読書日記 嘉壽家堂 アネックス

読んだ本の感想を中心に、ひごろ思っていることをあれこれと綴っています。

同胞(はらから)

2006-08-07 23:09:54 | 観た、聴いた
山田洋次監督の映画である。
昭和50年度芸術祭参加・松竹創立80周年記念映画、なのである。

先日、倍賞千恵子のコンサートに行って、久々に思い出したのである。

-あらすじ-

岩手県松尾村の青年会の会長・斉藤高志(寺尾聡)のところに、統一劇場の河野秀子(倍賞千恵子)が訪ねてくる。冬3月、雪の世界である。
河野は高志に統一劇場のミュージカル「ふるさと」を青年会が主催してみないか、と進めにきたのであった。

高志は、青年会の理事会に諮った。理事会はもめにもめた。
議論を重ねるうちに、そして好きだった女の子が東京へいってしまったこととあわせて、徐々に高志はぜひ主催してやってみたいと思い始める。

青年会の議論を実にゆっくりとまとめ、いよいよ上演へ向けて動き始めるが、さまざまな問題が青年会を待っていた。

そしていよいよ上演。大成功のうちにミュージカルは終わる。

そして河野はまた別の青年会へ、松尾村の青年会の会員たちは、またもとの生活に戻るが、やり遂げたことの幸福を実感している。

と、まあ実にありふれたといえばありふれた、物語なのである。
が、実に心を打つ物語でもあるのだ。

私が始めてこの映画を見たのは「東京」である。
そのころ浪人であった。
そして次にこの映画を見たのは、浪人から脱しきれないでこれからどうしようかと思っているころであった。で、この映画を見て「帰ろう」と決めたのである。

田舎の青年会の純なすがたというかスマートでないことにホッとしたこと。
折々に映し出される自然(山、川、田、畑)、未舗装の道路、すばらしく自然な空の色、雨、雪、暗い夜・・・・
あー、帰ろう。と思ったのである。

ラストのシーンで、高志から河野への手紙が読まれるが、そのなかで
「・・・それが(充実している時間)幸福なのではないか、と、愛ちゃんはいいます・・・」
というところがあるが、充実している時間をすごしていなかった私には、ショックでありました。

都会には向いていないんだ、とも思い始めたころですから望郷の念は強まるばかりです。

寺尾聡は後年「ルビーの指輪」という都会っぽい歌大ヒットさせますが、松尾村の青年会会長にピッタシです。鈍く、まじめで、コツコツと働く朴訥な青年、そのものであります。この人はこういう役が似合います。

松尾村の青年たちは、どの人が本当の役者でどの人が現地の人なのかよくわからないくらいです。そして彼らはそれぞれ個性をちゃんと持っていて、それがとってもよく表現されています。

劇中劇、となる「統一劇場」のミュージカル「ふるさと」もよくできたお話で、松尾村の人たちも身につまされ、劇に引き込まれていきます。

私は、その後、青年会にも入り活動をしました、それなりに。
統一劇場を呼ぶこともなかったけれど、劇は2回ほど見ることができました。

で、この映画を見ると常に泣けるシーンがあります。
統一劇場のミュージカルの中で、都会と田舎についての歌、みたいなものがありますが、その劇から、都会で働く高志の同級生や好きだった女の子(市毛良枝)の姿にオーバーラップしているところ、です。

田舎には夢がない、と東京へ出て行った若者たちの大部分が、さらに夢のない生活をしている。そんなところが、なんだかとっても泣けるのです。

この映画はみんなから支持を受けるものではないと思いますが、私は生涯第1位の映画なのです。
コメント
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