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グローバル工場---機能の階層(4):在庫管理のトラブル

2012-02-10 | ことばとグローバルシステム
前回のグローバル工場---機能の階層(3)の続き。


                         工場機能の階層図
     出典:筆者著“生産管理の理論と実践” COMM Bangkok、2010

(2)レベル1:購買管理、在庫管理、受注管理
このレベルは、左から右に流れる川に例えることができる。工場外から直接材料を購入して、社内工程で加工して完成品を作る。その完成品を製品として顧客に出荷する。淀みなく、かつ絶えることなく流れる川、これがレベル1の理想である。

1)レベル1の位置づけ
レベル1の購買管理、在庫管理、受注管理の主役は品物である。その品物の品目コードと名称は、すべてレベル0で定義したものを使用する。品物の仕入先と製品の販売先もレベル0で定義したコードと名称を使用する。品物を正確に特定することがレベル1の基本条件である。

レベル1で把握したいろいろな数量をレベル2の生産計画(MRP)に伝える。具体的には、購買管理が把握している発注済みの品物とその数量、在庫管理が把握している直接材料、仕掛品、完成品の在庫数、受注管理が予定している製品とその出荷数、これらをレベル2の生産計画(MRP)に引渡す。

レベル2はレベル1から受取った数量にもとづいて生産計画を立案し、その結果は後日生産実績としてレベル1に現れる。これはレベル1とレベル2の間のフィードバックシステムであり、どちらかが欠ければこのシステムは機能しない。

実際には、レベル1の流れは、図のように単純なものではない。図の左の材料購入は、世界の津々浦々を網羅するサプライチェーンである。工場内の仕掛品は社内工程と国内外の外注工場を行き来する。また、製品の出荷先も世界に広がる。

たとえば、多国籍製造業のレベル1をイメージすると次のようになる。製品戦略に合わせて米国、日本、シンガポール、英国に工場とハブ倉庫を配置する。世界各地から受注した製品を在庫のあるハブ倉庫で引当て、すばやく顧客に届ける。工場のハブ倉庫は空港のすぐ近く、駐車場の金網の向こうには駐機場が見える。製品は隣の空港から毎日定期便で世界各国に飛び立っていく。このような光景が目に浮かぶ。

2)在庫数量の把握
在庫管理には、品目コード、在庫場所、数量の3つの要件が必要である。ある製品Aがこの倉庫に30個あるといわれても、30個を探し出すのは難しい。小さな倉庫は別として、記憶で在庫を管理することは難しい。多くの担当者やロボットにとっては、倉庫の棚番Xに10個、棚番Yに20個、合計30個といった情報が必要になる。品目コード、在庫場所、数量の3点セットで在庫を物理的に把握することを実地棚卸という。

A.実地棚卸
実地棚卸は、月末や期末の会計報告のために実施する。この実地棚卸は工場を止めて従業員総出で品物の在庫を数える。直接材料、仕掛品、完成品、この他にダンボール箱や機械設備の補修部品などの間接材料の在庫も数える。この実地棚卸は、工場を止めているので、正しい在庫数を容易に把握できる。ここで把握した在庫数を金額に換算して、財務諸表に報告する。

B.生産管理に必要な在庫管理
生産管理に必要な在庫管理は、実地棚卸で確定した品目別の数量を起点に、生産開始とともにその品目の入出庫数を加減して最新の在庫数を計算する。この計算した在庫数を理論在庫という。実地棚卸のたびに理論在庫を修正し、生産開始とともに再び最新の理論在庫を計算する。もちろん、理論在庫と実地棚卸の差異はゼロが望ましいが、実際には差異がある。この差異が大きければ理論在庫は使い物にならない。

経験から得た目安であるが、従業員500人ほどのタイの日系工場であれば、生産管理用の理論在庫は工夫をすればエクセルで問題なく管理できる。【グローバルシステム---現状分析6(2011-11-26)の事例を参照】

500人以上の規模であれば、オンラインリアルタイムの在庫管理システムが必要になる。オンラインシステムでは、少なくとも直接材料の倉庫、工程の各職場、完成品の倉庫と出荷場にワークステーション(端末)が必要になる。このシステムでは、入力ミスを防ぐために品目コードはバーコードで入力するのがベストである。

3)在庫管理のトラブル例
ふたたび経験論になるが、国や業種に関係なく多くの工場は理論在庫の管理にさまざまな問題を抱えている。その原因は単純ではないが、最も多い原因はレベル0が軟弱、次に現場担当者の運用に問題がある。また、システムの機能はオンラインシステムが望ましいが、オンラインシステムでもレベル0や運用に問題があれば、在庫管理は失敗する。

ここでは在庫管理の典型的なトラブルを紹介する。ただし、紹介する例は、あくまでも過去に筆者が直面したトラブル、現在の話ではないと断っておく。また、必要に応じてトラブルの背景などを補足する。

なお、トラブルの国名としてタイが多いが、タイばかりでなく日本、アメリカ、ヨーロッパ、シンガポール、オーストラリアなどでもトラブルは多い。

A.品目コード付与のトラブル(タイ)
現状分析の結果、日本の本社工場とタイ工場の共通材料の一部で品目コード(品番)が違っていた。担当者は変換テーブルで輸出入の書類を処理していた。

担当者からのヒアリングによると、新しい品目コードの付与方法は、前任者から口頭で引き継いだが、付与ルールの書類や日本本社からの指導はなかった。当然の結果だが、実地棚卸や期末決算報告は月単位で遅延していた。工場では、受注を見た上での生産だったが、それにもかかわらず、デッドストックは年商額に対して非常に多かった。このような状況が続いていたが、現地の会計監査からの指導はなかった。

現状改善の第一歩として、生産工程の改善と生産基礎情報の整備、従業員の教育とまともな管理職の採用から着手した。

B.品目テーブルの内容トラブル(タイでよく見る例)
ある工場で生産指示書は手書き、割り込み生産、仕掛品の放置、当然ながら在庫管理は混乱していた。品目テーブルを分析すると品物の本名(本当の品目コード)、又の名、仮名、通称、昔の名前、入力ミスの放置、メーカー側の名前などが混在していた。購買、生産計画、受注の担当者達は、自分が担当する品目の在庫を独自のデータで自分自身のエクセルで管理していた。

