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グローバル工場---機能の階層(1):生産基礎情報と多言語Database

2011-12-25 | ことばとグローバルシステム
1.工場機能の階層構造
前回のビジネスモデルを機能別に展開すると、下に示すピラミッド型の階層図になる。この階層図は理論的な機能構造を示すと同時に、その運用には経営戦略が必要になる。

今回は、このピラミッドのレベル間の理論的な関係、グローバル戦略とタイの日系工場でよく見る失敗例を支障のない程度に交えて、各レベルの内容を説明する。

先ず、階層図に出てくる専門語とコンピューター用語を簡単に説明する。

(1)専門語の説明
1)部品表:BOM(Bill of Material)
 機械や家具、衣服を製造するメーカーには、設計図面表(Engineering Bill of Material:略称Eng. BOM)と製造部品表(Manufacturing Bill of Material:略称Mfg. BOM)が存在する。
 データベースの観点でEng. BOMとMfg. BOMが関係する製造販売会社の組織機能を概観すると次のような関係がある。
1.Eng. BOMを頂点とするデータベースの構築&維持管理
  主な関係部門(例)=R&D(研究開発)、製品開発、技術管理、品質管理
2.製品試作を完了したとき、Eng. BOMをMfg. BOMに変換、製品製造を開始する。
  変換作業部門(例)=生産技術、購買、開発部門&製造工場、原価管理
3.Mfg. BOMを頂点とするデータベースの構築&維持管理
  主な関係部門(例)=生産管理、生産技術、製造工場、購買、営業、品管、顧客管理、会計/原価
 なお参考だが、量産品のEng. BOMとMfg. BOMを一体化する生産設計BOM(技術/製造/共通BOM)を構築する動きもあった。しかし当時の処理能力には無理があった。

 ここではMfg. BOM(部品表)に焦点を合わせて説明するが、以下の説明ではMfg. BOMのMfg.を省略して、製造部品表をBOMと略称する。
 なお参考だが、設計図面表の図面は設計図面(単品図面や組立図)、製造部品表の図面は製造図面(加工図や組立図や検査用カラー写真など)である。それらの図面は製図板(drawing board)で手書きした正面図、側面図、平面図(品物を真上から見た設計図面の呼称)などであり、個々の図面は試作から販売打切りまでの(設計)改訂履歴を記した膨大な紙情報だった。
 しかし、1980年代には図面(紙)情報のデジタル化(当時のCAD/CADAMキャド/キャダム:Computer-aided Design/Manufacturing)が進み始めた。このデジタル化で紙に書かれた平面図(2次元データ)は立体図(3次元データ)に進化、x-y-z軸(3次元=立体)にt軸(時間)が加わり動画になった。
 3次元データの活用例は、NC工作機(Numerical Control Machining)や3Dプリンター(3-dimensional Printer: x-y-z軸=3次元)による部品の自動作成、部品の強度/振動解析や各種シミュレーションなどである。「3次元データ⇒NC工作機⇒試作品」の流れは製品開発期間とコストを削減したが、特に期間短縮の効果は大きかった。試作の目的(外観/形状/強度/手触り評価など)にもよるが、月単位が日単位の話しになった。

 製造部品表は外国ではBOM、日本ではBOM、材料表、製品構成表、まれにレシピ(フランス語:工場では金属部品の脱脂液などの成分表を意味する)などとさまざまな呼名がある。
 部品表は、機械製品や衣服などを1個(着)作るために必要な材料や部品の数量をリストにしたものである。このリストでは、製品を親(Parent)、製品に必要な材料や部品を子部品(Component)と名付けて、親子の関係とその必要数量を示している。
 次に子部品を親としてその親部品1個を作るために必要な材料や子部品の数量をリストにする。さらに、次々と子部品に展開(分解)して、すべての子部品が材料になるまで展開したものをBOM(部品表)と呼ぶ。
 部品表は完成品(Finished Good: FG)ごとに試作段階から作成するので、生産基礎情報の中では件数が多いファイル(データのリスト)になる。
 参考だが、たとえば少し複雑な機械製品では、品目数が約100万件(完成品、仕掛品、原材料など、すべての親または子部品を含む)の場合、BOMは約120~130万件(1つの親と子の関係を1件と勘定)程度になる。品目数とBOM数の比が1対1.2~1.3程度になる製品が一般的である。
  
