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グローバル工場---ビジネスモデル

2011-12-11 | ことばとコンピュータ
1.工場のビジネスモデル

(1)グローバル化の流れ
1990年代から日本の製造業は、「安い人件費」を求めて盛んに東南アジアや中国に進出した。ちょうどその頃、筆者はアメリカの多国籍企業の統合システム(Integrated Business System:日本流にいうとグローバル業務システム)の開発に参加していた。システムの目標は、「アメリカの本社で世界の状況をリアルタイムで把握する=経営視界の改善(Improvement of Management Visibility)」だった。

ふた昔前の話はさておき、今日では世界の製造業の背景は大きく変化した。日本では少子高齢化、他方では地球人口は70億人を突破すると共に途上国の経済情勢も一変した。日本の製造業も「安い人件費」から「戦略的な海外工場管理」の時代、今流にいえば、「グローバル化の流れ」に対応する時代に至った。

そこで、先ずグローバル化時代の工場のビジネスモデルを説明する。なお、システムは専用回線上の多言語一元化DB(Client/Server)である。

(2)専門語の説明
1)マテハン
  マテリアルハンドリング(Material Handling)をマテハンと略称する。工場内で材料や品物を加工
  したり移動したりすることをいう。品物の取り扱いを意味する。

2)見込み生産と受注生産(Production-to-Stock/Production-to-Order)
  見込み生産=販売予測数を生産し、在庫した製品を販売する。量産品の生産形態である。
  受注生産=顧客から受注した製品を生産する。注文生産といい、在庫は持たない。
  製品の販売数量に応じて、見込み生産と受注生産を併用する工場が多い。 

3)加工外注
  材料や部品の加工を外部(外注先工場)に依頼し、加工賃またはサービス料を支払う。
  典型的な例:メッキや塗装など。国によっては、サービス業への法規制があるので、要注意

(3)モデルの説明
下の図は、工場のビジネスモデルを示している。このモデルは、機械、電気、化学、食品、繊維、薬品、家具など、あらゆる業種の工場に当てはまる。また、生産形態として、見込み生産と受注生産に対応している。

図において、受注部門や倉庫部門、あるいは工場自体が国内外の各地に分散しているケースがある。事業所が分散しているケースでもこの図は成り立つ。同様に、図に示す顧客は国内外の個人、販売会社、工場、官公庁などを含み、仕入先は国内外の販売会社、商社、工場、加工外注先などである。

同時に、この図はコンピュータシステムの機能を示している。このコンピュータシステムは、分散型の事業所を集中的に管理する統合システムである。事業所は分散、システムは集中、これがこのモデルの考え方である。

特に、生産基礎情報は一元化データベースでなければならない。したがって、このデータベースには、日本語と英語(共通語)ならびに現地語が共存する。このため、システムは英語を標準語とする多言語システムになる。ただし、現地の官公庁に提出する財務諸表などは、その国の法規と現地語で作成する。

次に、図に示す番号にしたがって、それぞれの機能を簡単に説明する。

     工場のビジネスモデル・・・「生産管理の理論と実践」の「試し読み」の1ページ参照
 出典:筆者著“生産管理の理論と実践” COMM Bangkok、2010

1)見積
  新規顧客の場合は、基礎情報に登録をする。世界レベルの法人価格契約や販売制限をチェックす
  る。顧客名称、住所、氏名(代表者や担当者名)、役職は日英現地語で登録する。

2)受注
  注文書(文書)、Fax、電話、データ伝送、インターネットによる注文に対応する。

3)生産計画
  グローバル生産計画で各工場の生産枠を設定、各工場は大枠に沿って3ヶ月計画を立案する。
  グローバル生産計画は、各国の受注と内示と予測を反映し、工場間の生産負荷を平準化する。

4)購買
  顧客と同様、新規仕入先は基礎情報に登録する。名称や住所や支払先(銀行名なども含む)は日英
  現地語で登録する。
  どこの国にどのような製品がいくらで調達できるかといった購買データベースを作成する。このデータ
  ベースで国内外の代替仕入先を開拓し、緊急事態に強いグローバルサプライチェーンを構築する。

5)購入品在庫
  海外から購入する特殊品(特殊な化成品や素材など)は十分な安全在庫を持つ。

6)加工工程
  手作業から完全自動化工程まで、あらゆる種類の工程を含む。工程の種類にかかわらず、工場の
  基本は整理整頓清潔である。この点では、進出先の従業員の躾けが重要な課題になる。  
  また、他工場を含む代替工程の準備は、政変、自然災害、突発事故に対応できる柔軟なサプライ
  チェーンの構築に不可欠である。この点は、船団方式を好む日本企業の今後の課題である。

7)最終工程
  加工工程と同じであるが、最終工程(または最終検査工程)を終えた品物を完成品または製品と呼
  び、完成品倉庫に移動する。

8)完成品在庫
  完成品または製品の在庫である。

9)出荷
  完成品を顧客に出荷する。進出先の国内顧客への出荷と売上の計上については、国別の商習慣
  や税法を考慮しなければならない。
  製品や国にもよるが、代金引換(Payment on Delivery)の出荷もある。

10)その他
  会計処理では、世界共通勘定科目にもとづき日本本社と進出先国の財務諸表を同時に作成する。
  国際会計基準(International Accounting Standard)またはグローバルな社内会計基準が必要に
  なる。

次回は、このビジネスモデルを機能の階層図に変換して、議論を進める。

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グローバルシステム---現状分析6:改善例3、改善の順序

2011-11-26 | ことばとコンピュータ
3-2 業務改善の事例
工場では、品物の入庫はプラス(+)、出庫はマイナス(-)、それぞれの残数を在庫数という。その計算は足し算と引き算に過ぎないが、在庫数を正確に把握することは意外に難しい。

ここでは、製品在庫を正確に把握できるようになったタイの日系工場の事例を紹介する。

(1)専門語の説明
1)直接材料と間接材料・・・「生産管理の理論と実践」の「試し読み」4ページ参照
  工場で使用する材料は、直接材料と間接材料に分けて管理する。
  直接材料=素材、化成品や電子部品など、製品の材料として使用する購入品である。
   直接材料は、半製品(仕掛品)を経て製品(完成品)に仕上げられる。
   直接材料、仕掛品、完成品の在庫数と金額は生産計画や財務諸表の基礎データになる。
  間接材料=潤滑油、工具、包装材や事務用品など、工場に必要な資材である。副資材ともいう。
   間接材料の在庫は必要に応じて管理する。在庫管理が必須でないので、ここでは議論しない。

2)品目テーブル
  品目テーブルは、完成品、仕掛品、直接材料の一つ一つの品目の名称、品目コードや価格情報
  などの一覧表。このテーブルは完成品受注、材料購入、生産計画、在庫管理に利用する。
  一覧表のデータ件数は、小さな工場で数千件、大きな企業では70万件を超えるケースもある。

(2)事例の説明
この日系工場の製品は機械部品、生産量は月当たり数百万個だった。会計処理はパッケージソフト、在庫や生産管理などの業務はエクセル(Microsoft社の表計算ソフト)で管理していた。

毎月末の棚卸で完成品、仕掛品、直接材料の数量と金額を把握する。したがって、会計処理には問題はなかった。しかし、月末だけの在庫把握は、生産管理にさまざまな弊害をもたらした。たとえば、不要不急の完成品を作り過ぎる、計画的な前倒し生産で工程負荷を平準化することが困難などの問題だった。