このような状況のもと、各担当者は自分の在庫だけは正しいと信じていた。しかし、組織的な管理が不在、在庫の精度は低く生産計画や購買に使えるデータではなかった。日本の親会社から導入した生産管理システムは、長年稼動することなく眠っていた。

本社のデータベースや設計図面を手掛かりに約半年を費やして品目テーブルを整理し、エクセルの在庫管理を組織的な仕事として定着させた。エクセルの次は本社ITの支援を得てコンピューターによる在庫管理、その次は生産管理へと段階的なシステム化を計画した。

C.NG品や仕損品や切り屑など、スクラップの在庫管理(タイ)
社内工程のNG品やスクラップ、外注工程に無償で支給した材料から生じるNG品やスクラップも在庫として管理する。細かい話だが、これも基本的な仕事、手抜きをすればやがて大きなトラブルに結びつく。

在庫管理の現状分析でスクラップの売却は経理を含む特定の社内関係者と業者の裏取引と分かった。数量と金額は僅かだったが、組織的な不正を黙認すると禍根を残す。

工場では残業と休日出勤が常態化していた。もちろん正当な手当ては付くが、月末棚卸しの手仕舞いではコーラの一本ぐらいを出して労をねぎらいたい・・・そう思う工場長の気持ちも理解できた。しかし、予算がない。一方、社長は堅物(実際には話せば分かる人)なので話せない。そこでスクラップに目を付けた。棚卸しに立ち会う経理も黙認、裏帳簿の管理を担当した。

筆者の調査ではその動機には悪意はなく、理解できる点もあった。社長と関係者が意思の疎通を欠いた点も一因だった。裏帳簿を前に社長を交えた話合いの結果、各自の非は非として認め、予算を立てて再発防止策を取り決めた。現地の会計監査人はこの問題を看過していた?よく分からない。

D.部門間の連携不足による過剰在庫とデッドストック(タイ)
3000人規模のある工場は、素材加工、材料加工、最終組立の3つの部門で編成していた。大きな工場にもかかわらず、コンピューターシステムは貧弱だった。在庫は棚札とエクセルでの管理だけだった。

さらに、この工場は日本企業数社とタイ資本の寄合い世帯、部門間の競争意識、全体をまとめる経営者不在など、かなり複雑な背景があった。

エクセルの在庫情報を部門間で共有することは物理的に不可能、おまけに部門間の連携は希薄、各部門内の生産計画(エクセル)は存在するが全社的な生産計画不在の状態だった。

詳細は省くが、仕掛品在庫がストックルーム、通路、空きスペースに所狭しと、時には山積みになっていた。塵も積もれば山となる。3000人規模の工場から生じる塵は馬鹿にならなかった。財務データからは億円単位の過剰在庫や不要品やデッドストックがあちこちにあると分かっていたが、改善の動きは見られなかった。BOI免税の関係もあって【補足参照】、デッドストックの処分も先送りになっていたようだ。

事態を憂慮したタイ人女性経理部長の要請で現状分析を実施した。

筆者は突然に現れた日本人、十数人の日本人管理職には得体の知れない余計な人物に見えたのも無理はなかった。複雑な経営事情はさておき、四面楚歌での現状分析、しかし、現場従業員の協力で分析を完了した。分析の結果、日本人管理職たちの意識改革、コンピューターアレルギーの解消とシステム化への協力が必要との結論に達した。この課題を一つひとつ改善するためには、長期戦が必要と判断した。そこで、日系ソフトハウスにレベル0の再構築とシステム化を依頼した。

なお、現状分析を始めたとき、日本人社員達は口も利いてくれなかった。しかし、だれが見ても分かり易い工場の現状と改善方針(日英語)、職場を流れる約100種類の帳票(現物コピー)には説得力があった。

やがてコンピュータ部門の日本人管理職からコンサルティングの打診があったが、断った。理由は、日本人の経営陣の顔が全く見えず、不気味にさえ思えた。コンサルティングを引受けても、糠に釘だと思った・・・世の中は金だけで動くものではない。

ここで日米の比較だが、米国のベンチャー企業2社と7、8年コンサルティングで付き合った。2社とも経営陣と同じテーブルに就いてあれこれ議論した。時にはアメリカ本社のITや生産管理担当者の採用の面接も頼まれた。経営風土はオープン、創始者の言動に多くを学んだ。

【補足説明】
タイのBOI(Board of Investment:投資委員会)は「輸出製品用の原材料の輸入税免税」を認めている。しかし、免税された原材料で作った製品をタイ国内で販売または廃棄したときは、その免税額を税務当局に支払わなければならない。

E.日本とタイの連携不足によるデッドストック(タイ)
ある工場で数億円以上と思われるダンボール詰の不用品の山が倉庫からはみ出し、スコールにさらされていた。中身は良品だが、日本側の発注ミス、そのままタイ工場に品物を送り続けた。しかし、ある日、デッドストックの山がなくなっていた。ようやく処分に踏み切ったと思ったが、見苦しいので外部倉庫を借りて保管したとのことだった。

【補足説明】
タイ国内で焼却すればその費用とBOI免税分の支払が必要になる。しかも、デッド・ストックの焼却処分は大気汚染防止の法規制で簡単ではない。国外で売却すれば、焼却費とBOI免税の支払ともに回避できる。対症療法だが、周辺国で叩き売るプロジェクトの編成を提案した。これは誰でも思い付く案だが、誰かに言われてはじめて実行するのでなく、その前に会計監査と相談の上で行動して欲しかった。

その後、在庫管理を含む生産管理システムの導入プロジェクトが発足した。

なお、この工場の現状分析では、人件費が安いので日本ではやりたくない作業をタイに押し付けていることも見聞した。日本は不良債権やデッドストック(一種の不良債権)だけでなく“やりたくない作業”の“飛ばし”にも手を染めていた。

以上、典型的なトラブルを説明した。事例紹介はこの辺りで打ち切る。

日本はあらゆる面で空洞化が進行している。しかし、日本を脱出すればみなうまくいくとは限らない。海外に出て水を得た魚のように成功する会社がある反面、そうでない工場もけっこう多い。

