5.展望(19)から続く。
(5)日本食の輸出入品
ここで、前々回(2015-05-25)に示した農林水産省資料(H26/9)にあった2012年における日本の食品輸出実績、4500億円の具体的な中身を知りたく思う。
実際に調べてみると、農林水産物輸出入統計は、平成15年(2003)~26年(2014)の実績を公開している。そこで、2012年よりさらに新しい2014年の統計で、日本の食品と農林水産物の輸出入の実態を大ざっぱに見ることにした。
1)2014年の経済指標
まず、2014年頃の基本的なデータを示すと次のようになる。
【参照:世界経済のネタ帳(為替、GDP)と農林水産省(自給率)】
為替レート:
2013年1月= ¥89.1/US$、12月=¥103.4/US$
2014年1月=¥103.9/US$、12月=¥119.3/US$
2014年のGDP:
名目GDP=487.9兆円、実質GDP=527.0兆円
2013年(H25年)の食料自給率:
カロリー・ベース=39%、生産額ベース=65%
2)2014年の輸出入総額と農林水産物の金額
下の表は、2014年の輸出入総額と農林水産物の金額のサマリーである。この頃の為替レートは大きく変動し、円・USドルでは13年1月と14年12月を比較すると30円程の円安になっている。
14年の輸出総額は約73兆円、このうち農林水産物は約6,000億円、総輸出額の0.8%である。これに対して、輸入総額は約86兆円、うち農林水産物は約9兆2,000億円、総輸入額の10.7%、輸出に対して輸入が圧倒的に多いことが分かる。
輸出入の差額では、総額ベースでは約12兆8,000億円の入超(輸入超過)であるが、そのうち約8兆6,000億円が農林水産物の入超である。この入超には、急激な円安も響いているが長期的な農林政策の影響が大きい。
ここで、単純に農林水産物の輸出額と輸入額を比較すると次のようになる。
農産物の輸入/輸出=63,223/3,569=17.7倍
林産物の輸入/輸出=12,615/211=59.8倍・・・(注)
水産物の輸入/輸出=16,569/2,337=7.1倍
(注):
日本は森林率=68.57%の世界有数の森林国である。しかし、日本の林産物の輸入が非常に多いのは、一般の日本人には不思議な現象にみえる。・・・この疑問への回答は、黒岩直樹著「木を伐り払って国土再生を」(評論新人賞、佳作受賞、月刊ウイル、ワック出版、2015/8)にあった。・・・“昭和39年(1964)には米の高関税を維持するために木材が犠牲となって外材の輸入が完全自由化され、建材は安価な外材が圧倒します。林家(リンカ)は先行きの不透明感からか、下草刈りや間伐などの管理が不十分となってゆきます。”・・・「木を伐り払って国土再生を」の一文
今から100年先には日本の人口が半減するという(2105年の推計=4.610万人)。しかし、人口が半減するか否かは国あっての話である。まず、国土が荒廃しては元も子もない。まさに“森林問題は国家百年の計です。”と黒岩氏が指摘されるとおり、自国の将来は自国で決める以外に道はないが、その道のりは遠い。
地球の歴史を振り返れば、国土の守りや食を他国任せで繁栄した国のためしがない。このことを念頭に日本の現状をよく認識したい。
3)農林水産物の輸出入の品目と相手国
ここでは、最新のデータで農林水産物の輸出状況を理解する。同時に、輸出と同じ形式で輸入データも表示するので、ものの出入りの全体像を大まかに把握していただきたい。
下に示す表2は、農産物・林産物・水産物の輸出先上位10ヶ国を示している。香港の1,343億円を筆頭に、米国、台湾が続きカナダまでの10の国・地域で輸出総額、6.117億円の84%をカバーしている。
さらに、表2から分かるように、香港、米国、台湾への輸出額が総額の50%を占めており、日本の農林水産物の輸出先は意外に狭い。この表では省略したが、実際の数量は金額と同様、大した量ではない。したがって、日本でいわれる“世界は日本食ブーム”は、“日本食を食べられる場所”に行った日本人が感じる誤解かも知れない。
参考であるが表3は輸入の状況を示している。農林水産物の総輸入額、9兆2,407億円の半数は米国、中国、カナダ、タイ、豪州の5ヶ国からの輸入品である。
次の表4と表5は、農林水産物を農・林・水に分けて、それぞれの輸出入相手国を示している。表4の輸出では、農産物・林産物・水産物の6~7割を上位5つの国・地域が占めている。
表5の輸入でも農産物・林産物の過半数、水産物の約49%を上位5つの国・地域が占めている。