現状分析の結果から、トップマネージメントは次のような手順で製品在庫の精度改善に乗り出した。

改善策
1)品目テーブル(約5,000件)のクリーニング
  正体が不明な品目、過去の試作品、生産打切りで在庫が存在しない品目などを隔離した。
2)現場担当者の協力
  生産現場のオペレーターと倉庫の担当者一人ひとりの協力なしには、在庫の精度は向上しない。
  理由を説明して、全員の協力を要請した。
3)在庫の一元管理
  工場内には、直接材料や完成品の在庫テーブル(エクセル)があちこちに分散していた。しかも、
  どれも信頼できるデータではなかった。
  そこで、在庫テーブルをサーバーに集約し、特定の担当者が定時に入出庫データを入力した。
4)完成品、直接材料、仕掛品の順序で在庫精度を改善
  完成品は顧客に出荷する製品、その出荷数が正しくなければ工場の信用問題になる。
  先ず完成品在庫に焦点を絞って改善する。次に直接材料、最後に仕掛品の在庫を改善する。
  (完成品、直接材料、仕掛品の在庫を同時に改善しようとすると失敗する・・・経験則)

下の図は、ステップ1で完成品、次に直接材料、最後に仕掛品の在庫改善へと進む方針を示している。

ステップ1:完成品の在庫精度改善
       完成報告の品目と数量で完成品在庫(+)
       出荷報告の品目と数量で完成品在庫(-)
ステップ2:直接材料の在庫精度改善
       具体的な方法は図に示すとおり
ステップ3:仕掛品の在庫精度改善
       具体的な方法は図に示すとおり

               製品在庫の精度改善


結果
1)平均百数十万個の完成品在庫で月末棚卸の誤差が100個前後になった。このような精度が6ヶ月
  以上続き、管理体制も定着した。“やればできる(can-do spirit)”という自信と誇りが、現場の人々
  に芽生え始めた。
2)完成品在庫(エクセル)をサーバーに一元化したので、各担当者が抱えていた在庫テーブルは不要
  になった。担当者たちは、在庫管理から解放され、本来の仕事に専念できるようになった。
3)在庫数を正確に把握する。それは、最終目的ではなく、臨機応変かつ的確な生産活動の基本条件
  との認識が工場に広がった。それは個人プレーでなく、組織的な行動ではじめて実現すると人々
  は実感した。
4)完成品在庫での自信は直接材料を改善しようという意欲に繋がり、職場が明るくなった。

今回で改善事例の紹介を終え、次回から日本の製造業のグローバル化に話を進めて行く。次回は、先ずグローバル化の前提となる工場のビジネスモデルを再確認する。

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グローバルシステム---現状分析4:改善例1、担当者の自発的Kaizen

2011-10-08 | ことばとコンピュータ
3.業務改善の事例
実際の改善提案の内容は千差万別だが、ここではタイの日系工場の事例を紹介する。

(1)専門語の説明
事例の紹介に先立ち、この説明に出てくる生産管理用語を簡単に解説する。
1)単独工程
  1台(セット)の機械または装置で材料を加工し、部品や製品を生産する工程をいう。
  例:鉄板から部品を打ち抜く工程
2)連続工程
  複数の工程を連結した工程をいう。初工程に材料を投入し、最終工程で部品や製品を仕上げる。
  途中の工程で別の材料を投入することもある。例:鉄板を投入⇒切断⇒穴あけ⇒仕上げ
3)サイクルタイム(Cycle Time)
  単独工程や連続工程が1つの部品や製品を仕上げる時間。機械部品の場合は秒単位が多い。
  例:サイクルタイム=30秒 ならば 30秒に1個の部品や製品が仕上る。
4)生産基礎情報
  品目テーブル(材料、部品、製品などのデータ)、部品表(使用材料のデータ)、工程順序表(加工順序
  やサイクルタイムなどのデータ)などの総称で、工場のデータベースである。
  
(2)事例の説明
現状分析の結果、主力製品の生産性に問題があることが分かった。生産性の問題と同時に、当時、材料の高騰と為替レートの悪化で製品コストの削減も急務となっていた。

そこで、主力製品の一つに的を絞って、生産指示数、サイクルタイム、オペレーター達の動作など、「人、もの、情報」の流れを分析した。この工程は製品ABCの最終組立てラインで、見直し作業にはオペレーターも参加した。

説明が長くなるので詳しい内容は省略するが、問題を要約すると下の図のようになる。図の黄色の部分は「Before(改善前)」、緑の部分は「After(改善後)」を示している。

生産性改善の事例---改善前と改善後

 出典:筆者著“生産管理の理論と実践” COMM Bangkok、2010

上の図に示すとおり、改善前の工程は朝8時-20時の作業で1,200個の製品ABCを生産していた。「プリセット」「組立て」「塗装/乾燥/検査」の3つの単独工程で編成したこの組立工程を4人の女性オペレーターが担当していた。

改善策
1)3つの単独工程を1つの連続工程に変更、この変更に伴う生産基礎情報の見直し。
2)改善前の作業効率は、サイクルタイムベースで68.4%だった。
  工程の連結とその運用を改善し、サイクルタイムを22秒に短縮した。
  試算の結果、余裕率を考慮しても製品ABCの生産は17時頃に終了すると判断した。
3)“効率68.4%は、100点満点の70点程度、これはCクラスの仕事である。
  せめて80点前後のBクラス、できれば90点以上のAクラスを達成し、世界の工場に向かって胸を
  張って欲しい”とオペレーターのプライドに訴えた。

結果
1)約2週間の試行錯誤で、図の緑色に示すように作業時間を約30%短縮した。
2)昼食時間の半数交替はオペレーター達の発案、これにより塗装乾燥装置は連続運転になった。
3)女性オペレーターの自発的な改善は、サイクルタイムベースで91.7%とAクラスに到達した。
  生産性は非常に高いが、時どき機械周りを掃除・整頓する余裕が残っていた。
4)工程の連続化のために設備を移動しただけで、他のコストは発生しなかった。
5)この改善は工場全体に知れ渡り、自分たちも“やればできる(Can do)”という自信を持つと同時に、
  “Kaizen”への関心が高まった。
  (注:単純化のため説明を省いたが、実際にはこの製品ABCを21時から翌朝6時まで引続き生産
  していたので、改善の効果は大きかった)

この改善が引金となって、全社的にサイクルタイムや生産指示数の見直しが始まった。やがて、他製品の生産性の見直しに波及し、増産への道が開けた。また、新しいデータにもとづく原価分析で、顧客・工場の双方が納得できる価格交渉が成立した。

次回のグローバルシステムは休み、代わりに石垣島旅行を10月末に掲載する。

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グローバルシステム---現状分析3;問題の整理と分析

2011-09-25 | ことばとコンピュータ
2.現状分析と改善提案
ここでは、現状調査で見つけた問題の分析と改善提案の方法をサンプルで説明する。

(1)問題の整理と分析
ヒアリング中に見つけた問題(Issue)は、業務フローの右端の摘要欄にその内容を説明する。すべての調査を終えたとき、業務フローから問題だけをエクセル(Excel)でコピーして一覧表にまとめる。下の表は一覧表のサンプルである。

                問題の一覧表(サンプル)
 出典:筆者著“生産管理の理論と実践” COMM Bangkok、2010

サンプルの左端に示す「分野」「Issue No.」「問題の内容」は業務フローからコピーしたものである。右端の「原因機能」は問題の原因になっている機能である。サンプルに示した原因機能の他に必要な機能があれば追加して良い。

たとえば、上のサンプルのIssue 1-1(問題1-1)は、「基礎情報」「見積り・受注」「原価計算」の不備による問題と仮定する。したがって、これらの欄の○印を付けた。この要領ですべての問題の原因を特定して、該当する機能に○印を付ける。