海外でうまくいく工場は日本本社もうまくいっている。人材も厚く管理もしっかりしている。また、経営陣の顔がよく見える。しかし、目的は分からないが、中には海外に“できの悪い”人材を送り出す会社がある。そのような会社の海外工場は間違いなく傾き、その立て直しに時間が掛かる。

一般論では指摘できないが、海外工場に明白な問題点がある、経営者はなぜ気付かないのか、気付いていても確信犯のように黙殺するのか、とあれこれ気を揉むことが多い。時には日本人として残念に思うこともある。

学生の頃、先生から“君達は前途有望、ということは、現在はまだまだ駄目だということだ。頑張れ!”と背中をポーンと叩かれた。海外の日本の製造業には未完成な点や改善の余地が多い、逆説的に見ると日本の製造業はまだまだ前途有望、夢と希望がある。

その夢を叶えるには先ず、日本で襟を正して、改善すべきは日本で改善し、その上で進出すれば効率的である。海外でのトラブルは、多くの場合は日本に起因している。

“意思決定者不在の成行き経営”“郷に入れば郷に従え⇒良きに計らえ”“タイ人があきれる無能管理者”が海外に増加すれば、進出先の経済発展とともにその会社の採算性は悪化する。その時、会社は物理的には海外に存在するが、経済的には空洞化したといえる。海外のそのような実態を看過すると、日本は国内外での二重の空洞化に陥る恐れがある。これは想定できる危険性、決して忘れてはいけない。

以上、蛇足ながら一言付け加えた。

次回は、レベル2のMRP、工程管理の説明に続く。

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グローバル工場---機能の階層(3)

2012-01-24 | ことばとグローバルシステム
前回のグローバル工場---機能の階層(2)の続き。

                         工場機能の階層図
     出典:筆者著“生産管理の理論と実践” COMM Bangkok、2010

2)取引先情報
はじめに「情報」の意味を説明する。ここで説明する取引先情報の情報は、コンピューター上の「テーブル」や「マスターファイル」を意味する。たとえば、エクセル(Excel)のテーブル、サーバーや汎用コンピューターのマスターファイルとデータベースなども情報と呼び話を進める。

取引先の情報をグローバルに通用させる場合は、英語を標準語、日本語、西欧諸語、タイ語などを現地語とする。すでに前回の2)多言語データベースで日本語化の方法を説明したが、同じ方法で次のデータ項目を英語と日本語で登録する。
 取引先名称、敬称、住所、担当者名、敬称、役職、部門、取引銀行名、支店名、口座種別、名義
 注1:敬称と口座種別は多言語コード表で対応すれば、日本語の入力は不要
 注2:英語と日本語の名称はそれぞれ名称1、2、3に分けて入力:多言語データベース参照
 注3:英語と日本語の住所はそれぞれ住所1、2、3に分けて入力

日本語化する取引先のデータ項目は以上のとおりである。同様にタイの取引先をこのデータベースに登録する場合は、名称~名義までのデータ項目は英語とタイ語(現地語)で入力する。

次に、取引先を顧客と仕入先に分けて説明する。もし顧客であると同時に仕入先の場合は、必要な情報を顧客情報と仕入先情報に登録する(顧客コードと仕入先コードは同じ)。さらに、顧客の配送先(配送センターやエンドユーザーなど)も顧客情報に登録する。

A.顧客情報
顧客テーブルは、レベル1の右の受注管理と完成品売上に必要なテーブルである。

製品にもよるが、エンドユーザーに販売した製品のアフターケアが必要な場合がある。たとえば、大規模な機械設備、輸送用機器、ソフトウェアはアフターケアが必要になる。製品のアフターケアとして、エンドユーザー(個人または法人)をサポートするために、専用のデータベースとアプリケーションを開発する。たとえば、ソフトウェア製品の顧客サポートシステムを要約すると次のようになる。

先ず、エンドユーザーに出荷した製品とその製造番号を出荷システムから受取る。販売店に出荷した場合は、販売店がエンドユーザーに出荷した時点で、その情報を顧客サポートシステムに引渡す。

全世界のエンドユーザー(数十万件)が購入した製品と製造番号を一つのデータベースで管理する。その管理内容は、販売したソフトのバージョンアップ(Upgrade)情報をエンドユーザーに通知する。エンドユーザーが希望するとき、その改訂版を出荷システムから発送する。また、電話やE-mailでの問合せにも対応する。当然であるが、このデータベースは個人情報を記録しているのでデータの機密保護には十分な対策が必要になる。

以上、顧客サポートシステムの概要を説明した。他にもマーケット分析システムなど、さまざまなシステムが顧客情報から派生する。

B.仕入先情報
仕入先は、直接材料と間接材料に分けて管理する。直接材料の仕入先には加工外注先を含めて管理する。他方、間接材料の仕入先には工場内の工事や清掃を依頼する会社も含めるので、仕入先の数は多くなる。ここでは直接材料の仕入先に限って説明する。

直接材料の仕入先情報は、レベル1の購買管理に必要な情報である。この情報は、直接材料を広く国内外の業者に発注、納入品の受入検査、代金の支払に使用するデータである。言い換えれば、仕入先情報は、グローバルなサプライチェーンの基礎データである。この意味で、仕入先情報はグローバルデータベースに登録すべきデータである。

仕入先の納期と品質に関する実績データおよび金型や治工具の支給履歴は、それぞれ別々のデータベースで管理する。これらのデータベースは、各工場が管理すべき情報である。

3)品目情報
品目情報は、直接材料、仕掛品、完成品(製品)、補修部品(サービスパーツ)および参照品(治具や金型など)を一元的に管理するテーブルである。量産品と受注生産品の品目が混在しても問題はない。一般論であるが、品目情報で多言語化が必要なデータ項目は品目名称だけ、他のデータ項目は英数字記号で表現できる。もし、品目名称を英数字記号だけにすると、品目情報の多言語化は必要ない。ただし、画面は多言語に対応する。

品目情報の主な内容は、共通情報(品目コード、名称、計量単位など)、技術情報(図面や改訂情報など)、生産管理情報(生産リードタイムやロットサイズなど)、在庫管理情報(在庫管理の要不要など)、購買情報(手配リードタイムや発注単位など)および原価情報(標準原価と実際原価)である。