 BOMは、生産計画の資材所要量計算と原価計算に使用する。この計算において、親品目から子部品を辿る計算方法を“部品表展開(BOM Explosion)”という。反対に子部品から親部品を辿る計算方法を“部品表逆展開(BOM Implosion)”という。BOM Explosionの正確な和訳は“部品表正展開”というべきだが、日本では単に“部品表展開”または“部品展開”といっている。
 資材所要量計算(主に生産管理部門が担当)や原価計算(主に会計部門が担当)はBOM Explosionで計算する。一方、BOM Implosionは、子部品の設計変更(材質、形状、特性[e.g.電気/耐温/耐圧/…]、色etc.の変更とコスト変更)が親部品に与える影響を調べるときに使用する。BOM Implosionで得られる情報はWhere-used(使用先情報)であり、主に設計、生産管理、営業(カスタマー・サポート)が利用する。BOMの最新版と変更履歴は製造会社と顧客にとって最も大切な情報の一つである。
 なお筆者の記憶だが、初期(1960年代)のDBMS(Database Management System:データベース・ソフト)の基本機能はBOM Explosion/Implosionだった。70年代にはオンライン端末機で多数のユーザーが同時に一つのデータベースを利用するために高度な排他制御(Exclusive Access Control)が発達、今日のオンライン・データベースに発展した。なお、旧式のデータベースの排他制御はレコード単位だったが、70年代後半には(レコード内の)データ項目の排他制御が可能になり、データベースは実用に耐える技術に発展した。

 MRP(エムアールピー)は資材所要量計画の略称である。日本や諸外国の工場では、略称のMRPで通じる。
 MRPは、1960年代後半にアメリカで開発された生産計画の技法である。当時、IBM社が発表したMRPのパッケージソフトは、コンピューターの高速化、BOMのデータベース化、通信技術の発達とともに、欧米の製造業に爆発的に広まった。以来、MRPは生産計画の代表的な技法として世界の製造業に定着している。理路整然としたMRPを超える技法はまだ出ていない。
 MRPは、製品の日別生産計画をBOMで材料の所要量に変換し、その加工日程を作成する。

3)利益計画と利益管理(Profit Planning and Management)
 工場では、翌年度の販売計画、設備計画、人員計画、経費計画(予算)、為替レート(予測)、製品原価(予測)にもとづいて、利益計画を立案する。
 経営陣が利益計画を承認したとき、販売計画や設備投資と経費予算も承認されたことになる。承認された計画と月々の実績を対比し、工場をコントロールすることを利益管理という。

4)連結決算(Consolidated Accounting)
 親会社と子会社を一つの企業グループとして決算することをいう。具体的には、各社の財務諸表(損益計算書、貸借対照表など)を合算して連結財務諸表を作成する。連結決算の会社間に発生する売上と仕入れは相殺される。
 日本では、1977年度から連結決算が導入された。83年度からは上場企業については持株比率20%以上の関連会社も連結することになった。詳しくは、会計の専門書を参照されたい。

(2)データベースと文字コード
今回は、生産基礎情報で多言語データベースということばが出てくる。ここでは、データベースに関係する用語を簡単に説明する。

1)コンピューターが取り扱うデータ
 コンピューターが取り扱うデータは、数値と文字に分けることができる。
数値は2進数、8進数、10進数、12進数、16進数や整数、実数、虚数など世界共通、しかし文字データは言語によって異なってくる。
 文字データ、たとえば、日本語の顧客名に含まれる文字は漢字、平仮名、片仮名、アルファベット、数字(数値でなく文字)である。
 これらの文字は、一つひとつ異なったコードで管理されている。たとえば、A=41、a=61、ア=A7、ア=B1は文字と番号(16進数)を示している。この文字と番号の一覧表を文字コードという。
 コンピューターの内部では、さまざまな文字コードが使われている。もちろん、文字コードは互いに重複しないようになっている。主な文字コードは次のとおりである。
◇ASCII=アスキー:アメリカの文字コードで128の英数字、記号、制御文字を設定
◇シフトJIS=日本工業規格の文字コードで漢字、平仮名、片仮名、数字、ローマ字、記号を設定
◇ISO-8859-1=ラテン-1と呼ばれる西欧諸語(フランス語やドイツ語)の文字コード、他にISO-8859-2(中央東欧諸語)、3(南欧諸語)、、、16(ルーマニア語)がある。
◇Unicode=ユニコードは世界の文字を網羅しようとする文字コード。アップル、IBM、マイクロソフトが提唱、ISO(国際標準化機構)が1993年に標準化、現在も文字を追加中、絵文字も含む。