(2)改善提案
すべての問題の原因を特定し終えたとき、類似した問題をグループ化して、改善策を検討する。このとき、原因機能別の○印の数をサンプルに示すようなグラフにして、今 工場で起こっている問題の傾向を読み取る。また、工場の整理整頓や従業員の態度なども参考にする。

さらに、ヒアリング中に頭の中で模索していた改善案を、ここに整理した情報にもとづいて具体的な改善提案へと発展させる。

具体化した改善提案に番号を付けて、下の表に示すような「改善提案の一覧表」を作成する。この表は、改善提案とその提案が解決する問題を示している。また、それぞれの改善提案の具体的な内容、改善に必要な日数の推定、期待効果、推定コストをA4版用紙2~3ページにまとめる。このとき、改善提案を業務改善とシステム改善に分けておく。

                改善提案の一覧表(英語版のサンプル)

外国での現状分析は、サンプルのように現地社員も理解できる英語で記述するのが望ましい。英語で記述すれば、日本語から現地語への翻訳の手間とコスト、さらに誤訳なども防止できる。

次に、改善提案の優先順位を決定する。この決定には関係者全員が参加する。

これは経験則になるが、業務とシステムの改善からそれぞれ3つの改善を、優先順位の高い順に選択する。改善提案を6つに絞り、担当者(業務と兼任)を指名して、正式なプロジェクトとして提案を実行する。残りの提案は、関係者の課題として自発的な改善活動に委ねる。

以上、現状分析の手順を簡単に説明した。この方法は、工場に限らずあらゆる業界に応用できる。

最後に、過去の経験から次の点をアドバイスする。
1)現状分析は、最初から最後の改善提案までを一人の分析者で実施するのが望ましい。
  理由:
  1.複数の分析者が分業すると判断に個人差が生まれ、現状分析の一貫性が損なわれる。
  2.複数では、その日のヒアリングをその日中に業務フローに仕上げるのは困難になる。
  3.チームワークの報告書は分厚く、かつ総花的になる。しかし、中身の切れ味は悪い。
2)ヒアリングは工場と事務所の直接作業者からだけ、管理職からはヒアリングしない。
  ただし、実務をこなす管理職からのヒアリングは実施する。
  理由:
  1.現在のあるがままの姿を調査するのが目的である。むろん結果は管理職に知らせる。
  2.日本では、本音と建前を注意深く識別する。
  3.ヒアリングでは、自由回答型質問(Open-ended Questions)を多用しない。
  例:あなたはどう思いますか?

次回の現状分析4は、タイの日系工場の改善事例を紹介する。

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グローバルシステム---現状分析2:調査の方法

2011-09-09 | ことばとコンピュータ
(2)調査の方法
ここでは、工場(製造などの直接部門)と事務所(生産管理や経理などの間接部門)を例にとって説明する。

まず、各職場の管理職とリーダークラスの人々に現状調査の方法を、次のように説明する。
1)ヒアリングを受ける作業担当者は、現状だけを説明する。(今後の目標や計画の説明は不要)
2)ヒアリングのための資料作成は不要
3)製造現場の作業担当者からのヒアリング時間は、5~10分程度
4)必要に応じて、使用中の帳票を1枚だけコピーする。
5)翌朝、昨日のヒアリング内容を業務フロー(業務の流れ図)で確認する。所要時間は、5~10分程度

工場の作業だけでなく、製品データの管理、売掛/買掛や原価計算なども調査する。

(3)業務フローの作成
工場内でのヒアリング調査は、直接材料から仕掛品、仕掛品から完成品に向う流れに乗って進める。枝葉の流れにはあまり時間を費やさない。受注や経理処理などの間接部門の作業は、帳票の流れとシステム処理(入出力作業)にしたがってヒアリングを進める。

ヒアリングで得た業務の内容を、エクセル(Excel表計算シート)に展開する。エクセルシートは、A4縦、上辺幅5分の4のスペースを業務フロー作成に使用、右端5分の1のスペースを摘要欄に使用する。業務フローのスペースの中央に、ボックス(箱型の枠)を描き、その中に作業名を書く。たとえば、「電話による受注」や「最終組立て」などのボックスを作る。

ボックスの左側に使用する材料や帳票(Input:インプット)、右側に作業で作成した品物や帳票(Output:アウトプット)を矢印で示す。ボックスの替わりに業務システムの画面でも良い。

そのボックスの下に次の作業のボックスを書き、下向きの矢印で連結する。次の作業では、新しい材料や帳票、あるいは上のボックスのOutputの一部が、下のボックスのInputになる場合もある。

ボックス(作業)の順序を、できるだけ上から下に流れるように配置する。また、各作業のInputとOutputの流れを左から右に流れるように配置する。もちろん、作業の都合で逆方向の流れも起こりうる。他のページに続く時は、結合マーク(Connector:野球のホームベースの形)に記号を記入して、続き先に結びつける。このような作業や帳票や物の流れ図を、ここでは業務フローと呼ぶ。

必要に応じて、作業で使用したり作成する帳票を1ページだけコピーし、参照番号(Ref. No.)を付与する。参照番号付きのコピーは、参照資料として別冊にまとめて現状分析報告書に添付する。

もし、InputやOutput(帳票や品物)や作業の内容に問題があるとき、問題がある箇所の真横、摘要欄に問題の内容を簡単に説明する。問題の場所と摘要欄の内容説明を問題番号(Issue No.)で結びつける。問題がある部分と説明文に色付けして、視覚で関連付けることもできる。また、黄色と水色を交互に使い分けると、問題の混同を避けることができる。

                業務フロー(英文)のイメージ
 出典:筆者著“Theory and Practice of Production Management," COMM Bangkok, 2011

摘要欄の説明は短く、長くても50字を超えないように配慮する。後程、問題番号とその内容を一覧表に整理して、現状を分析する。

業務フローを作るとき、次の点に注意する。
1)ヒアリングは15時頃に切上げる。残りの時間で、明日までに業務フローを仕上げる。
2)帳票のコピーが必要なとき、そのコピーを手にするまで、次のヒアリングに移動しない。
  「後で下さい」ではなく、その場で入手する。(業務フロー作成に必要)
3)些細なことでも、気がかりな点は、問題番号を付けて右の摘要欄にメモする。
  職場の雰囲気や整理整頓、作業環境の気掛かりな点も記録する。
4)今日中に作成したフローを翌朝一番に、ヒアリングした人に確認する。
  口頭でなく業務フローで確認するので、短時間で終わる。
5)海外工場の場合は、業務フローを英語で作成する。業務フロー(英文)のイメージ参照
  英文による問題点の説明は、メモ書きのように英単語を並べるだけでも良い。(長文は禁物)
  (注)たとえば、タイでは技術系の「英/タイ辞書」は語彙も多く充実している。
  このため、現地社員にとっては和文より英文の方が辞書を引きやすく、また理解し易い。

現状調査の分析方法や注意事項は、次回の現状分析3で説明する。


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グローバルシステム---現状分析1:準備

2011-08-19 | ことばとコンピュータ
1.現状分析の準備
何か新しいことを始めるとき、先ずその試みを現状に照し合わせることが大切である。現在の業務手順を見直す、新しい業務アプリを開発する、製造中の製品原価を削減したいといった場合には、まず現状を調査する。現状を正しく知った上で、改善の余地を検討する。もし、改善が可能であれば、その具体的な方法を立案する。

これらの一連の動きを、現状調査・分析といい、略して現状分析という。新商品を開発する場合は、現状分析を市場分析という。市場分析の結果、新商品の性能や価格、生産量、宣伝・広告の方法を決定する。