直接材料の購入単価は仕入先別材料テーブルに登録、完成品(製品)の販売価格は顧客別製品テーブルに記録する。当然であるが、購入単価や販売価格には現地通貨で表示する。

工場や製品開発部門を戦略的に世界各地に分散する場合、品目テーブルは本社で一元的に管理すべきである。この本社での一元管理には、次のような取決めが必要である。

 ◇ローカル品目を設定、たとえば品目コード頭1桁=9を設定、この品目の管理は各国の工場に任せ
  て、本社は関与しない。
  例:現地工場だけで使用する材料と製品、現地営業所などの限定販促品(キャンペーン品)など
 ◇品目データのメンテナンスは、数日以内で完了し、世界各地の事業所にリリースする。
  例:本社に申請した特別価格は2営業日以内に承認(オンラインデータベースの場合)
  注意:最新情報のリリースに要する時間は、システムのオンライン化以前に本社の事務処理の効率
     化で大きく短縮できる。

4)BOM(製造部品表/材料表)
専門語で説明したが、BOMはレベル2の生産計画(MRP)とレベル3の原価計算に必要な情報である。BOMに存在する直接材料や部品(仕掛品)や製品は、必ず品目テーブルに存在しなければならない。この意味で品目テーブルとBOMは一対の情報である。BOMは品目情報と共に本社で管理すべき情報である。

なお、BOMは親品目(コード)と子品目(コード)と子品目の必要数量を定義するテーブルである。このため、BOMには多言語化すべきデータ項目ない。

5)工程順序情報
たとえば、ある電子部品の最終検査工程が、目視検査⇒電気特性検査⇒耐熱検査だったとする。この目視、電気特性、耐熱の3つの検査を検査工程の順序、つまり工程順序という。この検査工程に、1000個の電子部品を投入して、初工程の目視で3個がNG(不合格)、電気特性で10個がNG、耐熱で2個がNG、NGは合計15個、合格品は985個となる。もちろん、15個のNG品にはDefect Code(不良品コード)を付けて原因を明らかにする。

各工程の作業内容は、作業指示書(Manufacturing Instruction)に部品のカラー写真を付けて、各部の作業内容とチェックポイントを現地語で説明する。

工程順序テーブルはレベル2の工程管理に必要な情報である。この工程順序テーブルから直接労務費と金型・治工具費を積算し、品目テーブルの原価データに記録する。このため、レベル3の原価計算には品目テーブルとBOMが必要だが、工程順序テーブルは不要である。

稼働中の機械設備が故障した、あるいは生産計画の結果で1台の機械の生産能力を超えるといったトラブルが発生する。このとき、即座に代替の機械や作業の外注で対処することが大切である。大規模なトラブルでは、代替工程を海外のグループ工場に求めることもある。

予期せぬトラブルに直面しても、常に工場の安定稼動をはかる。このために、工程負荷の平準化と生産のスケジューリングはどこの工場にとっても大きな関心事である。余談になるが、2000年初頭からソフト業界がこぞって売り出した「スケジューリングシステム」が日本で話題になった。

当時、画期的なシステムとの触れ込みで、スケジューリングシステムは高価で緻密なパッケージソフトだった。しかし、実際には高度過ぎて使い勝手に問題とのこと、筆者は導入例を聞くが成功事例を耳にしたことがなかった。なぜ、成功例が話題にならないのかと疑問をもった。

余談になるが、2003年秋に筆者は、アメリカのある大学で「スケジューリング」の講座を見つけた。早速、E-mailで聴講(Auditing)を申込んだ。3日後に「More than welcome(大いに歓迎)」との返信を得て、早速、大学直営のホテルを手配した(大学のホテル・レストラン管理学部直営のキャンパス内のヒルトン)。

開講直前に残念ならが「実績に疑問があるトピック(主題)のため開講は中止」になった。しかし、折角のチャンス、「スケジューリング」を「Computer Aided Manufacturing」に変えて、他の講座と合わせて合計5講座、2ヶ月間、フルタイム(Full-time)の聴講を無料で終えて帰国した。

筆者の知る範囲だが、アメリカの大学では、机に空きがありかつ講座の先生の許可があれば四年制/大学院を問わず聴講可能、学歴不問、65歳以上は無料、ただし大学により州内居住者の65歳以上に限り無料とか条件は異なる。私大は不明。市民と大学の距離は短く、この制度もアメリカらしくおもしろい。「門をたたけ、そうすれば、あけてもらえるであろう(Knock, and the door will be opened)」(7-7、マタイによる福音書、新約聖書、Matthew, Oxford/Cambridge Press, 1970)

以上、余談を交えてレベル0の生産基礎情報をグローバル化の観点で説明した。

この生産基礎情報はコンピューターのハードとソフトに依存している。この意味でレベル0を支えるシステムに求められる要件は次のとおりである。

 ◇システム障害の回復手順とバックアップ体制
  例:本社IT部門が中心になって現場を指導、時には現場への人的支援を実施(アメリカ)
 ◇自然災害への対策
  例:コンピューターのオペレーションを山奥の岩盤上の専門会社に委託(アメリカ)

次回は、レベル1の購買、在庫、受注管理の説明に続く。


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グローバル工場---機能の階層(2):コード表がデータベースの土台

2012-01-09 | ことばとグローバルシステム

前回のグローバル工場---機能の階層(1)の続き。

2.機能階層図の説明
下の図は、工場機能の階層図である。この図は、単独の工場や国内外で稼動している工場群にも当てはまる。図に示すレベル0はレベル1の必要条件、レベル1はレベル2、レベル2はレベル3の必要条件になる。このピラミッド型の階層図で、階層の上下関係や中身に誤りや欠陥があるとき、工場の運営にトラブルが起きる。

レベル0や1の管理が不十分にもかかわらず、いきなりレベル3の原価・利益管理を目指して高価なパッケージソフトを購入し、導入に失敗した。このようなトラブルはタイの日系工場でよく見かけるケースである。パッケージソフトは高級だが、自社の運用体制がそのソフトウェアーに付いて行けない、いわば砂上の楼閣が失敗の原因である。ソフトウェアーを買う側と売る側双方の判断ミス、結果として双方ともに大きなダメージを受ける。

このようなトラブルを避けるため、国内外の長年にわたる経験を下に示すピラミッド型の図形に要約した。ここでは、日本の製造業の健全なグローバル化を願って、失敗例を示しながら各レベルの内容を説明する。

