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日本の将来---2.日本と欧米との比較(5)

2013-09-25 | 日本の将来
2.日本と欧米との比較(4)から続く。

2)オーストリアとオランダの産業
オーストリアとオランダの経済を支える産業は次のとおりである。

オーストリアの主な産業
地下資源:石油、天然ガス、鉱物(アルミ、銅、金、鉄、鉛、亜鉛、塩)
重化学工業:鉄鋼、石油化学
機械工業:重機、自動車/部品、農業機械、精密機械、織機、機関車・車両(日本の新幹線保線車両)
手工芸:陶磁器、ガラス製品、装身具、刺繍・レース製品、木彫品
観光業:登山鉄道、音楽・名所旧跡
農業:穀物、酪農(アルプス式牧畜)、穀物自給率=91%(日本=27%、2003、農水省)
交通:東西交易の要所(中世の琥珀街道と塩街道)、鉄道網、高速道路網、ドナウ水運
東西交流:永世中立国(1955)、国連・国際機関をドナウ河畔に集約(ウィーン国際センター)

オランダの主な産業
地下資源:石油、天然ガス、石油メジャー(ロイヤル・ダッチ・シェル)
重化学工業:鉄鋼、石油化学、化学繊維(AKU)、化学肥料(DSM)
機械工業:機械、エレクトロニクス、電気(フィリップス)、航空機(フォッカー)、造船
手工芸:ダイヤモンド加工(アムステルダム)、陶磁器(デルフト焼き)
食品工業:チョコレート(バン・ホーテン)、ビール(ハイネケン)、乳製品、加工食品
農業:酪農、近代化農場(野菜)、花畑(球根、花卉)
魚業:北海漁場
海運業:ロッテルダム港(ユーロポート、荷扱い世界トップ)、アムステルダム港
交通:鉄道網、高速道路網、内陸運河網

3)経済指標
先に述べたが、国民一人当たりのGDP(国内総生産)、GDPデフレーター(Deflator:指数)、経済成長率、失業率をチェックする。個々の経済指標を国別に説明すると長くなるので省略するが、これらの国に関する経済的な出来事は次のとおりである。

オランダ病:60年代の天然ガス発見に根ざす不況、70年代後半から80年代半まで続いた。
  73年のオイルショック当時、天然ガスの輸出による好況の反面、製造業が衰退、自国通貨高と
  失業率の上昇を招き、国際競争力を失った。
ワークシェアリング:仕事を多くの人と分かち合うこと。政労使が82年にハーグ近郊のワッセナー市
  で合意し、オランダ病を克服した。この合意をワッセナー合意という。
  ワークシェアリングは、サービス業やオフィスワークには有効であるが、製造業の生産性を改善す
  るものではなく、逆に、原価のオーバーヘッドコスト(間接費)を押し上げる。たとえば、人手作業の
  ワークシェアリングは可能だが、自動化された作業では意味をなさない。この点は要注意。
DEWKS:Double Employed With Kids(デュークス:子供がいる共働き夫婦)の略。DINKS(Double
  Incomes No Kids(ディンクス:子供を持たない共働き夫婦)はDEWSKの対義語。DEWKSとDINKS
  は、80年代後半からオランダ、ドイツやアメリカ、カナダなどで広まった。
注)ワークシェアリングやDEWKSの背景には、「“できる人”は早々に会社からスピンアウトする」とい
  う社会的な風潮がある。また、これらは、日本の給与体系に含まれる通勤手当や住宅手当などと
  はなじまない。
同一労働同一賃金:パートタイマーとフルタイマーの均等待遇。オランダの労働法は、パートタイム
  とフルタイム労働者の時間当たり賃金、社会保険制度への加入、雇用期間などの差別を92年の
  法改正で禁止した。
  同一労働同一賃金は単純労働では成立するが、専門知識と経験を要する仕事にはなじまない。
  この言葉だけが独り歩きすると社会が混乱する。
リーマンショック:サブプライムローン(低所得者向け住宅ローン)で倒産したリーマンブラザーズ(投
  資銀行)を震源とする08年の世界的な金融危機。

3ヶ国の経済指標をグラフ化すると次のとおりになる。

一人当たり名目GDP(USドル)
 下のグラフでは、90年代前半に日本のバブル期の影が見られる。その反動で04年頃から日本の数値はオーストリアとオランダより小さくなった。しかし、今月に決まった20年の東京オリンピックは、日本の経済を刺激するので13年以降の数字は大きく上向く可能性が高い。