外国の公園でよく見かける光景だが、リスがふざけ合って木から芝生に落ちてくる。着地したリスは、一瞬背伸びをして周囲を見渡す。そして、逃げる方向を見定めて、一目散に駆け出す。その一瞬は、10分の1、2秒であろうか、必ず駆け出す前に方向を決めている。走り出してから円弧を描いて目的地を変更するリスや着地の姿勢からいきなり走り出すリスは見たことがない。この一瞬の行動は動物本能だが、見事な現状分析だといつも感心している。

高価なパッケージソフトを購入したが、導入が思うように進まない。これはよくある話だが、その原因は現状分析の甘さにある。現状分析を省くと、後に思わぬトラブルに陥ることがある。

ここでは、工場の現状分析を説明する。その目的は業務改善と仮定する。もちろん、業務改善はコンピューター・システムの改善が前提である。

具体的な箇条書きの目標には、実効可能(Feasible)な業務改善(人の役割)とコンピューター・システム改善(推定期間&コスト)を、それぞれ最優先3項目に絞って提案する・・・通常、3つの最優先事項を片付けると以下の優先順位が変化するので、すべての改善を目指すのは得策ではない。

もちろん、この方法は、海外の工場や事務所にも当てはまる。国内外を問わず、現状を“あるがままの姿”(“As is”)で捉えるためには、“すべてを机の上に出す”(Everything on the table)ことがキーポイントになる。

現状分析では、道具、たとえばビデオカメラ、ストップウォッチ、特殊な計測器などを使うことがある。しかし、業務改善の現状分析では、ノートと筆記用具だけである。ただし、忘れてはいけないことが一つある。それは、現状分析を始める前に工場内の写真を数枚撮っておくことである。改善後に同じ角度から写真を撮って、改善前の写真と比較する。たとえば、改善前は仕掛品が乱雑に置いてあったが、改善後には通路もスッキリと見通しが良くなる・・・工場内が物理的にスッキリするのは継ぎはぎだらけの業務管理システム(Legacy Systems)の更改で経営視界(Management Visibility)が改善され、結果として工場管理の目が行き届くからである。

次に、現状分析の手順を3つに分けて説明する。それは、準備、調査および分析である。

(1)調査の準備
先ず、調査の準備として、範囲とスケジュールを設定する。

調査範囲を工場の敷地内に限る、あるいは分工場や外注先などを含めるなど、物理的な範囲を決める。たとえば、外注先の含める場合、ピンとキリの外注先を選ぶのも一つの方法である。自社の観点だけでなく、外部の目線を交えることに大きな意味がある。

次に、調査の対象業務と順序を決める。たとえば、受注、出荷、生産計画、工程、購買、在庫、経理、原価、基礎情報の業務を調査の対象とする。これらは、基幹業務であり、この場合は工場全体の現状分析と言える。

調査の順序は、品物や帳票の流れに沿って進んでゆく。この流れに逆行すると、調査が複雑になるので避けるべきである。

最後に、調査の日程を決める。過去の経験では、従業員200人から2,000人程度の工場ならば、基幹業務の調査に1ヶ月、分析に1ヶ月が目安になる。分工場がある場合、製品開発や設計部門を含む場合は、期間が1、2週間長くなる。

調査の期間にもとづいて、受注業務はいつごろ、出荷業務はいつごろと大まかなスケジュールを決める。正確な日付は、調査の進行状況によるが、実施の2、3日前に確定し、当事者に伝える。

今回はここまで、次回の現状分析2で調査と分析の方法を説明する。

【参考】
工場の調査範囲と順序の例として「生産管理の理論と実践」の「試し読み」の「図1-1 工場のビジネスモデル」を参照されたい。英語版は「Try Sample」参照


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グローバルシステム---アメリカと日本との比較

2011-07-23 | ことばとコンピュータ
先に紹介したアメリカのグローバルシステムは、アリゾナの半導体会社とカリフォルニアのソフト会社のシステムで、それぞれ1998~99年に完成した(筆者は2つのシステムに掛持ちで参加した)。この頃、すでに多くの日本の製造業が海外に進出していた。

当時、日本の海外進出の目的は途上国の安い人件費だった。他方、アメリカの目的は地球(グローブ)を見渡す経営視界の改善だった。安い人件費を求める日本の製造業と海外拠点の集中管理を目指すアメリカ、両者の目的は本質的に違っていた。しかし、ここでは、世界をカバーするコンピュータシステムと業務管理の観点から両者の比較を試みる。

2000年頃のタイ王国では、約550の日系工場が稼動していた。そこで、日系工場が多いバンコクで、コンサルティングの仕事を見つけた。その目的は、タイに進出した日本の製造業をタイの工場から観察し、そこに日本の製造業の将来像を描く手掛かりを得ようと考えた。

遠い将来、日本の製造業もアメリカ型のグローバルシステムを実現するのだろうか、あるいは、まったく別の日本独特のビジネスモデルを展開するのか、またその時の日本はどのような姿になっているのかと疑問は尽きない。その疑問は、今も続いている。

あの時から今日までの10年間に、繊維、機械、自動車関連の5社の工場に関わった。5社の規模は、従業員200から3,000人程度、日本人社長と数人から十数人の日本人が常駐する工場だった。工場のコンサルタントとして働くうちに、日本の製造業は「郷に入っては郷に従え」、言い換えれば、柔軟な分散型の工場管理だと分かった。アメリカの強力な本社集中管理とは対象的だった。

工場管理以外でも、英語は世界の標準語、人々が英語を話すのは当り前と考えるアメリカ人、英語を外国語の一つと考える日本人、世界の政治・経済・治安のリーダーはアメリカと考えるアメリカ人、国際政治の檜舞台で英語をしゃべれない自国の政治家に違和感を持たない日本人など、両者の考え方には大きな違いがある。

アメリカの10年間で2社、タイの10年間で5社という限られた見識で判断すると、両者には次のような違いがある。

1.使用言語
1)アメリカの集中管理
標準語=英語
ローカル言語(現地語)=日本、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、オランダ語など
e-mailの言語=英語
通訳=従業員は英語を理解するので通訳は不要(英語のできない人は採用しない)

2)日本の分散管理
標準語とローカル言語=現状維持、標準語をあえて定義しない。
ただし、5社の内1社は、英語を公用語(標準語ではない)として公式文書や報告書に使用
使用言語=日本では日本語と英語、タイでは日本語、タイ語、英語(会議案内など)
e-mailの言語=使用言語に同じ。必要に応じて日本語/タイ語の翻訳版をオリジナルメールに添付
通訳=タイ工場では、1人から数人の通訳または大学で日本語を専攻したタイ人社員を採用・・・重要な会議ではプロの通訳を利用、しかし、技術系/IT系/専門語を正確に通訳できないこともある。

2.業務システム
アメリカの場合は、世界の業務を統合システムで管理しているので問題はない。ここでは、説明を省く。

日本企業の場合は、国ごとに業務を管理する。このため国が異なると同じ企業グループでも互いにいろいろな問題が発生する。極端な例では、一つの製品コードが国によって異なるケースもあった。

1)コンピュータシステム
日本は日本、タイ工場はタイでそれぞれが独自にシステムを調達している。

どこの会社でも、IT部門は日本だけで手一杯、海外まで手が届かないのが実情である。このためバンコクには日系ソフトハウスが多く、日系工場の弱点を補足している。しかし、ローカルのソフトハウスに依存しすぎるとシステムの中身がブラックボックス化するという危険性がでてくる。

ちなみに、筆者が訪問したバンコクのアメリカ系工場では、システムはアメリカ本社で集中管理、タイ工場はシステムを利用するだけだった。これは、世界に共通な基幹業務の信頼性と継続性を確保すると同時に、各国のITコストを削減するためだった。