                         工場機能の階層図
     出典:筆者著“生産管理の理論と実践”COMM Bangkok、2010

(1)レベル0:生産基礎情報
レベル0の情報は工場管理に必要な基本的な情報である。レベル0は、工場の土台に当たる部分であり、このレベルなしにレベル1の機能は成り立たない。

1)コード表
先ず、上の図の右端のコード表、言い換えれば“略語集”から説明する。

コンピューターに関係なく、昔からコード表は、製造業、商社、金融業、学校、官公庁など、あらゆる組織にとって最も重要なデータだった。コード表があってはじめて、データベースを構築することができる。

製造業に必要なコード表は、国コード、通貨コード、材質コードなど、その種類は100以上になる。それらは、勘定科目コード、部門コード、社員コード、海外工場との共通コード(e.g.品質等)など、製品開発、営業、製造、品質、購買、物流部門に亘るコード表である。(多くのコードは他の社内外データベースと共通するので追加・変更・削除(=メンテナンス)には要注意)

言うまでもなく、コード表は業務システムの土台になる重要な情報である。昔は、火事になればまずコード表と売掛帳を持ち出せと云われていた。

コンピューターの時代ではコード表の設計とメンテナンスにおいては、次の点に留意すべきである。
①自社だけでなく、取引先や業界とコードを共有するコード設計⇒ISOやJISコードの使用
②特殊文字(カタカナや特殊記号)を回避したコード設計⇒コード表の一元管理で海外事業所と共有
③無意コードと有意コードの違いを考慮したコード設計⇒コードの長寿化/オーバーフローの回避
 【例:無意コード:Meaningless Code(e.g.数字連番)、有意コード:Meaningful Code(e.g.JPN日本)、
  混合コード:Mixed Code(e.g.無意+有意コード) 】
④コードとコード表の計画的な追加・変更・削除⇒新旧コードの並列運用(約2年の運用経験あり)

コード表を大きく分けると次のように分類できる。

A.社外のコードを活用するコード表
この種のコードは、ISOやJISの国コードや通貨コード、計量単位コードや産業分類コードである。世界で広く使われているJPNやUSA、m(メートル)、kg(キログラム)などは、そのまま利用できる。これらのコードは略語や記号であり、国コードの国名は英語の公式名である。

ISOやJISの他に、EDI(Standard for Electronic Data Interchange)のコードも国際的なコードである。また、NAICS(North American Industry Classification System)の業種分類コードは、顧客や仕入先の業種分類に利用できる。

ここで忘れてはいけないことは、これらのコード表はグループ企業の共通コード表という点である。日本の視点だけでなく、アメリカやタイ工場の顧客や仕入先の国コードや通貨コードも登録しなければならない。このような点でも、企業のグローバル化が進むとき、共通コードのメンテナンス(追加、変更、削除)に漏れがないよう本社と関係企業の間で双方の守備範囲を取決める必要である。

たとえば、製品コード(品番)も自社と取引先の共通コードである。製品カタログは自社と顧客(不特定多数のエンド・ユーザー*を含む)との共通言語(コード)である。筆者の経験だが、製品コードの変更(有意コード⇒無意コード)は長期に亘る作業だった:製品と補修部品(一部は中間加工部品)併せて十数万点以上、補修部品の供給打切りに規程無し(製品寿命が数十年のケースも稀でない)という状況だった。世界各国の取引先に事前予告(数年前)⇒新コードへの移行開始⇒新旧コードの運用(取引先&顧客との受注・出荷:2年間継続)⇒旧コード体系廃止でコード体系刷新を完了した。このコード体系変更には国内営業と海外営業の協力を得た。
【*参考:エンド・ユーザーは極寒地から南海の島嶼(トウショ)に分布、製品の故障・修理不能は、時には生命を脅かす恐れも想定した。参考:内外取引先へのコード体系変更予告から新旧コード並列運用打切りまでの10年、グローバル工場---機能の階層(5):日本初のMRP(2012-02-25)

B.社内で決めるコード表
大多数のコード表はこの種類のコード表である。製品分類コード、材質コード、顧客分類コード、顧客注文タイプコードなどは、グループ企業の技術規定、品質基準、会計基準、人事規定など、社内のルールとして定義するコード表である。

新しい素材、製品、事業の展開にしたがって、新しいコードが発生するのでコード表のメンテナンスも忘れてはいけない。

C.外国の法制度を反映すべきコード表
社内で決めるコード表の中には、関係国の法制度や商習慣を反映すべきコード表がある。典型的な例として、グローバルな勘定科目一覧表(Chart of Account)を説明する。

海外の子会社を含むグループ企業の連結決算をできるだけ自動化したいとき、グローバル勘定科目コードを導入する。全社共通のグローバル勘定科目コードを導入すれば、システムの工夫によって関係会社の財務状況を任意の時点で照会することができる。これにより、グローバルな経営視界の改善(Improvement of Management Visibility)が可能になる。平たく言えば、グループ企業の財務状況が丸見え、いい方は悪いが相手のポケットに手を入れることができる。

実例では、経営視界の改善を目的とした勘定科目のグローバル化で、海外子会社の月末締め処理と本社への決算報告作業が激減した。人員削減が目的ではなかったが、結果的には25%も人員が減少した。このケースでは、会計の人員を無理に削減したというより、やることがなくなったといった感じだった。アメリカ本社への報告は、月末恒例の徹夜に近い作業だったが、その作業が殆どなくなった。ねじり鉢巻で頑張ったあの作業は一体何だったのか?との思いもあった。一方、タイの日系企業では、月末のねじり鉢巻は今も続いている。

グローバル勘定科目の導入では、たとえば進出先がアメリカやタイの場合、勘定科目もその国の法制度に対応しなければならない。たとえば、アメリカの場合では「給与-陪審員休暇:Salary - Jury Duty」や「給与-軍事徴収休暇:Salary - Military Leave」などと日本では使用しない経費の勘定科目コードが必要になる。

経費関係ではさまざまな残業手当、日本特有の住宅や通勤手当など、資産勘定ではWrite-off/Write-up(ライトオフ/ライトアップ:資産の消却/資産の評価増・・・いずれも日本では認められなかった)など、さまざまなケースへの対応が必要になる。実際には、科目コードの頭1桁で国別のブロッキング、または、勘定科目毎に「日本では不使用」とのコメントで対処した。