     
     
     出典:オリジナルデータ=世界経済のネタ帳
     グラフ:上のオリジナルデータを筆者がグラフ化した。

3)GDPデフレーター
 デフレーターは物価指数を意味する。このグラフでは、デフレ―ターの値>100%のときはインフレ、デフレーター<100%のきはデフレである。日本経済は05年頃からデフレになったが、デフレから脱却するために、アベノミックスは+2%の物価上昇を目標にしている。20年の東京オリンピックの頃には、100%を大きく上回ると見られる。

     
     
     出典とグラフ:「一人当たり名目GDP」と同じ

4)経済成長率
 東京オリンピックの効果で14年以降の日本の成長率は、このグラフより上方に振れることは確実である。

     
     
     出典とグラフ:「一人当たり名目GDP」と同じ

5)失業率
 下のグラフでは見えないが、オランダ病のためにオランダの失業率は83年と84年には8%台だった。しかし、82年のワッセナー合意の効果が徐々に表れ、85年=7.33%、86年=6.52%(下のグラフ)・・・01年=2.54%にまで低減した。
 92年頃から失業率がふたたび上昇に転じた。その上昇はワークシェアリングでは改善できない失業率、たとえば、産業の効率化、不況と税収減少・歳出削減などに起因する失業が考えられる。

     
     
     出典とグラフ:「一人当たり名目GDP」と同じ

以上、いくつかの経済指標を比較したが、これらの指標は、人口の多い少ないで大きく変わるものではない。今後は日本の人口は減少するが、人口の減少は必ずしも経済的に衰退するとは限らない。逆に、日本人の知恵と工夫で前例のない繁栄を達成する可能性が大きい。

3)世界の都市ランキング
最後に、参考のために世界の都市の生活環境ランキングを、マーサー(Mercer:コンサルティング会社)の「2012年 世界生活環境調査-都市ランキング」で一覧する。このランキングは、次の10項目を相対的に評価した結果である。(New Yorkの各項目のスコアを100として他の都市のスコアを評価する)

1.政治・社会環境(政情、治安、法秩序等)
2.経済環境(現地通貨の交換規制、銀行サービス等)
3.社会文化環境(検閲、個人の自由の制限等)
4.健康・衛生(医療サービス、伝染病、下水道設備、廃棄物処理、大気汚染等)
5.学校および教育(水準、およびインターナショナルスクールの有無等)
6.公共サービスおよび交通(電気、水道、公共交通機関、交通渋滞等)
7.レクリエーション(レストラン、劇場、映画館、スポーツ・レジャー施設等)
8.消費財(食料/日常消費財の調達状況、自動車等)
9.住宅(住宅、家電、家具、住居維持サービス関連等)
10.自然環境(気候、自然災害の記録)
【以上、マーサージャパンのHPから引用】

        
        出典:マーサーの都市ランキング2012

一位のウィーンは、12年と同様に09年、10年、11年でもトップになっている。12年では、東京=44位、神戸=48位、横浜=49位である。ニューヨーク市やマドリードなども東京と同列の都市である。上位ランクの都市は活気と自律が両立した住みやすい都会との感がある。この点で、日本の都会とそこに住む人々には、まだまだ質的な改善の余地がある。

次回に続く。

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日本の将来---2.日本と欧米との比較(4)

2013-09-10 | 日本の将来
(2)日本-オランダ-オーストリアの統計
7月25の「1960年代の日本」から前回の「2000年代のタイ」で、筆者の目に映った世界の変化を伝えた。

今回は、街角の外観から読み取れない変化、国別の経済情勢をいくつかの指標で眺めてみる。ここでは、日本と国情が大きく違うアメリカとタイを除外して、オーストリア、日本、オランダの一人当たりの名目GDP、GDPデフレーター、経済成長率、失業率を比較する。
【参考:このブログの2013-07-10に示した「2012年の一人当たりの名目GDPランキング」では、オーストリア=12位、日本=13位、オランダ=14位であり、これら3ヶ国は経済的には似かよった国である。】