農林水産物の輸出品の中身は、表6と7に示すとおりである。表6は国別の品目、表7は輸出額の上位20品目を示している。
ホタテ貝は米国、中国、韓国、ベトナムの人気商品である。表6と7から、ホタテ貝の輸出総額、約446億円のうち、米中韓ベトの3ヶ国向け、約364億円は総額の約8割を占めている。
表7には表れないが、味の素、醤油、インスタント・ラーメン、日本茶(ペットボトル)などの現地生産品は各国のスーパー・マーケットに出回っている。特に、インスタント・ラーメンでは、元祖日本をよそに各国の製品が混戦状態、品質と価格ともに優劣を付け難い。
ここで、表7の真珠と同様に、いつの日にか完全養殖マグロやウナギが表7の上位に浮かび上がることを願っている。
表8と9は輸入品の中身である。米国からは、とうもろこし、豚肉、大豆、牛肉、小麦のような食材が多い。輸入とうもろこしは飼料として国産の牛、豚、鶏肉を育てるので、国産肉といっても育った場所が日本に過ぎない。また、輸入大豆や小麦に依存するミソ、ショーユ、トウフ、ナットウ、パン、ウドン、ソバ、ラーメンなども、素材はアメリカ、カナダ、ブラジル製である。
このように輸入農産物の流れを辿ると、日本の主な食材も外国頼りになっている。この現象は、日本製の素材や部品を使用する世界の工業製品に類似している。世には「グローバル化」への賛否両論があるが、ものの流れ=もの造りのプロセスそのものが一元化(Unified)しているのが世界の現状である。
表9の16番の冷凍野菜もかなりの規模(1,671億円)で輸入されているのは意外だった。主な輸入相手国は中国である。
ここで、国産・輸入品を問わず日本の食料自給率:カロリー・ベース=39%、生産額ベース=65% (2013)も気になる。せっかく輸入した食材や貴重な国産品が、消費されることなくゴミ箱に直行するのではないかという恐れである。
高齢化で小食化が進めば消費カロリーの減少が期待できる。しかし、食品の多様化と高級化で、生鮮食品、パン、弁当、総菜、加工食品や残飯、華やかなデパ地下の廃棄物の価値とその処理行程とコストは見当がつかない。機会があれば、日本の食品リサイクルとフード・バンク(Food Bank)の実態を調査したい。
続く。
(5)日本食の輸出入品
ここで、前々回(2015-05-25)に示した農林水産省資料(H26/9)にあった2012年における日本の食品輸出実績、4500億円の具体的な中身を知りたく思う。
実際に調べてみると、農林水産物輸出入統計は、平成15年(2003)~26年(2014)の実績を公開している。そこで、2012年よりさらに新しい2014年の統計で、日本の食品と農林水産物の輸出入の実態を大ざっぱに見ることにした。
1)2014年の経済指標
まず、2014年頃の基本的なデータを示すと次のようになる。
【参照:世界経済のネタ帳(為替、GDP)と農林水産省(自給率)】
為替レート:
2013年1月= ¥89.1/US$、12月=¥103.4/US$
2014年1月=¥103.9/US$、12月=¥119.3/US$
2014年のGDP:
名目GDP=487.9兆円、実質GDP=527.0兆円
2013年(H25年)の食料自給率:
カロリー・ベース=39%、生産額ベース=65%
2)2014年の輸出入総額と農林水産物の金額
下の表は、2014年の輸出入総額と農林水産物の金額のサマリーである。この頃の為替レートは大きく変動し、円・USドルでは13年1月と14年12月を比較すると30円程の円安になっている。
14年の輸出総額は約73兆円、このうち農林水産物は約6,000億円、総輸出額の0.8%である。これに対して、輸入総額は約86兆円、うち農林水産物は約9兆2,000億円、総輸入額の10.7%、輸出に対して輸入が圧倒的に多いことが分かる。
輸出入の差額では、総額ベースでは約12兆8,000億円の入超(輸入超過)であるが、そのうち約8兆6,000億円が農林水産物の入超である。この入超には、急激な円安も響いているが長期的な農林政策の影響が大きい。
ここで、単純に農林水産物の輸出額と輸入額を比較すると次のようになる。
農産物の輸入/輸出=63,223/3,569=17.7倍
林産物の輸入/輸出=12,615/211=59.8倍・・・(注)
水産物の輸入/輸出=16,569/2,337=7.1倍
(注):