また、個々の勘定科目コードの中身については各国固有の法制度や商習慣があるので、その国の専門家のアドバイスが必要になる。たとえば、タイでは、税法上の固定資産は「1年を超えて使用する資産はすべて固定資産とする」となっており、減価償却も日割り計算である。厳密にいえば、事務用の鋏やカッターナイフも減価償却の対象になる。これでは、固定資産の管理が複雑になり混乱する。このような問題については、現地の公認会計士のアドバイスと他社の動きを参考に対処すべきである。同時に、今後の勘定科目の設計では、国際会計基準(International Accounting Standards)を視野に入れて検討すべきである。

さらに、グローバル勘定科目のタイトル(名称)は、多言語化すべきである。日本本社の連結財務諸表は日本語だけでも通用するが、アメリカやタイに進出した工場が現地法人として官公庁に提出する書類は現地公用語でなければならない。

 Account Number  Account Title   勘定科目名  Account Usage    
 4010015         Expenses: Water  経費:水道    Monthly water bill, Bottled water

上のサンプルでは、Account Number=グループ企業共通勘定科目コード(番号)、Account Tile=名称(英語)、勘定科目名=日本語名(現地公用語)、Account Usage=使用方法(英語)を示している。進出先国の官庁への決算書類は、英語/現地公用語の対応表で対処できる。

上のサンプルのAccount Usageは、グローバル企業の場合、英語だけで十分と考える。

D.英語だけのコード表
実用上、コード名称の多言語化が困難なコード、必然的に英語だけのコード表がある。

どこの工場でも、工程ごとに仕上り品の品質を判定する。不良品の場合は、不良品コードを付けて生産管理部門に報告する。ここでは、その不良品コードをDefect Code(デフェクト コード)として説明する。

加工した部品や完成品の不具合、たとえば傷(Scratch)やひび割れ(Crack)は、職場別に定義されたコードである。機械加工、表面処理、塗装、最終検査などの工程別の不良を示すDefect Codeは、多種多様、コード表に登録する不良品コードの数は多い。また、それらのコードは、工程を担当する誰もが理解すべきコードである。

タイの場合は、外注工程はタイだけでなく近隣諸国に広がる。このため、コードは短い英数字、名称はどこの国でも通じる簡単な英語になる。一般に、Defect Codeの多言語化は不要、それは英語だけのコード表である。
(もしDefect Codeを多言語化すれば、タイ工場の場合はタイ語、マレーシア語、カンボジア語、ベトナム語などが必要になる。たとえば、Scratchという意味の一意性を保つためには、英語を標準語として押し通しても問題はない、またその論拠にも一理あると思う・・・この種の英語コードは、一意性を保つ点でローマ時代のラテン書き言葉と類似している。)

E.コード表の管理
顧客の注文タイプコードや支払条件コードやDefect Codeなどは、その業務の新人が最初に覚えるべきコードである。この意味で、日本企業の本社はコード表を世界共通語の英語と日本語で定義して、関係者に周知徹底する仕組み作りが大切である。その仕組みには、コードの追加・変更・削除の申請(現場から本社への流れ)と承認後の周知徹底(本社から関係部門への流れ)がある。

なお、勘定科目の英語/現地語対応表の管理は、その国に任せるのが自然の流れになっている。

ここまで、コード表の要点を説明した。レベル0の取引先、品目、BOM、工程順序の説明は、次回に続く。


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グローバル工場---機能の階層(1):生産基礎情報と多言語Database

2011-12-25 | ことばとグローバルシステム
1.工場機能の階層構造
前回のビジネスモデルを機能別に展開すると、下に示すピラミッド型の階層図になる。この階層図は理論的な機能構造を示すと同時に、その運用には経営戦略が必要になる。

今回は、このピラミッドのレベル間の理論的な関係、グローバル戦略とタイの日系工場でよく見る失敗例を支障のない程度に交えて、各レベルの内容を説明する。

先ず、階層図に出てくる専門語とコンピューター用語を簡単に説明する。

(1)専門語の説明
1)部品表:BOM(Bill of Material)
 機械や家具、衣服を製造するメーカーには、設計図面表(Engineering Bill of Material:略称Eng. BOM)と製造部品表(Manufacturing Bill of Material:略称Mfg. BOM)が存在する。
 データベースの観点でEng. BOMとMfg. BOMが関係する製造販売会社の組織機能を概観すると次のような関係がある。
1.Eng. BOMを頂点とするデータベースの構築&維持管理
  主な関係部門(例)=R&D(研究開発)、製品開発、技術管理、品質管理
2.製品試作を完了したとき、Eng. BOMをMfg. BOMに変換、製品製造を開始する。
  変換作業部門(例)=生産技術、購買、開発部門&製造工場、原価管理
3.Mfg. BOMを頂点とするデータベースの構築&維持管理
  主な関係部門(例)=生産管理、生産技術、製造工場、購買、営業、品管、顧客管理、会計/原価
 なお参考だが、量産品のEng. BOMとMfg. BOMを一体化する生産設計BOM(技術/製造/共通BOM)を構築する動きもあった。しかし当時の処理能力には無理があった。

 ここではMfg. BOM(部品表)に焦点を合わせて説明するが、以下の説明ではMfg. BOMのMfg.を省略して、製造部品表をBOMと略称する。
 なお参考だが、設計図面表の図面は設計図面(単品図面や組立図)、製造部品表の図面は製造図面(加工図や組立図や検査用カラー写真など)である。それらの図面は製図板(drawing board)で手書きした正面図、側面図、平面図(品物を真上から見た設計図面の呼称)などであり、個々の図面は試作から販売打切りまでの(設計)改訂履歴を記した膨大な紙情報だった。
 しかし、1980年代には図面(紙)情報のデジタル化(当時のCAD/CADAMキャド/キャダム:Computer-aided Design/Manufacturing)が進み始めた。このデジタル化で紙に書かれた平面図(2次元データ)は立体図(3次元データ)に進化、x-y-z軸(3次元=立体)にt軸(時間)が加わり動画になった。
 3次元データの活用例は、NC工作機(Numerical Control Machining)や3Dプリンター(3-dimensional Printer: x-y-z軸=3次元)による部品の自動作成、部品の強度/振動解析や各種シミュレーションなどである。「3次元データ⇒NC工作機⇒試作品」の流れは製品開発期間とコストを削減したが、特に期間短縮の効果は大きかった。試作の目的(外観/形状/強度/手触り評価など)にもよるが、月単位が日単位の話しになった。