会計システムは、5社とも日系パッケージソフトを導入、画面は英語/タイ語併用である。

2)業務管理
受注・出荷、在庫、生産、購買、会計の業務は、国の法規と商習慣にもとづいて管理している。違反のペナルティーは大きい。品質管理は例外なく日本人管理職が管轄している。自社に限らず、外注先や原材料の品質管理も重視している。

業務管理については、次回、現状分析と幾つかの結果を支障をきたさない形で紹介する。


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コンピュータ---アプリの開発

2011-06-11 | ことばとコンピュータ
ここでは、コンピュータのアプリケーション、特に業務システムの開発について大まかに説明する。業務システム以外の「アプリ」の開発もほぼ同じ手順で開発する。

1.概要設計
業務システム、たとえば、生産管理システムを開発したいとき、先ずシステムの構想から始める。

1)構想設計
システムの目的、対象、物理的な範囲、構造、開発方法、完成時期を大まかに描く。これは、システムのラフスケッチの段階である。

2)現状分析と要件定義
次に、システム構想を実現するために、業務の現状を分析する。たとえば、工場の現状調査では、管理職からではなく業務担当者からありのままの作業内容を聞取り調査する。

調査の結果を分析して、現状とシステム構想とのギャップを明らかにする。そのギャップを解消して、さらにシステムの目的を達成するためには何が必要かを明確にする。これを要件定義と言う。この要件定義を技術、運用、経済性、3つの観点でシステムの実現性を検証する。

日本の場合、なぜか現状分析が甘く、システム稼動後に「想定外の事故」で重大なトラブルを招くことが多い。

アプリが業務の合理化システムの場合、下(業務担当部門)から上(経営陣)にシステム開発の承認を求める。メリットが開発費より大きいとき、開発は承認される。

戦略システムの場合、開発費の見積りは可能だが、メリットの推定が困難な場合がある。無理にメリットをはじいても机上の空論のケースがある。このような場合はトップダウンの形でシステムを開発する。ただし、日本の大企業では、経営陣のリーダーシップが必要なトップダウンのシステムは極めて稀である。この道40年で、日本で2件だけ経験したが、いずれも成功した。

2.システム開発と導入
システム開発は、主にシステムエンジニア、プログラマー、業務改善担当者(コンサルタント)の仕事になる。

1)基本設計
ハード、コンピュータ技術、プログラミング言語、データベースソフト、通信技術などを具体的に決定、システムの論理構造とデータベースの論理構造を設計する。このとき、再びシステムの技術、運用、経済性を正確にチェックする。

この段階でシステムの出来不出来が決まる。もし問題があれば、躊躇せず振り出しから検討する。躊躇すると運用とコストの両面に禍根を残す。分かっているが、失敗するケースは意外に多い。

2)詳細設計
基本設計(書)にもとづき、プログラムを詳細に設計する。データ入力画面や帳票を詳細に設計する。これらの設計書をプログラム仕様書と言う。

3)プログラム作成
仕様書にもとづいて、プログラムを作成する。この作業を、プログラミングまたはコーディングと言う。この作業は、社外や海外のプログラマーに委託することもできる。1990年代から、在宅フリーのプログラマー(経験のある主婦など)や海外に委託するケースが目立ち始めた。正しい日本語、または正しい英語で仕様書を書かなければプログラマーが誤解する。逆に、曖昧な仕様書はプログラマーに嫌われる。

プログラマーは、自分が作成したプログラムをテストして仕事を完了する。このテストを単体テストと言う。

プログラム作成と平行して、業務の改善と新システムの操作マニュアルを準備する。同時に、新システムに必要なデータを整備する。

業務改善は、たとえば工場の場合は、工程と運用ルールといったハードとソフト両面の改善を意味する。また、これらは自社だけでなく取引先も含む改善である。

最後に、単体テストを終えたシステムの連動させてチェックする。これを連動テストと言う。

4)導入
連動テストを終えて、新システムを実地に導入する。「一斉切替え」「新旧システムの平行切替え」またはこれらの組合せで新システムを導入する。「平行切替え」は、新旧システムを運用するので業務担当者の負担は大きい。

大きなシステムや金銭処理がからむシステムでは、危険な「一斉切換え」を避ける。会計処理がからむ場合、新旧システムの月末と年度末の決算結果を検証するため、数年にわたる移行も珍しくない。何があっても、トラブル回避が最優先事項である。

ユーザー教育とシステムの検証を終えて、新システムへの移行を完了する。

次回は、約1ヶ月後にグローバルシステムの概要とメリットを紹介する。


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コンピュータ---言語とシステム

2011-06-08 | ことばとコンピュータ
1.コンピュータ
ここでは、コンピュータシステムの基礎知識を整理する。

コンピュータはハードウェア(略してハード)とソフトウェア(ソフト)でできている。言い換えれば、

 コンピュータ=ハード+ソフト

といえる。

上の式で、ハードは、コンピュータそのものである。ノート型パソコンでは、パソコン本体、あるいは液晶画面やキーボード、また、パソコン内部の電子部品がハードである。ハードは手に取ったり、触って認識できる物である。

他方のソフトは、ワープロソフトやインターネットソフト、また液晶画面を制御するプログラムなどである。ソフトは手に取ったり、触って認識できないものである。

次にソフトについて、少し詳しく説明する。

2.ソフトウェア
コンピュータのソフトは、次のようなものに分けることができる。
 
 ソフト=オペレーティングシステム+プログラミング言語+アプリケーションシステム

上の式で、オペレーティングシステムとプログラミング言語を総称して、コンピュータ言語という。量的に見て、プログラミング言語は代表的なコンピュータ言語といえる。アプリケーションシステムは、ワープロや表計算ソフトやゲームである。

1)オペレーティングシステム(OS)
オペレーティングシステムはOSと略称する。OSはコンピュータのハードを制御システムである。大型汎用コンピュータやサーバー(比較的小型の汎用機)やパソコンにもそれぞれのOSがある。Windowsは、マイクロソフト社のパソコン用のOSである。

OSは、プログラミング言語の命令をハードに伝えたり、ハードを制御するソフトである。OSの説明は専門的になるので、ここでは省略するが、詳細はWikipedia(ウイキペディア---フリー百科事典)などを参照されたい。

2)プログラミング言語
プログラミング言語は数式や人間の言語に近い言語で、人間の考えをOSを介してコンピュータに伝えるソフトである。

1958年頃に開発されたプログラミング言語、FORTRANは今日も利用されている。1960年代には、10種類程度だった言語も、今日ではJava(ジャバ)、C言語、C++、Basic(ベーシック)など、200種類以上に増大した。もちろん、プログラミング言語も人間の言語と同様に、ハードの進展と共に世代交代があり、すでに使われなくなった言語や新しい言語に吸収されたものもある。

1980年頃からFORTRANやCOBOLで漢字などの日本語処理が可能になった。1990年代には、国、地域、言語、習慣の違いを反映する世界共通語としてのプログラミング言語の国際規格が充実した。日本の漢字や¥記号などのコード体系の標準化もプログラミング言語の国際規格と同時に進展した。

3)アプリケーションシステム(応用システム/業務システム)
アプリケーションは応用という意味の英語である。アプリケーションシステムは、単にアプリケーションまたは「アプリ」と略称する。

アプリはコンピュータ言語で書かれたソフトで、その種類は数え切れない。表計算ソフト、ワープロソフト、お絵書きソフト、ゲーム、あるいは企業の給与計算、会計処理、販売や生産管理システム、銀行のATMや金融システム、交通機関や電気ガスなどの公共システムなどはアプリである。アプリは、個人使用、企業内使用、企業間や国際的な使用など、その範囲は広い。

