2.日本と欧米との比較(4)から続く。
2)オーストリアとオランダの産業
オーストリアとオランダの経済を支える産業は次のとおりである。
オーストリアの主な産業
地下資源:石油、天然ガス、鉱物(アルミ、銅、金、鉄、鉛、亜鉛、塩)
重化学工業:鉄鋼、石油化学
機械工業:重機、自動車/部品、農業機械、精密機械、織機、機関車・車両(日本の新幹線保線車両)
手工芸:陶磁器、ガラス製品、装身具、刺繍・レース製品、木彫品
観光業:登山鉄道、音楽・名所旧跡
農業:穀物、酪農(アルプス式牧畜)、穀物自給率=91%(日本=27%、2003、農水省)
交通:東西交易の要所(中世の琥珀街道と塩街道)、鉄道網、高速道路網、ドナウ水運
東西交流:永世中立国(1955)、国連・国際機関をドナウ河畔に集約(ウィーン国際センター)
オランダの主な産業
地下資源:石油、天然ガス、石油メジャー(ロイヤル・ダッチ・シェル)
重化学工業:鉄鋼、石油化学、化学繊維(AKU)、化学肥料(DSM)
機械工業:機械、エレクトロニクス、電気(フィリップス)、航空機(フォッカー)、造船
手工芸:ダイヤモンド加工(アムステルダム)、陶磁器(デルフト焼き)
食品工業:チョコレート(バン・ホーテン)、ビール(ハイネケン)、乳製品、加工食品
農業:酪農、近代化農場(野菜)、花畑(球根、花卉)
魚業:北海漁場
海運業:ロッテルダム港(ユーロポート、荷扱い世界トップ)、アムステルダム港
交通:鉄道網、高速道路網、内陸運河網
3)経済指標
先に述べたが、国民一人当たりのGDP(国内総生産)、GDPデフレーター(Deflator:指数)、経済成長率、失業率をチェックする。個々の経済指標を国別に説明すると長くなるので省略するが、これらの国に関する経済的な出来事は次のとおりである。
◇オランダ病:60年代の天然ガス発見に根ざす不況、70年代後半から80年代半まで続いた。
73年のオイルショック当時、天然ガスの輸出による好況の反面、製造業が衰退、自国通貨高と
失業率の上昇を招き、国際競争力を失った。
◇ワークシェアリング:仕事を多くの人と分かち合うこと。政労使が82年にハーグ近郊のワッセナー市
で合意し、オランダ病を克服した。この合意をワッセナー合意という。
ワークシェアリングは、サービス業やオフィスワークには有効であるが、製造業の生産性を改善す
るものではなく、逆に、原価のオーバーヘッドコスト(間接費)を押し上げる。たとえば、人手作業の
ワークシェアリングは可能だが、自動化された作業では意味をなさない。この点は要注意。
◇DEWKS:Double Employed With Kids(デュークス:子供がいる共働き夫婦)の略。DINKS(Double
Incomes No Kids(ディンクス:子供を持たない共働き夫婦)はDEWSKの対義語。DEWKSとDINKS
は、80年代後半からオランダ、ドイツやアメリカ、カナダなどで広まった。
注)ワークシェアリングやDEWKSの背景には、「“できる人”は早々に会社からスピンアウトする」とい
う社会的な風潮がある。また、これらは、日本の給与体系に含まれる通勤手当や住宅手当などと
はなじまない。
◇同一労働同一賃金:パートタイマーとフルタイマーの均等待遇。オランダの労働法は、パートタイム
とフルタイム労働者の時間当たり賃金、社会保険制度への加入、雇用期間などの差別を92年の
法改正で禁止した。
同一労働同一賃金は単純労働では成立するが、専門知識と経験を要する仕事にはなじまない。
この言葉だけが独り歩きすると社会が混乱する。
◇リーマンショック:サブプライムローン(低所得者向け住宅ローン)で倒産したリーマンブラザーズ(投
資銀行)を震源とする08年の世界的な金融危機。
3ヶ国の経済指標をグラフ化すると次のとおりになる。
一人当たり名目GDP(USドル)
下のグラフでは、90年代前半に日本のバブル期の影が見られる。その反動で04年頃から日本の数値はオーストリアとオランダより小さくなった。しかし、今月に決まった20年の東京オリンピックは、日本の経済を刺激するので13年以降の数字は大きく上向く可能性が高い。
出典:オリジナルデータ=世界経済のネタ帳
グラフ:上のオリジナルデータを筆者がグラフ化した。
3)GDPデフレーター
デフレーターは物価指数を意味する。このグラフでは、デフレ―ターの値>100%のときはインフレ、デフレーター<100%のきはデフレである。日本経済は05年頃からデフレになったが、デフレから脱却するために、アベノミックスは+2%の物価上昇を目標にしている。20年の東京オリンピックの頃には、100%を大きく上回ると見られる。
出典とグラフ:「一人当たり名目GDP」と同じ
4)経済成長率
東京オリンピックの効果で14年以降の日本の成長率は、このグラフより上方に振れることは確実である。