日本は森林率=68.57%の世界有数の森林国である。しかし、日本の林産物の輸入が非常に多いのは、一般の日本人には不思議な現象にみえる。・・・この疑問への回答は、黒岩直樹著「木を伐り払って国土再生を」(評論新人賞、佳作受賞、月刊ウイル、ワック出版、2015/8)にあった。・・・“昭和39年(1964)には米の高関税を維持するために木材が犠牲となって外材の輸入が完全自由化され、建材は安価な外材が圧倒します。林家(リンカ)は先行きの不透明感からか、下草刈りや間伐などの管理が不十分となってゆきます。”・・・「木を伐り払って国土再生を」の一文
今から100年先には日本の人口が半減するという(2105年の推計=4.610万人)。しかし、人口が半減するか否かは国あっての話である。まず、国土が荒廃しては元も子もない。まさに“森林問題は国家百年の計です。”と黒岩氏が指摘されるとおり、自国の将来は自国で決める以外に道はないが、その道のりは遠い。
地球の歴史を振り返れば、国土の守りや食を他国任せで繁栄した国のためしがない。このことを念頭に日本の現状をよく認識したい。
3)農林水産物の輸出入の品目と相手国
ここでは、最新のデータで農林水産物の輸出状況を理解する。同時に、輸出と同じ形式で輸入データも表示するので、ものの出入りの全体像を大まかに把握していただきたい。
下に示す表2は、農産物・林産物・水産物の輸出先上位10ヶ国を示している。香港の1,343億円を筆頭に、米国、台湾が続きカナダまでの10の国・地域で輸出総額、6.117億円の84%をカバーしている。
さらに、表2から分かるように、香港、米国、台湾への輸出額が総額の50%を占めており、日本の農林水産物の輸出先は意外に狭い。この表では省略したが、実際の数量は金額と同様、大した量ではない。したがって、日本でいわれる“世界は日本食ブーム”は、“日本食を食べられる場所”に行った日本人が感じる誤解かも知れない。
参考であるが表3は輸入の状況を示している。農林水産物の総輸入額、9兆2,407億円の半数は米国、中国、カナダ、タイ、豪州の5ヶ国からの輸入品である。
次の表4と表5は、農林水産物を農・林・水に分けて、それぞれの輸出入相手国を示している。表4の輸出では、農産物・林産物・水産物の6~7割を上位5つの国・地域が占めている。
表5の輸入でも農産物・林産物の過半数、水産物の約49%を上位5つの国・地域が占めている。
農林水産物の輸出品の中身は、表6と7に示すとおりである。表6は国別の品目、表7は輸出額の上位20品目を示している。
ホタテ貝は米国、中国、韓国、ベトナムの人気商品である。表6と7から、ホタテ貝の輸出総額、約446億円のうち、米中韓ベトの3ヶ国向け、約364億円は総額の約8割を占めている。
表7には表れないが、味の素、醤油、インスタント・ラーメン、日本茶(ペットボトル)などの現地生産品は各国のスーパー・マーケットに出回っている。特に、インスタント・ラーメンでは、元祖日本をよそに各国の製品が混戦状態、品質と価格ともに優劣を付け難い。
ここで、表7の真珠と同様に、いつの日にか完全養殖マグロやウナギが表7の上位に浮かび上がることを願っている。
表8と9は輸入品の中身である。米国からは、とうもろこし、豚肉、大豆、牛肉、小麦のような食材が多い。輸入とうもろこしは飼料として国産の牛、豚、鶏肉を育てるので、国産肉といっても育った場所が日本に過ぎない。また、輸入大豆や小麦に依存するミソ、ショーユ、トウフ、ナットウ、パン、ウドン、ソバ、ラーメンなども、素材はアメリカ、カナダ、ブラジル製である。
このように輸入農産物の流れを辿ると、日本の主な食材も外国頼りになっている。この現象は、日本製の素材や部品を使用する世界の工業製品に類似している。世には「グローバル化」への賛否両論があるが、ものの流れ=もの造りのプロセスそのものが一元化(Unified)しているのが世界の現状である。
表9の16番の冷凍野菜もかなりの規模(1,671億円)で輸入されているのは意外だった。主な輸入相手国は中国である。
ここで、国産・輸入品を問わず日本の食料自給率:カロリー・ベース=39%、生産額ベース=65% (2013)も気になる。せっかく輸入した食材や貴重な国産品が、消費されることなくゴミ箱に直行するのではないかという恐れである。
高齢化で小食化が進めば消費カロリーの減少が期待できる。しかし、食品の多様化と高級化で、生鮮食品、パン、弁当、総菜、加工食品や残飯、華やかなデパ地下の廃棄物の価値とその処理行程とコストは見当がつかない。機会があれば、日本の食品リサイクルとフード・バンク(Food Bank)の実態を調査したい。
続く。