特に、給与、会計、販売・生産管理システムなどのアプリを業務システムと呼ぶ。業務システムは、自社で開発するケースが多いが、会計システムなどは、市販ソフトを購入するケースもある。ワープロ、表計算、ゲームなどは市販ソフトを購入するのが一般的である。

3.データ
コンピュータには、ハードとソフトが必要とよく言われる。しかし、ハードとソフトだけでなく、データがあってはじめてコンピュータは役に立つ。

給与システムでは、社員名、社員番号、所属、現在の給与などのデータがあってはじめて給与の計算や振込みができる。また、メールソフトにメールアドレス(データ)や文章(データ)を入力すれば、e-mailを送信できる。

コンピュータの中身で一番大切なものはデータであり、さらに、コンピュータやパソコンに蓄積したデータの機密保護とバックアップも必要になる。

次回は、システムの開発、特にアプリの開発手順と管理を説明する。さらに、アプリの開発手順を踏まえてグローバルシステムの開発に進む。

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ことば(5)---世界共通語:自然科学、音楽、交通ルール、IT(情報技術)

2011-06-04 | ことばとコンピュータ
7.世界共通語
今日の世界標準規格(ISO)では、459の言語コードを定義している。これら459の言語は、アイヌ語、中古日本語(古文)と日本語の3つを含んでいる。この459の言語に方言などを含めると、世界の言語の数は、千数百あるいは五千以上などと諸説紛々、今では世界の言語の数は正確に数え切れないというのが定説である。

言語の数は数え切れないほど多いが、さらにわれわれの身近には、人間の言語に近い表記法やルールがある。さらに、コンピュータに命令を伝える200種類以上のプログラミング言語(=コンピュータ言語)もある。それらを、ここでは世界共通語と呼んで、大きく分けてそれぞれの内容を要約する。

1)自然科学
今日の自然科学の知識は、世界共通になっている。数学、化学、物理学、生物学、医学、地理学、天文学などは、古代ギリシャから体系的に発展してきた学問である。数式、化学式と構造式、星座、暦などは世界共通である。先に述べたが、自然科学の専門語、たとえば医学、天文や植物の学名はラテン語名が付けられる。ラテン語を基本語とすれば、学名は世界共通語として通用する。つまり、学名の一元管理が可能になる。

また、代数学の数式は、読み方は日本語と英語では多少異なるが、論理の展開、言い換えれば数式は日本語でも英語でも同じである。代数学においては、数式が主役で言語は脇役になる。具体例では、y = ax + bは、日本語ではyイコールaxプラスbと読み、英語ではy equals ax plus bと読む。読み方は多少異なるが、数式は唯一つである。

経験論であるが、アメリカの日本人留学生は理数系の試験では、ことばのハンディキャップの影響が少なく、好成績を取りやすいといわれている。

2)音楽
音楽を記録する楽譜、特にヨーロッパ起源の五線記譜法は、国際的に広く使われている。作曲家と演奏家や歌手とのコミュニケーションは、五線紙に並ぶ音符で成立する。五線記譜法も一つの世界共通語といえる。多くの日本の音楽家が、世界のトップレベルの舞台で大きく活躍している。それは音楽という世界共通語が創り出す芸術である。

五線紙で表現できない音楽や芸術品は、別世界に生きることになる。

3)共通ルール
数式や五線紙の楽譜の他にも、世界共通のルールがある。たとえば、海上衝突予防法は船や水上機の交通ルールである。海の交通ルールは、国際規約が決める航法であり、この世界共通のルールを守らなければ、海上交通は混乱する。

船や飛行機の航法だけでなく、やや専門的になるが共同海損など、商法や保険の国際法もある。また、ヨーロッパの通貨をユーロに統合したのは、経済活動の共通化の例である。後に出てくるグローバルシステムは、この通貨統合がシステム開発のきっかけだった。

さらに、人の基本動作、たとえばナイフとフォークの使い方、食事マナーも広義の共通ルールといえる。商船大学でも、卒業生が世界に出たとき恥をかかない様にとプリンスホテルで半日の食事マナーの講習があった。世界のどこでも通用するあのホテルでの教育には、今も感謝している。近年、日本料理が世界に広がっている。西洋の食事マナーに通じる「箸の禁じ手(約30の禁止事項)」も、やがて国際ルールになるかも知れない。

国籍や人種に関わりなく、人々が知り守るべき世界の共通ルールは増えている。言い換えれば、目に見えないところで地球は一つになりつつある。

4)IT(情報技術)
1966年夏、日本の船乗り(筆者)がヒューストン大学の工学部大学院に留学した。当時の日本はで、3C(クーラー、カラーTV、車Car)が憧れの時代だった。大企業でも、タイプライターのように大きなイタリア製の手回し計算機、ソロバン、計算尺の時代だった。当時の日本は、車どころか手回し計算機さえも外国製に頼っていた。

その船乗りが受けた最大のカルチャーショックは、英語でなくコンピュータ言語だった。大学の地下にあるコンピュータセンターでは、5台の大型汎用コンピュータが24時間サービス、IDを与えられた学生はいつでも自由に利用できる環境だった。

当時のヒューストンでは、3Cはもちろん、建物全体の空調は当り前、コンピュータネットワークの利用、NASAの宇宙飛行やメディカルセンターでの臓器移植が脚光を浴びる時代だった。

当時の4年制の理工系学部では、コンピュータプログラミングは必須単位、文系では選択単位だった。当然、理工系の大学院生はプログラミング言語を修了済みとの前提だった。幸い、FORTRAN IVというコンピュータ言語は、数学の表記に類似した言語だったので直ぐに習得した。

時代は変わって、現代の社会はコンピュータ抜きでは成り立たない社会になった。

次回から話題をITに移し、コンピュータ言語とシステムを一般人の目線で眺めていく。そこでは、コンピュータシステムの簡単な説明、グローバルシステムの中身と利点、今後の日本の言語教育、日本のシステムに潜在する危険性へと話題を進めていく。

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ことば(4)---ラテン語とタイ語

2011-05-28 | ことばとコンピュータ
5.ラテン語
ラテン語の辞書を一冊持っているだけで、ラテン語そのものの知識は何もない。しかし、ラテン語には次のような思いがある。

ニューヨークの北東にハートフォードという町がある。ある時、その町の美しい住宅街の教会で、友人の紹介で慈善団体の午後のミーティングに参加した。

歓談が進むにつれ、気品のある気さくな婦人から、「ところで、あなたはラテン語を解するか?」と問われ、残念ながら「ノー」と答えた。そこで話はラテン語とヨーロッパ文化に及んだ。

ご婦人の解説によれば、ラテン語はローマ帝国の公用語で、多くのギリシャ語を語源とする「書き言葉」である。その書き言葉は、古典ラテン語と呼ばれ学問や思想の用語として今も生きている。たとえば、医学用語は、ローマ時代ではラテン語一言語主義であったが、現在ではラテン語・英語・現地語を併記する三言語主義が主流になっている。このような背景で、ラテン語は欧米の知識層の素養の一つになっているとのことだった。その婦人の気品と教養に接して、淑女とはこのような人のことだと思った。

一方、ラテン語の「話し言葉」は、ロマンス諸語としてフランス語、スペイン語、イタリア語、ルーマニア語などに分岐した。たとえば、フランス語はラテン語の一つの方言といえる。また、ドイツ語、オランダ語、英語などのゲルマン系の言語にも、ラテン語が語源になっている言葉が多い。英語のAbacus(ソロバン)やAppendix(付録、盲腸)などはラテン語に等しい。