出典とグラフ:「一人当たり名目GDP」と同じ
5)失業率
下のグラフでは見えないが、オランダ病のためにオランダの失業率は83年と84年には8%台だった。しかし、82年のワッセナー合意の効果が徐々に表れ、85年=7.33%、86年=6.52%(下のグラフ)・・・01年=2.54%にまで低減した。
92年頃から失業率がふたたび上昇に転じた。その上昇はワークシェアリングでは改善できない失業率、たとえば、産業の効率化、不況と税収減少・歳出削減などに起因する失業が考えられる。
出典とグラフ:「一人当たり名目GDP」と同じ
以上、いくつかの経済指標を比較したが、これらの指標は、人口の多い少ないで大きく変わるものではない。今後は日本の人口は減少するが、人口の減少は必ずしも経済的に衰退するとは限らない。逆に、日本人の知恵と工夫で前例のない繁栄を達成する可能性が大きい。
3)世界の都市ランキング
最後に、参考のために世界の都市の生活環境ランキングを、マーサー(Mercer:コンサルティング会社)の「2012年 世界生活環境調査-都市ランキング」で一覧する。このランキングは、次の10項目を相対的に評価した結果である。(New Yorkの各項目のスコアを100として他の都市のスコアを評価する)
1.政治・社会環境(政情、治安、法秩序等)
2.経済環境(現地通貨の交換規制、銀行サービス等)
3.社会文化環境(検閲、個人の自由の制限等)
4.健康・衛生(医療サービス、伝染病、下水道設備、廃棄物処理、大気汚染等)
5.学校および教育(水準、およびインターナショナルスクールの有無等)
6.公共サービスおよび交通(電気、水道、公共交通機関、交通渋滞等)
7.レクリエーション(レストラン、劇場、映画館、スポーツ・レジャー施設等)
8.消費財(食料/日常消費財の調達状況、自動車等)
9.住宅(住宅、家電、家具、住居維持サービス関連等)
10.自然環境(気候、自然災害の記録)
【以上、マーサージャパンのHPから引用】
出典:マーサーの都市ランキング2012
一位のウィーンは、12年と同様に09年、10年、11年でもトップになっている。12年では、東京=44位、神戸=48位、横浜=49位である。ニューヨーク市やマドリードなども東京と同列の都市である。上位ランクの都市は活気と自律が両立した住みやすい都会との感がある。この点で、日本の都会とそこに住む人々には、まだまだ質的な改善の余地がある。
次回に続く。
2)オーストリアとオランダの産業
オーストリアとオランダの経済を支える産業は次のとおりである。
オーストリアの主な産業
地下資源:石油、天然ガス、鉱物(アルミ、銅、金、鉄、鉛、亜鉛、塩)
重化学工業:鉄鋼、石油化学
機械工業:重機、自動車/部品、農業機械、精密機械、織機、機関車・車両(日本の新幹線保線車両)
手工芸:陶磁器、ガラス製品、装身具、刺繍・レース製品、木彫品
観光業:登山鉄道、音楽・名所旧跡
農業:穀物、酪農(アルプス式牧畜)、穀物自給率=91%(日本=27%、2003、農水省)
交通:東西交易の要所(中世の琥珀街道と塩街道)、鉄道網、高速道路網、ドナウ水運
東西交流:永世中立国(1955)、国連・国際機関をドナウ河畔に集約(ウィーン国際センター)
オランダの主な産業
地下資源:石油、天然ガス、石油メジャー(ロイヤル・ダッチ・シェル)
重化学工業:鉄鋼、石油化学、化学繊維(AKU)、化学肥料(DSM)
機械工業:機械、エレクトロニクス、電気(フィリップス)、航空機(フォッカー)、造船
手工芸:ダイヤモンド加工(アムステルダム)、陶磁器(デルフト焼き)
食品工業:チョコレート(バン・ホーテン)、ビール(ハイネケン)、乳製品、加工食品
農業:酪農、近代化農場(野菜)、花畑(球根、花卉)
魚業:北海漁場
海運業:ロッテルダム港(ユーロポート、荷扱い世界トップ)、アムステルダム港
交通:鉄道網、高速道路網、内陸運河網
3)経済指標
先に述べたが、国民一人当たりのGDP(国内総生産)、GDPデフレーター(Deflator:指数)、経済成長率、失業率をチェックする。個々の経済指標を国別に説明すると長くなるので省略するが、これらの国に関する経済的な出来事は次のとおりである。
◇オランダ病:60年代の天然ガス発見に根ざす不況、70年代後半から80年代半まで続いた。
73年のオイルショック当時、天然ガスの輸出による好況の反面、製造業が衰退、自国通貨高と
失業率の上昇を招き、国際競争力を失った。
◇ワークシェアリング:仕事を多くの人と分かち合うこと。政労使が82年にハーグ近郊のワッセナー市
で合意し、オランダ病を克服した。この合意をワッセナー合意という。
ワークシェアリングは、サービス業やオフィスワークには有効であるが、製造業の生産性を改善す
るものではなく、逆に、原価のオーバーヘッドコスト(間接費)を押し上げる。たとえば、人手作業の