2)多言語データベース
 多言語データベースとは、複数の言語から成立つデータベースである。具体的な例として顧客名で説明する。なお、多言語データベースは必然的に多通貨、そのレートは日次管理になる(例:JST11:00更新)。
 前提:標準語=英語、現地語(ローカル言語)=日本語と西欧諸語
    データベース項目=顧客名1、顧客名2、顧客名3および敬称の4つを定義
◇顧客名1(Cus. Name 1)=英語名(正式な英語名がないときはローマ字で会社名を入力)
◇顧客名2(Cus. Name 2)=日本語名(漢字、平仮名、片仮名、アルファベット、記号で入力)
ドイツ語やフランス語の顧客名は、西欧諸語(ラテン-1)で入力
◇顧客名3(Cus. Name 3)=振り仮名(片仮名で入力、顧客名の検索とアイウエオ順の表示用)
顧客名が英語、ドイツ語、フランス語の場合は、このデータ項目は空白
◇敬称(Salut.)=敬称:Salutation(このデータ項目も多言語化:日本語では御中、殿、様を漢字で入力)

【参考】
 以上、顧客名1、2、3で顧客名の多言語化を説明した。実際に顧客データをデータベース化するときは、たとえば、顧客名1に対応する顧客コード(一般に数字コード)を設定、その顧客コードをプラマリー・キー(Primary Key:主キー)として顧客のデータを登録する。データ項目例;顧客名1、2、3、国コード、住所、種別、業種コード、代表者名、通貨コード、取引銀行、窓口(Contact)、、、500桁程度のデータを登録する。データベースの使用目的にもよるが、住所、代表者名、取引銀行、窓口(担当者名&部門)などの多言語化も要検討。

3)ISOコード(イソ、アイソ、アイエスオー・コード)
 JPやJPNは日本を意味する国コード、また、JPYは日本円を意味する通貨コードである。これらのコードは、ISO(International Organization for Standardization) が設定するISOコードである。近年では、多くの日本企業はISOの国コードや通貨コードを利用している。
 他方、日本にはJISコード(Japanese Industrial Standards Code)がある。JISはISOと整合性を取っている。しかし、国コードと通貨コードともにJISとISOの一部に違いがあるので要注意である。

                         工場機能の階層図
    出典:筆者著“生産管理の理論と実践”COMM Bangkok、2010

以下、次回の「グローバル工場---機能の階層(2)」に続く。

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グローバル工場---ビジネスモデル

2011-12-11 | ことばとコンピュータ
1.工場のビジネスモデル

(1)グローバル化の流れ
1990年代から日本の製造業は、「安い人件費」を求めて盛んに東南アジアや中国に進出した。ちょうどその頃、筆者はアメリカの多国籍企業の統合システム(Integrated Business System:日本流にいうとグローバル業務システム)の開発に参加していた。システムの目標は、「アメリカの本社で世界の状況をリアルタイムで把握する=経営視界の改善(Improvement of Management Visibility)」だった。

ふた昔前の話はさておき、今日では世界の製造業の背景は大きく変化した。日本では少子高齢化、他方では地球人口は70億人を突破すると共に途上国の経済情勢も一変した。日本の製造業も「安い人件費」から「戦略的な海外工場管理」の時代、今流にいえば、「グローバル化の流れ」に対応する時代に至った。

そこで、先ずグローバル化時代の工場のビジネスモデルを説明する。なお、システムは専用回線上の多言語一元化DB(Client/Server)である。

(2)専門語の説明
1)マテハン
  マテリアルハンドリング(Material Handling)をマテハンと略称する。工場内で材料や品物を加工
  したり移動したりすることをいう。品物の取り扱いを意味する。