それから数年後、サンフランシスコ郊外の小さな本屋で、ラテン語辞典の半額セールを見つけた。書店のおばさんに、「あなたは何をする人ですか」と問われ、「システム技術者」と答えたら、「アメリカ人でもなかなか買わないのに、日本人が買うのは驚き」と云われた。こちらは、半額が嬉しかった。

いつの日か、この辞書を頼りにアレクサンドリアの図書館や考古博物館を訪ねてみたい。それが夢であり、その実現を夢見ている。

6.タイ語
タイの日系工場に出入りし始めて早や十数年がたった。仕事やホテルでは、英語が通じるのでタイ語を覚えない、また覚えなくても生活に支障はない。

耳から入るだけのタイ語は、何年たっても上達しない。ひげ文字に似た文字、おまけに、母音が7つもあると云う。そこで、タイ語の勉強を諦めた。しかし、難しいから逃げ出す自分とタイの人々と同化できない自分に後ろめたさを感じる。

しかし、日本人の工場長の中には、工場の管理にはタイ語が必須と「読み」「書き」「会話」を正式に習う人もいる。その熱意には敬服する。もちろん、タイ語を正式に習った人は上達も早い。

生活に支障がない程度のタイ語とは、「直進(トロン・パイ)」「右折(リァウ・クワ)」「左折(リァウ・サーイ)」「近い(カイカイ)」と「通りの名前」を頭に入れておけば問題ない。これだけで、タクシーでどこへでも行ける。地図の「通りの名前」だけは、地元の人の発音を覚えておく。観光案内の地図にある英語の「通りの名前」は使わない。

たとえば、「ボスタワー・パラムシー・カイカイ・カルフール(ラマ4通りのカルフール近くのボスタワー)」で、間違いなく目的地に到着できる。行き先をはっきりと告げ、余計なことは言わない。目的地が近づけば、リァウ・サーイなどと指示する。

なお、タクシーが危険な地域では、バスに乗る。どこの国でも公共バスが最も安全な乗り物である。(ただし、時間は不正確) 言葉が通じなくても、乗客は善良であれこれと助けてくれる。その助けに感謝・感激することも多い。また、その感謝・感激はその國の印象として、いつまでもこころに残る。当然だが、バスが危険な地域では、独りで出歩いてはいけない。

最後の世界共通語(数式、楽譜、コンピュータ言語など)は、次の「ことば(5)」に続く。


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ことば(3)---フランス語とスペイン語

2011-05-26 | ことばとコンピュータ
3.フランス語
商船大学では、航海科はフランス語、機関科はドイツ語が必須だった。フランス語は外交官が使う社交語、したがって、フランス語と聞くと豪華客船のサロンに並ぶフルコースの食卓を連想する。他方、ドイツ語と聞くと、U-ボートの狭い艦内を連想する。

フランス文学とフランス語会話は、英語と同様にそれぞれ1年生から3年間も必須単位だった。フランス文学の内容はすべて忘れたが、フランス語会話は今も覚えている。ベロー先生はパリー・ミッションの神父さんだった。

商船大学で一番悩ましかったのはフランス語会話の試験だった。一年生の試験は、毎週月曜日の一時間目、そのため日曜日の夜は枕を高くして眠れなかった。先生の「ミナサンノコフク(幸福)ノタメニ、シケンヲシマス」は今も耳に残っている。

暗記試験で覚えたフランス語のテキストは、今も正確に口から流れ出す。一旦流れ出すと最後まで止まらない。なぜ今も忘れないのかが不思議でならない。たぶん、脳細胞の一部が癒着して、そこを刺激するとその記憶全体が活動し始めるようだ。ただし、フランス語、特にシャンソンを聞けばある程度理解できるが、会話は全くできない。しかし、ベロー先生と彼のフランス語は80歳を超えた筆者の頭の中に今も生きている。歳月と共に風化する思い出はもともと本物ではない。

フランス語はウィーン生活で役立ったが、それ以外にもシャンソンの歌詞や歌手、7月14日はパリ祭とか、フランスの文化と歴史に興味を持った。銀座のシャンソン喫茶「銀パリ」には上京のたびに出入りした。フランス語ほど快い響きの言語と歌は、他にはないと今でも信じている。

十数年も前、高校のクラス会(京都市)の便りに、国語の先生が80歳のプロの女性シャンソン歌手としてデビューされたとあった。あの先生は、われわれ高校生に日本文学を教える一方、筋金入りのシャンソン気違いだったと思うとおかしくもあり、感心する。いつか機会があれば先生のシャンソンを存分に拝聴したい。このような先生の近況を聞くにつけ、この日本もまだまだ多様な社会、特に余すことなく人生を謳歌される先生に勇気付けられた。

4.スペイン語
商船は、中南米、スペイン、ポルトガル、フィリッピンなどスペイン・ポルトガル語圏を航海する。

広大なスペイン語圏を考えると、スペイン語の知識も重要と考えた。そこで、われわれ学生は、スペイン語の講座を大学にお願いした。正式な単位には加算されないが、要望は認められた。通常の時間帯に講座が開設され、一学年(航海科60人)の全員が受講した。あの頃の国立大学は度量が大きかった。

貿易実務をスペイン語でこなせる専門家に1年間教わった。授業の内容はさることながら、先生は中分け(センター分け)で身だしなみに一分の隙もない端正な紳士だった。なぜか他の先生たちとは違った雰囲気、あの先生は本物の紳士だったと今も思っている。ちょうどあの頃、われわれ全寮制の学生は、数百メートル先の大学に作業服で通っていた。中にはサンダル履きの学生もいたので、時どき芦屋市の婦人会からみっともないとクレームがついた。筆者も朝の登校時に母の手編みセーターが派手だと学生課から注意された。

日本人にとってスペイン語は、日本のローマ字風に発音すれば相手に通じる。また、相手の言葉も聞き取り易い。確か、辞書には発音記号がなかったと記憶する。美辞麗句を気にしなければ、スペイン語やポルトガル語は日本人にフレンドリーな言葉である。

仕事では関係がなかったが、サントドミンゴ港の少年とその家族やアメリカの知人が所有するカラカス(ベネゼェラ)の豪華な白いアパートなど、スペイン語系の懐かしい思い出は尽きない。

停泊中の休日、静かな岸壁で近くに住む少年とカニ取り、少年の案内で家族と歓談、甘い花の香りが漂う岸壁の公園では人びとは遅くまで歓談する。エメラルド・グリーンの入り江に面した岸壁では、昼はトラックやクレーンが主役、夜は屋外が快適、音楽や屋台、それを囲む人びとが主役になる。時には、子猫ほどの野ネズミも出る。

歌も言葉とリズムで変化する。静かなシャンソンもコンチネンタル・タンゴ風に編曲すると舞踏会風のリズムに変化する。また、スペイン語の曲は情熱的、ポルトガルのファド風(fado)にアレンジすれば哀愁を帯びたリズムに変化する。他方、イタリアのカンツォーネ風ではなぜか絶叫型の情熱的な曲に変化する。世界各地にはその地独特の気候、言語、リズムがあり、文化という名の雰囲気に包まれる。

歌詞も、歌手のその時の気分で変化する。たとえば、「黒」という歌詞(単語)の発音はノワール(仏noir)、次の繰り返しではブラック(英black)、またいつの間にかnoirになっている。気付かないほどの些細な変化だが、そこにリズム感と柔軟性に富む多言語社会を感じる。筆者にとって多言語社会とは、英語、フランス語、スペイン語、イタリア語などの辞書が別々に存在するのではなく、どの単語からでもアクセスが可能な一つのデータベースである。もちろんそこでは通貨や度量衡換算も含む世界共通システムである。この点で、翻訳ソフトに応用するAIも多言語システムをベースとしなければ的を得た翻訳ができないという課題がある。

