20年以上前の事
談志が地方公演で居眠りをしていた人を追い出した事がある。
追い出された人が訴訟を起こし広く世間に知れ渡るニュースとなった。
この後、寄席ではこれがよくくすぐりとして使われている。
「ええ、ここは憩いの場ですから、まあお疲れの方もいらっしゃるでしょう。遠慮なくお休みくだすって結構ですよ。私は追い出したりそんな野暮な事はしやせんから」
事件を知っている客は大笑いだ。
談志はよく客についての文句を言う咄家でもあった。
出来が悪いと平気で
「客が悪りぃ」
昔の音源で幾つもそれが確認できる。
新宿末広でトリを取った時にはその反応の悪さにこういっている。
「あいつら前のこん平でゲラゲラ笑ってやがるんだ」
まあ高座は客と共にあり作品(談志曰く)は一人で作るもんじゃないのは解るが不出来を客のせいにするのは如何なものか。
紀伊国屋ホールの落語界で小さんがトリを取った時の事だ。
小さんは騒がしく語るタイプではなくどちらかというと抑え気味に話すからホールはシーンとしていた。
少し聞き取りにくいくらいだった。
演目は”ろくろっ首”
静かな中にイビキが聞こえてきた。
これが寄席ならさほど気にならないだろうがホールは響くのである。
暫くイビキの中で話は進んだが恐らく小さんにも聞こえていただろう。
勿論小さんは淡々と”ろくろっ首”を演じていた。
元々笑わそうとする芸を嫌う小さんだからお構いなしだったのかもしれない。