 製造部品表は外国ではBOM、日本ではBOM、材料表、製品構成表、まれにレシピ(フランス語:工場では金属部品の脱脂液などの成分表を意味する)などとさまざまな呼名がある。
 部品表は、機械製品や衣服などを1個(着)作るために必要な材料や部品の数量をリストにしたものである。このリストでは、製品を親(Parent)、製品に必要な材料や部品を子部品(Component)と名付けて、親子の関係とその必要数量を示している。
 次に子部品を親としてその親部品1個を作るために必要な材料や子部品の数量をリストにする。さらに、次々と子部品に展開(分解)して、すべての子部品が材料になるまで展開したものをBOM(部品表)と呼ぶ。
 部品表は完成品(Finished Good: FG)ごとに試作段階から作成するので、生産基礎情報の中では件数が多いファイル(データのリスト)になる。
 参考だが、たとえば少し複雑な機械製品では、品目数が約100万件(完成品、仕掛品、原材料など、すべての親または子部品を含む)の場合、BOMは約120~130万件(1つの親と子の関係を1件と勘定)程度になる。品目数とBOM数の比が1対1.2~1.3程度になる製品が一般的である。
  
 BOMは、生産計画の資材所要量計算と原価計算に使用する。この計算において、親品目から子部品を辿る計算方法を“部品表展開(BOM Explosion)”という。反対に子部品から親部品を辿る計算方法を“部品表逆展開(BOM Implosion)”という。BOM Explosionの正確な和訳は“部品表正展開”というべきだが、日本では単に“部品表展開”または“部品展開”といっている。
 資材所要量計算(主に生産管理部門が担当)や原価計算(主に会計部門が担当)はBOM Explosionで計算する。一方、BOM Implosionは、子部品の設計変更(材質、形状、特性[e.g.電気/耐温/耐圧/…]、色etc.の変更とコスト変更)が親部品に与える影響を調べるときに使用する。BOM Implosionで得られる情報はWhere-used(使用先情報)であり、主に設計、生産管理、営業(カスタマー・サポート)が利用する。BOMの最新版と変更履歴は製造会社と顧客にとって最も大切な情報の一つである。
 なお筆者の記憶だが、初期(1960年代)のDBMS(Database Management System:データベース・ソフト)の基本機能はBOM Explosion/Implosionだった。70年代にはオンライン端末機で多数のユーザーが同時に一つのデータベースを利用するために高度な排他制御(Exclusive Access Control)が発達、今日のオンライン・データベースに発展した。なお、旧式のデータベースの排他制御はレコード単位だったが、70年代後半には(レコード内の)データ項目の排他制御が可能になり、データベースは実用に耐える技術に発展した。

 MRP(エムアールピー)は資材所要量計画の略称である。日本や諸外国の工場では、略称のMRPで通じる。
 MRPは、1960年代後半にアメリカで開発された生産計画の技法である。当時、IBM社が発表したMRPのパッケージソフトは、コンピューターの高速化、BOMのデータベース化、通信技術の発達とともに、欧米の製造業に爆発的に広まった。以来、MRPは生産計画の代表的な技法として世界の製造業に定着している。理路整然としたMRPを超える技法はまだ出ていない。
 MRPは、製品の日別生産計画をBOMで材料の所要量に変換し、その加工日程を作成する。

3)利益計画と利益管理(Profit Planning and Management)
 工場では、翌年度の販売計画、設備計画、人員計画、経費計画(予算)、為替レート(予測)、製品原価(予測)にもとづいて、利益計画を立案する。
 経営陣が利益計画を承認したとき、販売計画や設備投資と経費予算も承認されたことになる。承認された計画と月々の実績を対比し、工場をコントロールすることを利益管理という。

4)連結決算(Consolidated Accounting)
 親会社と子会社を一つの企業グループとして決算することをいう。具体的には、各社の財務諸表(損益計算書、貸借対照表など)を合算して連結財務諸表を作成する。連結決算の会社間に発生する売上と仕入れは相殺される。
 日本では、1977年度から連結決算が導入された。83年度からは上場企業については持株比率20%以上の関連会社も連結することになった。詳しくは、会計の専門書を参照されたい。

(2)データベースと文字コード
今回は、生産基礎情報で多言語データベースということばが出てくる。ここでは、データベースに関係する用語を簡単に説明する。

1)コンピューターが取り扱うデータ
 コンピューターが取り扱うデータは、数値と文字に分けることができる。
数値は2進数、8進数、10進数、12進数、16進数や整数、実数、虚数など世界共通、しかし文字データは言語によって異なってくる。
 文字データ、たとえば、日本語の顧客名に含まれる文字は漢字、平仮名、片仮名、アルファベット、数字(数値でなく文字)である。
 これらの文字は、一つひとつ異なったコードで管理されている。たとえば、A=41、a=61、ア=A7、ア=B1は文字と番号(16進数)を示している。この文字と番号の一覧表を文字コードという。
 コンピューターの内部では、さまざまな文字コードが使われている。もちろん、文字コードは互いに重複しないようになっている。主な文字コードは次のとおりである。
◇ASCII=アスキー:アメリカの文字コードで128の英数字、記号、制御文字を設定
◇シフトJIS=日本工業規格の文字コードで漢字、平仮名、片仮名、数字、ローマ字、記号を設定
◇ISO-8859-1=ラテン-1と呼ばれる西欧諸語(フランス語やドイツ語)の文字コード、他にISO-8859-2(中央東欧諸語)、3(南欧諸語)、、、16(ルーマニア語)がある。
◇Unicode=ユニコードは世界の文字を網羅しようとする文字コード。アップル、IBM、マイクロソフトが提唱、ISO(国際標準化機構)が1993年に標準化、現在も文字を追加中、絵文字も含む。