最後に、英語、フランス語、スペイン語の紳士という言葉とそのニュアンスを紹介する。

英語:Gentleman=穏やかな人
フランス語:Homme comme il faut=世に必要な人
スペイン語:Caballero=男らしい騎士

それぞれ、その国らしい表現である。商船大学の階段教室で、国際法の先生から「いつか君たちも"Homme comme il faut"になって欲しい。」といわれたのを今も覚えている。懐かしい思い出であるが、努力はするものの満点は難しい。

次回のラテン語とタイ語は「ことば(4)」最後の世界共通語は「ことば(5)」に続く。

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ことば(2)---英語

2011-05-15 | ことばとコンピュータ

2.英語
1)大学の英語教育
商船大学は4年半制で船乗りを養成する。船乗りに語学は必須、英文学と英会話はそれぞれ4年間、英会話は試験好きなスイス人の先生だった。気象学の教科書は、なぜか英語だった。

航海士としてほのるる丸(商船)に乗組むと、航海日誌(Logbook)や操船号令は英語だった。

ちなみに、航海日誌は公文書で、国内外の事故などでは重要な証拠物件になる。したがって、航海日誌の訂正や書直しは禁止されている。

船内は英語の世界、食事もナイフとフォークだった。テーブルクロスは純白の厚い木綿地、これには理由がある。食事中に船が揺れ始めると、サロンに待機中のスチュワードはすかさず水差しでテーブルクロスに水を注ぐ。湿った厚手のテーブルクロスの上の食器は滑ることなく、平然と食事ができる。これは大航海時代からの習慣と聞いた。安定性の悪い茶碗やお椀ではこうはいくまい。

大学で耳にした唯一の日本語の専門語、「前進微微速」(ゼンシンビビソク=Dead Slow Ahead)は旧日本海軍の用語である。ただし、これは死語、明治から戦時中も日本の商船の航海日誌は英語だったと思う。

2)アメリカの国語教育(英語)
これは、1960年中ごろの話である。アメリカの大学に入学した外国人は、4年制や大学院生に関わりなく、English for International Student(国際学生への英語)が必須になる。実習では毎回作文のテーマを選び、書きたい内容をコンピュータプログラムのようにフローチャートに展開する。その論理の流れ(フローチャート)に先生の添削を受け、OKならば文章にする。日本の国語では習わなかった句読法(項分け、括弧や;や:などの用法)も詳しく教わった。

文章は、32語(Word)以下の短文、かつ、Straightforward(単刀直入な)文章を書くことを指導された。当然、Ambiguous(両義に取れる)文章も「ダメ」だった。

3)専門科目のTerm Paper
工学部の大学院で学んだが、殆どの専門科目では、Term Paper(20ページ程度の小論文)を学期末に提出しなければならなかった。

小論文の評価は、文章の構造(Mechanics)と内容(Content)を合せて100点、90点以上はA、89-80点はB、79点以下はCになる。

文章の構造では、文法、スペリング、文章の形式とスタイル、各10点で合計40点。たとえば、ある科目でやや大風呂敷を広げた内容の論文、「ネットワークの制御論」を提出した。その論文の文章スタイルの評価は、A little high flown for the purpose, but good. 9点(-1点)(やや飛躍しているが、良かろう)と先生のコメントが返ってきた。

内容の評価は、選択したテーマの妥当性とテーマへの理解度、分析の独創性、完成度と深さに分かれ、合計60点だった。

Term Paperでも、Short SentenceとStraightforwardな作文を頭に叩き込まれた。工学部では、独創的な論理の展開力と文章力の養成に力を入れていた。

4)宿題(Home Work)
科目にもよるが、毎週の宿題と3~5冊の専門書の読書を求められる。

言葉の不自由な日本人は、図書館に入り浸りになる。実際には、英和辞典を引く手間は省き、次々とページを読み進まなければ時間が足りない。どうしても分からない単語は、図書館のあちこちに備えてある英英辞典を後で引く、この方が効率的だった。結果として、英語の意味は分かるが、日本語は分からない単語が増えていった。

この点では、船乗りの専門語も同じだった。英語の航海用語は分かるが、その日本語は知らない。また、実務では日本語を使わないので知る必要もない。

将来、日本ビジネスも同様に、英語のビジネス用語しか知らない若者が増えると思う。その時、日本の横書き文章は、カタカナ英語交じりから英文交じりの横書きになる。

次回のフランス語とスペイン語は「ことば(3)」に続く。


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ことば(1)---日本語

2011-05-12 | ことばとコンピュータ
このブログの冒頭で紹介したほのるる丸で神戸を出港して以来、さまざまな国や地域に出入りした。船員手帳と航空会社のマイレージから推定すると、貨物船で地球を約10周、旅客機で15周以上の航程になる。その殆どは、北半球内での移動である。

当然、その間にいろいろな言葉に接してきた。今回は、地球の思い出から話題を変えて、今までに出会った外国語に話を進める。

ここでは、母国語の日本語を含めて、英語、フランス語、スペイン語、ラテン語、タイ語および世界共通語(数式、楽譜、コンピュータ言語など)について、その言語との関わりや印象を思いつくままに書き記す。

1.日本語
生れてから70年以上も使っている母国語である。幸い、長年の国語教育のお陰で日本語には不自由は感じない。しかし、日本語の将来について、気掛かりな点があるのでここに書き記す。

1)横書きと縦書き
ビジネス文書は横書き、文学作品やお役所の法令などは縦書き、新聞・雑誌は縦書き・横書き混淆である。世界共通のe-mailには、縦書きはありえない。このような現状のもと、将来の日本語の書式はどの様に進化するのだろうかと気掛かりである。

「枕の草子」や「源氏物語」に見る縦書き毛筆は、世界に誇れる文学作品であると同時に、繊細な芸術品である。縦書きは古くから日本文化の基本的な書式であるが、数式や横文字交じり(カタカナの横文字ではない)の文章では使いづらい。

将来、すべてが横書きになるときは日本人が「日本のこころと精神」を忘れ去るのではないかと気掛かりである。

2)日本人の文章力
国語の専門家ではないので、他人の文章を評価することはしない。しかし、多くの文章に接していると、われわれ日本人が書く文章の傾向が見えてくる。システムの開発チームが作成する仕様書など、さまざまな書類から気掛かりな点を独断と偏見で帰納的に要約すると、次のことが言える。
◇用語の標準化に慣れていない・・・組織的な文章化作業に弱い
◇長文が多い・・・句読法(項分け、括弧、:、;、.など)など、横書きの文法に弱い
◇言語明瞭・意味不明が多い・・・論理構造が曖昧、政治には好都合だがビジネスでは不可

この様な傾向から、頭の中で考えたことを効率よく表現する技術、言い換えれば文章力の強化が必要と考えている。特に、将来は自動翻訳に耐える文章力も必要である。この点で、日本の国語教育と大学教育には、改善すべき点が多い。

日本では終身雇用制が長く、職場には必ず生き字引のような社員がいた。あの時代では、分からないことはベテランに聞けば良い、文章化より「あうんの呼吸」で日常業務が回る時代だった。終身雇用制では、社員の文章力や業務の文書化はあまり重視されなかった。しかし、時代は大きく変わった。

なお、参考だが、30年以上も昔から国連職員の業績評価には、使用言語(国連公用語)での文章力と口頭表現力が含まれていた。当時の日本企業にはこの評価項目はなかった。

次回のテーマ、英語は「ことば(2)」フランス語とスペイン語は「ことば(3)」ラテン語とタイ語は「ことば(4)」世界共通語は「ことば(5)」に続く。

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