徒然刀剣日記

刀剣修復工房の作品・修復実績と刀剣文化活動のご紹介

刀剣外装の修復と再現

2015-11-27 04:52:38 | 拵工作
破損した刀剣の修復です。



まずは外装の修復を施しました!

今回の拵えは、幕末期から明治にかけて流行した突兵拵です。
突兵拵は、慶応二年に幕府によって開設された陸軍所で盛んに用いられました。陸軍所は、前身の講武所を吸収して開設されたものの講武所の因習を引き継ぐことなく西洋式(フランス軍式)の教練を採用しました。
兵隊は、格式ある武家の出身者が大半で、教養と武術に優れた最後の幕臣で構成されていました。彼等は洋服を着用し、刀をバンドに吊り下げ皮サックに落とし差しにするよう指導されたこともあり、講武所時代に流行した新々刀をそのまま用いると教練にも支障を来たすため、やむなく愛刀を磨り上げて二尺程度に加工しました。その時に考案された外装が突兵拵なのです。洋服での着こなしが楽なようにコジリの先端を尖らせ、くり型の変わりに丸環をつけるなどが鞘の特徴です。西洋式の教練では、日本刀を用いる機会が極めて少ないことから、講武所時代には大変強固に作られた柄前は姿を潜め、柄前は非常に簡単な作りこみになっていることも突兵拵の特徴の一つです。

そんな突兵拵の中でも、群を抜いて高級将校が用いたであろう格式の高い拵えが今回のご依頼です。



しかも、状態は完璧に近いカタチで、当時の空気を宿しています。
残念な事に柄前は破損が著しく、修復は断念せざるを得ません。そのため、当時の空気感を失わせずに、柄前を全く新しく作成します。



これは簡単な様で、最も難しいご依頼の一つです。

まずは状態の確認です。



ほうの木の柄下地に印籠刻みを施し、縁頭には銀を着せて、全体を呂漆で仕上げています。形状の美しさに暫し見惚れました。



柄は亀裂が入り、もはや機能を失っています。
残念な事に、柄側の切羽が合わせ物のため、全体のバランスが崩れています。
ここまで緻密に完成された外装になると、切羽一枚でもトータルバランスに影響を及ぼします。

今回は、依頼者様ご提供の柄頭と目貫のみ採用させて頂き、柄縁は当方にて新規で作成しました。合わせ物の切羽もやむなく使い回します。
ご提供頂いた柄頭が一回り大きい事と合わせ物の切羽が若干大きめな事で、全体のバランスに与える影響が甚だしく、柄成の調整と柄縁の微調整で何とか美的センスと強度を保ちたいと思います。

ここからは、幕末の職方との知恵比べです。
突兵拵の最大の弱点は、柄前の脆弱性にあります、トータルバランスを崩さないように刀剣を生かす柄前を作りこんでいかなければなりません。
設計上の完成イメージは、突兵拵の欠点を補いつつも幕末の空気感を失わず、気品と武家の最後の輝きを宿した外装に仕立て直すことです。

そして出来上がったのが、以下の突兵拵です。



柄の長さをより実戦的に仕上げるため、若干長めに作り替えました。



柄糸を鮮やかな茶系統に染色し、青貝散しの鞘との相性を微調整しました。



柄縁は、他の刀装具との調和を図るため鑢目仕上げとし、色揚げでは光沢感を調整しました。



日本刀が最後に行き着いた一つの終着点である突兵拵を、新たな視野を吹き込むことによって再現してみました。



Before & After の柄前、指し表側。



Before & After の柄前、指し裏側。



作業開始時の記事。
柄下地(サブブログ「伝統工芸職人って」より)



作業中に鞘について思ったこと・・・。
青貝散し(サブブログ「伝統工芸職人って」より)



テラーメイドの刀装具の記事。
銅(サブブログ「伝統工芸職人って」より)
柄下地ありきの柄縁(サブブログ「伝統工芸職人って」より)



鮫着せ工作時の記事。
鮫着せ(サブブログ「伝統工芸職人って」より)
柄下地の厚み(サブブログ「伝統工芸職人って」より)



最大の特徴は、柄成です。
柄成というのは刃方峰方の形状だけをいうのではありません!
下地の重ねの平肉置きにも最大の注意を払い、使用時の力のかかり方、刀身の殺傷力を最大化するバランスの取り方などなど、「実用の美」を具現化する装置としての機能を持たせることがポイントです。
左側の柄前が今回のお刀です。右側の短くて太い柄前が、他の現代作家さんがお作りになった一般的な柄前です。

次は、刀身の修復に取り掛かります。
南北朝期の名刀ですので、刀身の研磨にも大変な慎重さが要求されます!

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