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グローバル化への準備---英語と他の言語(12):生産的思考

2013-04-25 | ビジネスの世界
英語と他の言語(11)から続く。

前回は、中学・高校レベルの数学の知識を前提に、日米両語で数式の読み方を紹介した。これで、簡単な数式が読めないという日本人の弱点を補強した。

次に問題になるのは、中身である。英語で数式の読み書きができるが、もし中身がお粗末であれば「TOEFLやTOEICはできるが、肝心の仕事ができない」ことの証し、これではビジネスの世界で胸を張って歩けない。

このことは、数学の問題だけでなく、コンピューター・プログラムや理路整然とした文章の作成といった分野にも当てはまる。

まず、数学的な思考過程を、下のヴェルトハイマーの問題【注1】で考える。

               ヴェルトハイマーの問題
               

上の図は、正方形ABCDと、その上に横たわる帯状の平行四辺形EAFCの面積の和を求めるという問題である。
【注1:ヴェルトハイマー(M. Wertheimer, 1880-1943)はドイツのゲシタルト学派の心理学者で生産的思考(Productive Thinking)を提唱(1920年)。代表的な推論形式である三段論法では、第三段の結論は、第一段の大前提に含まれているものの反復にすぎず、何ら新しい認識を示さないと指摘した。三段論法に対して、生産的思考の結論では、前提とは異なった新しいものが生産されると説いた。上の図は、数学的推理の際にも生産的思考が営まれる例として使われた。】

ここで、ヴェルトハイマーの議論から外れるが、筆者はこの問題を使って次の実験を試みた。場所はアメリカのある大学、その図書館から出てくる人にこの問題を解いてもらった。一種のランダム・サンプリング、一人が終われば、次に出てくる人にお願いした。

男女年齢学歴国籍が異なる十数人の回答から、さまざまな考え方があることが分かった。また、皆さんが非常に協力的で嬉しかった。

回答の幾つかを要約すると次のようになる。
1)正方形ABCDの面積(a*a)+平行四辺形EAFCの面積((b-a)*a)=a*b 2)三角形EBCの面積+三角形ADFの面積=a*b/2+a*b/2=a*b 3)三角形EBCを下に平行移動して長方形ADFBに変形、その面積=a*b 4)小三角形EAD’【注2】と小三角形FCB’などと図を細かく分解し・・・。
【注2:D’は線分ADとECの交点、B’は線分BCとAFの交点。D’とB’は原題(上の図)には示されていない。】

問題に直面して、次々と考えを巡らして解決に向かう推論過程(思考)は興味深い。すべての人がa*bに到達したが、それぞれの回答から推論過程を分析した。推論過程が最も短いのは、「平行移動」→「a*b」、長いのは、「正方形ABCDの面積=a*a」→「小三角形のAD’の計算」→「b:a=(b-a):AD’」→「AD’の計算」→・・・など、さまざまだった。しかし、問題の処理スピードの点では、推論過程が短いほど効率的な方法といえる。ちなみに、この実験は教育訓練と効果測定という分野に発展させたが、ここでは詳細は省略する。

一つの問題に対して多様な解決方法があることは、コンピューター・プログラムの書き方にも言えることである。一つの問題を解くとき、短いプログラムで目的を果たす人、長いプログラムを書く人、考え方を整理せず、思い付くままに書き進み、そのうち迷路に入りいつまでもプログラムを完成できない人など、さまざまである。一般に、プログラムが短いほど単純明快で処理スピードが速く、ミスも少ない。

幸い、コンピューター・プログラムの場合は、パフォーマンスに問題があれば最適化手法で改善できる。したがって、事前にプログラミングの注意事項を初心者に教えれば、効率の悪いプログラムは避けられる。さらに、プログラムのロジックをフロー・チャート化すれば、理路整然とした分かり易いプログラムを作成できる。

話は変わるが、ビジネス文書の作成でも、コンピューター・プログラムと同じように、簡潔で分かり易い文章が求められる。当然、ビジネスの相手は世界の人々である。風俗習慣や言語の違いを超えた思考の共通ルール、それは人類共有の論理学、その論理で組み立てた考え方はどこの世界にも通用する。

世界共通の論理の具体例は、演繹法や帰納法、三段論法、ブール理論(真偽表)、確率論などである。これらの論理は、数学・電子工学・統計学などの理論と深い関係にあり、一見難しそうだが、中学・高校レベルの知識で十分に説明できる。さらに、頭の中にある考え方をフロー・チャートに変換すれば、意外に短時間で理路整然とした中身に整理できる。

ここで大切なことは、頭の中の考え方を論理的な文章に組み立てる。この作業はまず母語でマスターすべきである。母語で身に付けた文章力は、外国語にも利用できるので応用範囲が広くなる。

次回の(3)語学の学習に続く。

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グローバル化への準備---英語と他の言語(11):数学と英語教育

