英語と他の言語(9)から続く。
(7)言語教育の在り方
船乗りとして海外に船出して以来、今日まで多くの国のことばに接してきた。ことばは、その地の風俗習慣、人々の日々の生活そのものである。南の国や北の国の街並みとそこを行き交う人々、通りを流れる食べ物の匂い、人々の話し声や呼び声にその国を感じる。
毎日、当たり前のように使っていることばだが、ふと考えると、言語に関する多くの知識が欠落していることに気付く。なんとなく分かっているようで何も知らない、もう少し勉強しておけば良かったと今になっていろいろな思いが浮かんでくる。そこで、その思いを、1)世界の言語とコミュニケーション、2)世界共通の理論と言語、3)言語の生涯教育の3つの項目にまとめた。
1)世界の言語とコミュニケーション
人類の歴史は、おおよそ400万年と言われている。約400万年前の類人猿は、約50万年前のジャワ原人、約20万年前のネアンデルタール人、約3万年前のクロマニヨン人などへと進化を重ねた。その進化の過程は、高校の世界史に説明がある。
クロマニヨン人は、現代人とほぼ同じ体格、大脳の容積も約1,500cc(ゴリラは約500cc)、彼らは現代人の祖先といわれている。この頃には、人類の特徴としての二足歩行、火の使用、道具の制作、言語の使用はもちろん、死者の埋葬も行われていたという。
現代人の祖先たちは、約1万年前に採集・狩猟から農耕・牧畜社会に移行し、生活が安定し始めた。衣食住の安定と共に、文化的な活動をする余裕も生まれたと容易に想像できる。
文化的な活動の基本はことばと文字であるが、文献によれば、絵文字や楔形文字の歴史はせいぜい5,000年程度と比較的新しい。文字より先に発達したと思われる言語については、記録がないのでハッキリしない。
現在、この地球上の存在する言語の数は、5,000から7,000と言われているが、正確な数を把握できないのが現状である。しかし、これらの言語はインド・ヨーロッパ語族、ウラル語族、セム語族など、20~30の語族に分類できるとのこと、その作業は現在進行中である。
一方、それらの言語が使用する文字の種類は意外に少ない。中西印刷株式会社の「世界の文字」によれば、現用文字は28種類、歴史的文字は98種類とある。たとえば、ラテン文字の現用(現在の使用地域)は「ほぼ全世界」とある。日本文字は当用漢字・ヒラガナ・カタカナの混合体で現用は「日本」となっている。しかし、文字の分布と流れはコンピューター・ネットワークによる情報流で大きく変化していくと考える。
ここまでは人間同士の言語、いわゆる言語学(人文科学)の話だったが、今後は人間と機械のコミュニケーションや新しいタイプの翻訳ソフトも考えなければならない。これは、言語学が人文科学から科学技術の領域に進展することを意味している。
すでに、人類は1950年代からコンピューター言語を開発し、今やその数は200以上になっている(このブログ、2011-06-04参照)。この間に、文字コード体系も多くの言語に対応し、多言語データベースも実現した。これらの機械語(Machine Language)は、人工知能を介して人間とロボットやロボット同士あるいは人間と動物との間を取り持つ高度な翻訳ソフトに進展すると思われる。
現代人の言語と文字の系譜と今後の動向を、「世界の言語とコミュニケーション」として分かり易く解説する科目が義務教育に必要と考える。その内容は、従来の人文科学にとどまらず、コンピューターと通信技術の領域にも踏み込む科目であり、グローバル化に向かう日本人にとっては必須知識である。
次回の2)世界共通の理論と言語に続く。