2)見込み生産と受注生産(Production-to-Stock/Production-to-Order)
  見込み生産=販売予測数を生産し、在庫した製品を販売する。量産品の生産形態である。
  受注生産=顧客から受注した製品を生産する。注文生産といい、在庫は持たない。
  製品の販売数量に応じて、見込み生産と受注生産を併用する工場が多い。 

3)加工外注
  材料や部品の加工を外部(外注先工場)に依頼し、加工賃またはサービス料を支払う。
  典型的な例:メッキや塗装など。国によっては、サービス業への法規制があるので、要注意

(3)モデルの説明
下の図は、工場のビジネスモデルを示している。このモデルは、機械、電気、化学、食品、繊維、薬品、家具など、あらゆる業種の工場に当てはまる。また、生産形態として、見込み生産と受注生産に対応している。

図において、受注部門や倉庫部門、あるいは工場自体が国内外の各地に分散しているケースがある。事業所が分散しているケースでもこの図は成り立つ。同様に、図に示す顧客は国内外の個人、販売会社、工場、官公庁などを含み、仕入先は国内外の販売会社、商社、工場、加工外注先などである。

同時に、この図はコンピュータシステムの機能を示している。このコンピュータシステムは、分散型の事業所を集中的に管理する統合システムである。事業所は分散、システムは集中、これがこのモデルの考え方である。

特に、生産基礎情報は一元化データベースでなければならない。したがって、このデータベースには、日本語と英語(共通語)ならびに現地語が共存する。このため、システムは英語を標準語とする多言語システムになる。ただし、現地の官公庁に提出する財務諸表などは、その国の法規と現地語で作成する。

次に、図に示す番号にしたがって、それぞれの機能を簡単に説明する。

     工場のビジネスモデル・・・「生産管理の理論と実践」の「試し読み」の1ページ参照
 出典:筆者著“生産管理の理論と実践” COMM Bangkok、2010

1)見積
  新規顧客の場合は、基礎情報に登録をする。世界レベルの法人価格契約や販売制限をチェックす
  る。顧客名称、住所、氏名(代表者や担当者名)、役職は日英現地語で登録する。

2)受注
  注文書(文書)、Fax、電話、データ伝送、インターネットによる注文に対応する。

3)生産計画
  グローバル生産計画で各工場の生産枠を設定、各工場は大枠に沿って3ヶ月計画を立案する。
  グローバル生産計画は、各国の受注と内示と予測を反映し、工場間の生産負荷を平準化する。

4)購買
  顧客と同様、新規仕入先は基礎情報に登録する。名称や住所や支払先(銀行名なども含む)は日英
  現地語で登録する。
  どこの国にどのような製品がいくらで調達できるかといった購買データベースを作成する。このデータ
  ベースで国内外の代替仕入先を開拓し、緊急事態に強いグローバルサプライチェーンを構築する。

5)購入品在庫
  海外から購入する特殊品(特殊な化成品や素材など)は十分な安全在庫を持つ。

6)加工工程
  手作業から完全自動化工程まで、あらゆる種類の工程を含む。工程の種類にかかわらず、工場の
  基本は整理整頓清潔である。この点では、進出先の従業員の躾けが重要な課題になる。  
  また、他工場を含む代替工程の準備は、政変、自然災害、突発事故に対応できる柔軟なサプライ
  チェーンの構築に不可欠である。この点は、船団方式を好む日本企業の今後の課題である。

7)最終工程
  加工工程と同じであるが、最終工程(または最終検査工程)を終えた品物を完成品または製品と呼
  び、完成品倉庫に移動する。

8)完成品在庫
  完成品または製品の在庫である。

9)出荷
  完成品を顧客に出荷する。進出先の国内顧客への出荷と売上の計上については、国別の商習慣
  や税法を考慮しなければならない。
  製品や国にもよるが、代金引換(Payment on Delivery)の出荷もある。

10)その他
  会計処理では、世界共通勘定科目にもとづき日本本社と進出先国の財務諸表を同時に作成する。
  国際会計基準(International Accounting Standard)またはグローバルな社内会計基準が必要に
  なる。

次回は、このビジネスモデルを機能の階層図に変換して、議論を進める。

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