経済指標を比較する前に、まず各国の広さと人口を紹介する。

1)国の広さと人口
日本、オーストリア、オランダの国土面積は、次のとおりである。
  日本      377,955km2
  オーストリア  83,871km2  北海道(83,456km2)とほぼ同じ
  オランダ     37,354km2  北海道の半分弱、九州(42,194km2)より1割ほど小さい 

また、各国の地勢上の特長は、日本とオーストリアは山国、オランダは山のない平らな国である。「世界森林白書2009年報告、表2 森林面積とその推移(pp.218-227、FAO, 2006a)」(国際農林業協働協会、翻訳出版)によれば、各国の森林面積が国土に占める割合は、日本=68.2%、オーストリア=46.7%、オランダ=10.8%である。ちなみに、可住地面積=国土面積-森林面積-湖沼面積で推定する。

次に、各国の人口は下のグラフに示すとおりである。

     
     出典:オリジナルデータ=世界経済のネタ帳
     グラフ:上記のオリジナルデータを筆者が加工・グラフ化した。

オランダの人口は約1,600万人、東京23区の約900万人(2013年)の約2倍弱である。また、オーストリアは約800万人でオランダの半分である。オランダとオーストリアの人口と国土は小さいが、両国は高度な先進国である。いうまでもなく、国の豊かさは人口や国土の大きさとは別物である。日本の人口は減少期に入るが、悲観するには及ばない。

日本、オーストリア、オランダの地勢の特徴は先に説明したが、参考に各国の人口密度を示すと次のようになる。
  日本      337.64人/km2
  オーストリア 100.79人/km2
  オランダ    400.22人/km2
  【出典:世界経済のネタ帳】

一国を一言で表現することは難しいが、筆者の印象では、オランダ人は寛容だがルールを固く守る人々、オーストリア人は公平と社会の安定を重んじる人々と思っている。もちろん、オランダ人やオーストリア人に限らずドイツ人、イギリス人、フランス人、北欧人なども、伝統とルールを重んずる人々である。

たとえば、80年代だったか定かではないが、オランダでは車のナンバーの奇数偶数で運転日を隔日で決めていた。あの時のオランダ人は「今日は運転しない日だから、駐車場内でも車を動かさない」といっていたのでかなりの堅物だと思った。また、ウィーンの市電ではめったに検札に会わないが、もし不正が発覚すれば容赦なく高額の罰金を求められる。日常生活では温厚な紳士淑女もルール違反には厳しくなる。しかし、それは合理主義の一面であり、「見て見ぬ振り」の日本とは違った社会規範である。

ここで、各国の移民事情にも触れておく。「移住・移民の世界地図(The Atlas of Human Migration)」丸善出版、2011年によると、移民データは次のようになっている。
  日本:移民=217万人、人口比=1.7%  移民数=217万人は名古屋市の人口に近い。   
  オーストリア:移民=131万人、人口比=15.6%  主にトルコ、東欧からの移民
  オランダ:移民=175万人、人口比=10.5%  トルコ、モロッコ、インドネシアなどからの移民

さらに「移住・移民の世界地図」にある各国の移民政策(2005年)は、次のとおりである。
  日本:入移民水準=現状維持、高度技能移民=増加させる
  オーストリア:入移民水準=現状維持、高度技能移民=現状維持
  オランダ:入移民水準=低減させる、高度技能移民=増加させる
  【入移民水準:入国する移民の数や受け入れ基準】

オーストリアは、2011年1月から移民政策を変更、高度技能移民の家族にドイツ語能力を求めるようになった。これは、現在、オーストリア人の99%以上がドイツ語を母語としているのでドイツ語による移民との意思の疎通を重視していることの表れである。また、ドイツ語による教育現場の負担を軽減させるためでもある。なお、オーストリアはハプスブルク帝国時代から多民族国家だったので、民族言語権や放送言語の問題もあった。

日本の移民人口比は1.7%で僅かであるが、その絶対数は217万人でかなり大きい。日本人の人口は減少するが、移民子孫の人口は増加する。減少と増加が相対効果を生み、移民系人口比が急速に増加する。このような相対効果を考慮しながら、日本が日本であるために関連法規の整備を早急に進めるべきである。この法整備をおろそかにすると、ヨーロッパ諸国のように政治・経済・教育・宗教などの社会基盤に格差・対立・犯罪を招くので十分に注意したい。この問題の議論は長くなるのでここでは割愛するが、次世代への責任として筆者の考えを必要に応じて示していく。

次回に続く。

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