2)多言語データベース
 多言語データベースとは、複数の言語から成立つデータベースである。具体的な例として顧客名で説明する。なお、多言語データベースは必然的に多通貨、そのレートは日次管理になる(例:JST11:00更新)。
 前提:標準語=英語、現地語(ローカル言語)=日本語と西欧諸語
    データベース項目=顧客名1、顧客名2、顧客名3および敬称の4つを定義
◇顧客名1(Cus. Name 1)=英語名(正式な英語名がないときはローマ字で会社名を入力)
◇顧客名2(Cus. Name 2)=日本語名(漢字、平仮名、片仮名、アルファベット、記号で入力)
ドイツ語やフランス語の顧客名は、西欧諸語(ラテン-1)で入力
◇顧客名3(Cus. Name 3)=振り仮名(片仮名で入力、顧客名の検索とアイウエオ順の表示用)
顧客名が英語、ドイツ語、フランス語の場合は、このデータ項目は空白
◇敬称(Salut.)=敬称:Salutation(このデータ項目も多言語化:日本語では御中、殿、様を漢字で入力)

【参考】
 以上、顧客名1、2、3で顧客名の多言語化を説明した。実際に顧客データをデータベース化するときは、たとえば、顧客名1に対応する顧客コード(一般に数字コード)を設定、その顧客コードをプラマリー・キー(Primary Key:主キー)として顧客のデータを登録する。データ項目例;顧客名1、2、3、国コード、住所、種別、業種コード、代表者名、通貨コード、取引銀行、窓口(Contact)、、、500桁程度のデータを登録する。データベースの使用目的にもよるが、住所、代表者名、取引銀行、窓口(担当者名&部門)などの多言語化も要検討。

3)ISOコード(イソ、アイソ、アイエスオー・コード)
 JPやJPNは日本を意味する国コード、また、JPYは日本円を意味する通貨コードである。これらのコードは、ISO(International Organization for Standardization) が設定するISOコードである。近年では、多くの日本企業はISOの国コードや通貨コードを利用している。
 他方、日本にはJISコード(Japanese Industrial Standards Code)がある。JISはISOと整合性を取っている。しかし、国コードと通貨コードともにJISとISOの一部に違いがあるので要注意である。

                         工場機能の階層図
    出典:筆者著“生産管理の理論と実践”COMM Bangkok、2010

以下、次回の「グローバル工場---機能の階層(2)」に続く。

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グローバルシステム---現状分析5:改善例2、お客様=王様

2011-11-12 | ことばとグローバルシステム
3-1 業務改善の事例---標準品と非標準品
効率的な生産活動は工場の至上目標と考えられ勝ちだが、必ずしもそうではない。時には、効率化はNG(No Good/No Go:エヌジー:だめ)というケースもある。

よくある話だが、オペレーターチームの努力で生産設備の稼働率が上がった。そこで、そのチームは改善提案制度の努力賞を受賞した。しかし、期末棚卸で、その工程で生産した製品が多量に売れ残っていることが判明した。その原因は生産計画のミスだが、これでは、せっかくの努力賞が気まずいものになる。

このように、製品の売れ行きが悪ければその製品を減産し、最悪の場合は生産を打切る場合もある。

かつて、米国系の工場で採算性が悪い製品を打切ったケースがあった。すでに時効ともいえるが、この話の現状分析の結果と改善策は特異だったので、ここに簡単に紹介する。

(1)専門語の説明
1)顧客満足度(Customer SatisfactionまたはCustomer Satisfaction Index)
  自社に対する消費者の評価を、次の項目について調査する:営業担当者と技術者の対応、アフター
  サービス、製品、販売方法、購入手続きなどの過去、現在、未来の評価
2)顧客ニーズ(Customer Needs and Wants)
  顧客のニーズ(要望)に関する興味深い文章を次に紹介する。
  "The customer is always right if she thinks she is right."(お客様が、自分は正しいと考えている
  限り、お客様は常に正しい)・・・シカゴの百貨店Marshall Field社の従業員マニュアルより
  出典:P.11, Philip Kotler, "Marketing Management," Prentice-Hall, New Jersey, 1967
  筆者注:"The customer is always right,,,"この文章が“お客様は王様(神様)”の原典のようだ。

(2)事例の説明
この事例は、アメリカのグローバル企業の日本工場の話、製品は電子部品だった。

日本で生産する製品は標準品だったが、顧客ニーズに応えて追加加工と細かな性能検査を必要とする非標準の特別仕様品も生産していた。この性能検査には数週間の耐久テストも含まれていた。

また、非標準品の中には、過剰品質と思われるものもあった。しかし、それは顧客の要望であり、要望に応えることがメーカーの務めという考え方が強かった。当然、非標準品は、顧客満足度の向上には貢献するが、手間が掛かる割には、収益性は良くなかった。

そこで、製品を大きく標準品と非標準品に分けて、売上高と作業量を分析した。分析の方法は省略するが、過去1年のデータから工場、営業と技術部門の作業量を推定した。分析の結果、下のグラフに示すような事実が明らかになった。たったの4%の売上に対して、30%もの工数を費やしていると。

                 標準品と非標準品の違い
     

非標準品は、手間の掛かる製品との認識が社内にあったが、その度合いを数値で表したのは初めてのこと、誰もがこのグラフにショックを受けた。

この結果について、さまざまな議論が日米で起こった。もし非標準品を提供しなければ、顧客満足度が低下する。その影響は4%の売上げ減に止まらず、非標準品が入手できなければ、標準品も買わないという負の相乗効果が働き、売上げが10%以上減少するとの悲観的な予測もあった。

改善策
1)改善策は、業務改善ではなく、非標準品の削減に焦点を合わせた。
2)営業と技術から顧客に代替標準品の説明、また十分な時間的な余裕をもって標準品への切替え
  を要請した。この要請は、顧客に不利をもたらせるものではない。また、工場が手抜きするため
  の要請でもない、この2点に理解を求めた。
3)アメリカに出荷検査の強化と新しい高性能の標準品の開発を要望した。

結果
1)少しずつであるが、非標準品が在来の標準品と新製品に切替えられ始めた。
2)それにともなって非標準品に必要な機器と作業が減少、作業スペースにも余裕がでてきた。
3)やがて、標準品の性能も向上し、数年後にはほぼ標準品だけになり、総売上高も以前より増加
  した。

次回は、業務改善には改善の順序があることを示す簡単なタイの事例を紹介する。

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