ワークシェアリングは可能だが、自動化された作業では意味をなさない。この点は要注意。
◇DEWKS:Double Employed With Kids(デュークス:子供がいる共働き夫婦)の略。DINKS(Double
Incomes No Kids(ディンクス:子供を持たない共働き夫婦)はDEWSKの対義語。DEWKSとDINKS
は、80年代後半からオランダ、ドイツやアメリカ、カナダなどで広まった。
注)ワークシェアリングやDEWKSの背景には、「“できる人”は早々に会社からスピンアウトする」とい
う社会的な風潮がある。また、これらは、日本の給与体系に含まれる通勤手当や住宅手当などと
はなじまない。
◇同一労働同一賃金:パートタイマーとフルタイマーの均等待遇。オランダの労働法は、パートタイム
とフルタイム労働者の時間当たり賃金、社会保険制度への加入、雇用期間などの差別を92年の
法改正で禁止した。
同一労働同一賃金は単純労働では成立するが、専門知識と経験を要する仕事にはなじまない。
この言葉だけが独り歩きすると社会が混乱する。
◇リーマンショック:サブプライムローン(低所得者向け住宅ローン)で倒産したリーマンブラザーズ(投
資銀行)を震源とする08年の世界的な金融危機。
3ヶ国の経済指標をグラフ化すると次のとおりになる。
一人当たり名目GDP(USドル)
下のグラフでは、90年代前半に日本のバブル期の影が見られる。その反動で04年頃から日本の数値はオーストリアとオランダより小さくなった。しかし、今月に決まった20年の東京オリンピックは、日本の経済を刺激するので13年以降の数字は大きく上向く可能性が高い。
出典:オリジナルデータ=世界経済のネタ帳
グラフ:上のオリジナルデータを筆者がグラフ化した。
3)GDPデフレーター
デフレーターは物価指数を意味する。このグラフでは、デフレ―ターの値>100%のときはインフレ、デフレーター<100%のきはデフレである。日本経済は05年頃からデフレになったが、デフレから脱却するために、アベノミックスは+2%の物価上昇を目標にしている。20年の東京オリンピックの頃には、100%を大きく上回ると見られる。
出典とグラフ:「一人当たり名目GDP」と同じ
4)経済成長率
東京オリンピックの効果で14年以降の日本の成長率は、このグラフより上方に振れることは確実である。
出典とグラフ:「一人当たり名目GDP」と同じ
5)失業率
下のグラフでは見えないが、オランダ病のためにオランダの失業率は83年と84年には8%台だった。しかし、82年のワッセナー合意の効果が徐々に表れ、85年=7.33%、86年=6.52%(下のグラフ)・・・01年=2.54%にまで低減した。
92年頃から失業率がふたたび上昇に転じた。その上昇はワークシェアリングでは改善できない失業率、たとえば、産業の効率化、不況と税収減少・歳出削減などに起因する失業が考えられる。
出典とグラフ:「一人当たり名目GDP」と同じ
以上、いくつかの経済指標を比較したが、これらの指標は、人口の多い少ないで大きく変わるものではない。今後は日本の人口は減少するが、人口の減少は必ずしも経済的に衰退するとは限らない。逆に、日本人の知恵と工夫で前例のない繁栄を達成する可能性が大きい。
3)世界の都市ランキング
最後に、参考のために世界の都市の生活環境ランキングを、マーサー(Mercer:コンサルティング会社)の「2012年 世界生活環境調査-都市ランキング」で一覧する。このランキングは、次の10項目を相対的に評価した結果である。(New Yorkの各項目のスコアを100として他の都市のスコアを評価する)
1.政治・社会環境(政情、治安、法秩序等)
2.経済環境(現地通貨の交換規制、銀行サービス等)
3.社会文化環境(検閲、個人の自由の制限等)
4.健康・衛生(医療サービス、伝染病、下水道設備、廃棄物処理、大気汚染等)
5.学校および教育(水準、およびインターナショナルスクールの有無等)
6.公共サービスおよび交通(電気、水道、公共交通機関、交通渋滞等)
7.レクリエーション(レストラン、劇場、映画館、スポーツ・レジャー施設等)
8.消費財(食料/日常消費財の調達状況、自動車等)
9.住宅(住宅、家電、家具、住居維持サービス関連等)
10.自然環境(気候、自然災害の記録)
【以上、マーサージャパンのHPから引用】
出典:マーサーの都市ランキング2012
一位のウィーンは、12年と同様に09年、10年、11年でもトップになっている。12年では、東京=44位、神戸=48位、横浜=49位である。ニューヨーク市やマドリードなども東京と同列の都市である。上位ランクの都市は活気と自律が両立した住みやすい都会との感がある。この点で、日本の都会とそこに住む人々には、まだまだ質的な改善の余地がある。
次回に続く。