2013-04-10 | ビジネスの世界
英語と他の言語(10)から続く。

2)世界共通の理論と言語
このブログの2013-01-25で、『国語=文学、という不思議』を紹介した(参照:「横書き文章読本」高橋昭男著、日経BP出版センター、1994年)。確かに、高校や大学の国語では日本文学、英語やフランス語では英米や仏文学の授業が中心だった。また、高校では論理的な日本語や英語の作文方法を学んだ記憶がない。

高校などで、アメリカの作家の作品を学ぶとき、その教材には日本語と英語の語学的な違いと学習者(日本人)と作家(アメリカ人)の考え方の違いが含まれている。それらは裏腹の関係にあり、語学的な違いと考え方の違いのどちらが、英語を難しくしているのかが分らなかった。その結果、日本語にない表現や言いまわしを丸暗記することになった。

このような混乱を避けるために、筆者はかねてから、易しい数学の教科書で英語を学ぶ方が効果的だと考えている。たとえば、数学の教科書(英語)で英語を学ぶことを考える。

初歩的な数学は世界の常識、その考え方やルールは日本人やアメリカ人に共通である。したがって、日本人とアメリカ人の考え方の違いは大まかに相殺され、英語の教材には日本語と英語の言語上の違いが浮き彫りになってくる。その違いをよく理解すれば、英語という言語がよく分かる。

下の図は簡単な一次関数と二次関数である。式(1)は直線、式(2)は二次曲線である。これらの数式は日米共通であるが、日本語と英語の読み方には違いがある。(以下、“読み方”または“言い方”をまとめて簡単に“読み方”という。)

          一次式の例
          
式(1)の読み方:
日本語=ワイ は に(2)エックス マイナス さん(3) に等しい。
 また、上の日本語を、“ワイ イコール にエックス マイナス さん”と読むこともできる。
英 語=Y equals two times x minus three.
 また、上の英語の"equals"の代わりに"is equal to"と読むこともできる。

          二次関数の例
          
式(2)の読み方:
日本語=エフエックス は エイエックス2乗 プラス ビーエックス プラス シー に等しい。
英 語=F of x equals a times x squared plus b times x plus c.

また、"f(x)"を"Function of x"(xの関数)と丁寧に読む人もいるが、一般に、"f of x" と読む。もし、s(x)でsがxの関数であれば、"function, s of x"と読む。また、"x squared"の代わりに"x to the second power"と読む人もいる。

ついでながら、数式でよく見かける下の図のような文字は、左から順に次のように読む。

          簡略化した読み方の例
          
日本語=ビー分のエイ、エイアイ(ai)、エイアイ(ai)・・・下付きと上付きの添え字は、一般に区別しない。
英語=a over b (エイオーバービー)、a sub i (エイサブアイ)、a super i (エイスーパーアイ) ・・・"a over b"の代わりに"a divided by b"でも良い、sub(サブ)はsubscript(サブスクリプト)の略、super(スーパー)はsuperscript(スーパースクリプト)の略、通常は、subとsuperのように略語で読む。

上の式(1)と(2)ともに、日本語と英語の読み方に多少の違いがあるが、文章の構造はほぼ同じである。その理由は、数学の記号(文字)と数式の書き方(一種の文法)は、日本語と英語の文法より優先するからである。その結果、式(1)と(2)の日本語と英語の読み方の違いは、主に両国語の言語上の違いといえる。

また、式(1)と(2)を生成するときには、言いたいことを一度日本語で考えるというステップを踏まず、いきなり数学の共通語(英語)で数式を書き始める。ただし、昔は日本語と数学の共通語にギャップがあったので、たぶん漱石の「坊ちゃん」や「山嵐」は、幾何学の式ではまず正弦や余弦を頭に浮かべて、次にこれらの単語をSineやCosineに変換して、黒板にSin θとかCos θと書いていたと思う。しかし、今では正弦や余弦は死語に近いので、いきなりSineとCosineという言葉を書き始める。

さらに、式(1)のxは独立変数、yは従属変数、aとbは定数と日本人もアメリカ人も認識する。しかし、言語の上では、独立変数:independent variable、従属変数:dependent variable、定数:constantの違いになる。これらの違いは、日本語と英語の直訳で片付く問題であり、厄介な意訳をするまでもない。

以上のとおり数式の生成では、日米の発想に大きな違いはないといったが、風俗習慣に起因する違いもあると断っておく。たとえば、ものの数を数えるとき、日本では正の字を使い、欧米やタイでは、下の図の下段のようにスラッシュ(/)を並べて数える。

          カウントの違い
         

ここで言いたいことは、英語教育では文学作品やエッセイだけでなく、初歩的な数学も教えることを提案する。それは単に数学と英語の力を付けるにとどまらず、英語で論理を組み立てる訓練にもなる。

この項は、次回の英語と他の言語(12)に続く。

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