのは老化現象のせいもある。

人間の「ながら作業」の処理方法とは違うが、コンピューターには並行処理(Parallel Processing)や多重タスク処理(Multitasking)がある。処理能力に余裕があるコンピューターは、見た目には多くの作業を同時に実行しているように見える。もちろん、これらの処理には一つの仕事だけに偏らないようにする仕組みがある。しかし、仕事の内容にもよるが、同時に多くの人がコンピューターを利用するとレスポンス・タイムが遅くなる。

ちなみに、コンピューターの高速処理を表す指標の一つに、MIPS値(Million Instructions Per Second:毎秒100万命令を実行)がある。1980年代の汎用大型機は1MIPS程度だったが、今日では1,000MIPSのコンピューターも存在する。【例:四則演算の“+”や“-”は一つの命令(Instruction)】

次の対策は「ながら作業」に慣れる作業である。かなり難しいが、実生活ではほとんどは「ながら作業」である。

対策:
a.ラケットにテニスボールほどの球を乗せて、廊下を歩く。対向者の回避や廊下の坂も歩く。
  (手元のボールから目線を上げると対向者が見えて回避可能・・・遠山を見る目つき)
b.サッカーボールほどのボールのドリブルで廊下を行き来、敏捷性を強化する。ゆるい坂もある。
c.体の柔軟性の強化・・・骨盤運動や平行棒と傾斜可動踏み台で柔軟性を改善する。
d.階段の上り下り、手摺を持たない上り下りも試みる。「下り」の不安感が大きい。
  (実生活では手摺がある壁際を歩く。転倒防止が最優先)

現在:
「視認」と「同時並行作業」を繰り返すうちに、自立歩行が安定し始めた。リハビリ室の平坦な床では、自立歩行は安定するが、芝生の柔らかな感触、横断歩道や通路の小さな段差、公道の歩行者や自転車の動きで自立歩行が不安定になる。足裏、目、耳からの情報が多く、脳の反応が遅れて体の制御が乱れる。街なかの実地訓練でかなり慣れたが、今でも立ち止まることが多い。

自分と相手それぞれが「空間を動く」、これは「空対空」の相対運動、その制御は複雑になる。渡り鳥の隊列や艦隊航法は相対運動の例である。車の自動運転もこの関係にある。リハビリの場合は、不安になれば立ち止まれば「空対空」⇒「地対空」に制御の難易度が下がるので安定しやすい。異常があればまずしゃがむ、あるいは何か寄り掛る。これはリハビリの基本と教わった。

◇同時並行思考:ST(言語・視聴覚療法)の課題
これは頭の中の「ながら作業」である。頭のすばやい反応が決め手、脳トレにもなる。

対策:
a.当日の新聞記事を音読しながら、特定のカタカナ一文字を見付け、記事の大意を記憶する。
b.カラーのブロックや絵を組み合わせて指定の模様を描く。
c.トランプ・カードをめくりながら、たとえばスペードの数字を加算する。
d.ランダムな一桁数字を聴き、突然ストップ、最後の3桁を答える。また、カセット・プレーヤーから
  流れる音声のうち、特定音声に応える。

ゆっくりと処理すれば簡単だが、スピードを上げると難しい。実際にはコンピューターと同様に、異なった仕事が交互に続く状態である。たとえば、a.では「音読」「文字検索」「文意の記憶」という3つの作業をすばやく切り替える。その切り替えで慌てと焦りが生じ、頭が混乱する。ちなみに、現在のコンピューターには感情はないが、早晩ビッグ・データ由来の知能や好み(Preference)を持つと思われる。その時、コンピューターも“もたつく”かも知れない。

現在:
STの検査項目の一部は、年齢層別に自己得点と最高、平均、最低点がグラフで図示される。客観的な自分の位置が分かるので大変役に立つ。得点の中には、最低点以下の項目もあった。それが自分の実力=実像である。自分だけは例外と過信するのは禁物である。

リハビリの入院生活で、体の柔軟性も一つのキー・ポイントと痛感した。

大学卒業からは仕事だけ、ゴルフやテニスその他の娯楽には無関心だった。そのせいか、筆者の体の硬さは当院の先生たちに有名で、柔軟性の改善を大きく阻害した。ただ一つ、握力だけは今も強く右40Kgと左35kg、学生時代の激しい運動(カッター部:端艇)の残り火は今も続いている。総じて、筆者の体の特性はリハビリには不利と分かった。しかし、毎日のリハビリでわずかな変化を重ねるうちに、変化が励みになり徐々に身体の動きも良くなった。

以上、3ヵ月間のリハビリは160回以上、22人の療法士の先生から指導を受けた。バランス感覚の障害で、立つことはもちろん、ベッドの端に腰掛けることもできなかったが、自立歩行までに回復した。リハビリの専門家たちに感謝している。

楽観ばかりではない復活、80歳代に向かう今後の自立歩行はポンコツ車ていど、高速道路をスイスイとはいかない。それがバンコクに続き今回も神に救われた自分の姿である。ポンコツとはいえ、胸を張ってつつがなく人生を全うすることが神への答礼である。

続く。

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