読書日記 嘉壽家堂 アネックス

読んだ本の感想を中心に、ひごろ思っていることをあれこれと綴っています。

パイロットフィッシュ 大崎善生 角川文庫

2006-08-14 19:55:49 | 読んだ
暑さも少しおさまり、というか朝などは「寒い」くらいになったので、やっと本を読もうかなあという気持ちになった。
それに、初盆、ということもあり、家で待機をしているので、来客の合間合間に読んでいる。

ということで、大崎善生の小説を初めて読んだ。
「年代が同じ」ということから「その気持ちはよくわかる」ということが多い。

物語そのものは、私とはゼンゼン別世界のものであるが、そこに描かれている人びとについて理解することができる。

主人公の僕(山崎)は、村上春樹の小説に出てくるような「人」である。

山崎に旧友の森本から電話があり、そして昔の恋人由紀子からも電話がある。
そして、山崎の回想と現実とが入れ替わりに語られていく。

回想では山崎は20代、そして今は41歳。であるが、回想も今も物語としては「青春」である。
山崎は、今でも青春なんだろうなあ、と思った。

彼も仕事を通じて社会と折り合いをつけ生きているのであろうが、その心の中は「青春」のままなのではないか。そう思うとなんだかうらやましい。
こちらは折り合いをつけているうちに、青春、なんて失ってしまった。

題名の「パイロットフィッシュ」とは、熱帯魚であり、水槽のなかをいい状態にするため=健康な生態系を作るために用いられるものだそうである。そして、このパイロットフィッシュは、その生態系を作ると捨てられてしまう魚なのだそうだ。

山崎にとって重要な人物の「死」がこの物語あるいは山崎の人生のおおきな転機となっている。
それは、本当に大きな「死」である。
彼らは山崎にとってのパイロットフィッシュだったのか?

私とは全然接点のない世界であり、この物語が本当の話だとしても、直接「話」として聞くのはなんだかイヤだけれど、文章・活字・物語としては心の深いところに入り込んでくるものであった。

大崎善生、ちょいと見直した。
コメント
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